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転んだ人を見た

久しぶりに転ぶ人を見た。この人転ぶなと思った瞬間転んだので、私が転ばせたと言っても過言ではない。転ばせると言えばバナナの皮か私かの二択と言っても過言ではないかもしれない。
転ぶ人は、転んだと思った瞬間もう立ち上がっていた。素早い人だった。そしてそこまで人通りもない小道だったので、転んだところを目撃したのは私だけだった。転んだところを目撃したというよりは結果的に私が見たら転んだから私が転ばせた、いわば私がバナナの皮ということではある。だからその小道には転んだ人(言い換えれば転ばされた人)と私(言い換えればバナナの皮)しかいなった。恥ずかしさの度合いでいえばどうだろう。やはり新宿アルタ前のチェーンに足を引っ掛けて転んだことがある私の方が恥ずかしいは恥ずかしい。でも新宿アルタ前のチェーンに足を引っ掛けて転んだ私のことなんて、東京の人はだれも見ていなかったと思う。みんながアルタ前でタモリタモリと思いながら歩いているような、そんな時代だった。
しかしきょう転んだ人は転んだままころころと転がりもせずよくもまぁあんなにすっくと立ち上がれたものだ。突然立った赤子のような、物音に警戒するリスのような、スッとした立ち方だった。さも私は転んでいませんというような顔でスタスタと再び歩き始めていた。転び慣れているのかもしれない。きっとそうなんだろう。じゃなきゃあんな、部屋で勉強するって言いながらゴロゴロして漫画読んでたら親が入ってきた時の高2みたいな立ち上がり方できないもんな。
転ばないように足首を柔らかくしていこうと思った日。


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