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JOG(51) 冷酷なるハト派

 米国人と違って、海外にいる日本人は、いざという場合には、自分の国をあてにできず、自分の身は自分で守るしかないのが現実だ。


■1.国民を守らない国家■

 1998年4月のインドネシア暴動のおり、ジャカルタ郊外にある日本人学校で、約一千人の生徒や児童らが、校内に取り残されたまま、夜を過ごした事件は、まだ記憶に新しい。暴動のターゲットは華僑に向けられ、日本人が直接襲われる事は、あまりなかった。しかし、これがもっと反日的なムードの強い国だったら、どうなっていた事か。

 米国は、三月の時点にはすでに在日米軍の海兵隊が三隻の海軍艦船に乗り込んでインドネシア近海に展開し、いざという場合には、大型ヘリで、艦船までピストン輸送をして米国人を緊急避難させる準備をしていた。その場合、日本人も助けてくれるかどうかは、米国の好意にすがるしかないが、米国人だけで2万人もいるので、その後回しにされても文句は言えないだろう。

 米国人と違って、海外にいる日本人は、いざという場合には、自分の国をあてにできず、自分の身は自分で守るしかないのが現実だ。 「地球市民」などと言う言葉を気軽に使う人もいるが、「地球市民」を守ってくれる「地球警察」や「地球軍」は存在しないのが現実である。

■2.自衛隊機を呼び戻せ■

 昨年カンボジアで内戦が起こった時に、橋本前首相は邦人救出に備える必要があると自ら判断を下し、一部の反対を押し切って、航空自衛隊のC-130輸送機を隣国・タイにまで進出させた。在外邦人の安全を守るために、日本の首相がこういう形のリーダーシップを発揮した例は、これが始めである。今回はこれが前例となって、迅速にC-130輸送機6機をシンガポールに待機させる事ができたのは、せめてもの救いだった。

 しかし、今回ですら、社民党の秋葉忠利政審会長が「社民党には正式な連絡がなく極めて遺憾だ」と抗議し、さらに「『自衛隊機を呼び戻せ』とわめいていた」と伝えられている。[1]

 社民党に相談をして、小田原評定をしているうちに、救助のタイミングを逸して犠牲者が出たら、どう責任をとるつもりだったのだろうか。

■3.鳩山由起夫氏の懸念■

 さらに民主党の鳩山由紀夫幹事長代理は「自衛隊機の準備は否定しないが、民間機で対処が可能だ」と批判的な見解を示し、艦船派遣のための自衛隊法改正についても「全面的に賛成する立場になく慎重に判断すべきだ」と述べた。[2]

 現行の自衛隊法では、輸送機は派遣できるが、艦船はできない、とされており、多数の邦人救出のためには艦船派遣が不可避なことから、自民党が早急な法改正を検討している事に対して、向けた批判である。  ちなみに現在の法律では、輸送機内でも拳銃以上の武器は持ち込めない、外国人は救出できないなどの制約がある。機関銃や手榴弾を持ったゲリラなら、邦人救出中のC-130輸送機を火だるまにするのも、簡単なのだ。また、外国人を救えないのでは、外国との共同救出作戦も不可能である。これでは余程の厚顔無恥でもなければ、米軍に邦人救出を依頼できるはずもない。

 昨年のカンボジアでの邦人救出準備作業のため、自衛隊機がタイに派遣された時、鳩山氏は、「100%平和的な状況になっておらず、これから一触即発の事態も予想される」と言った。

 そこで「邦人保護の為、自衛隊機を派遣すべきだ」と続くのかと思いきや、「(派遣という)行為を否定するつもりはないが、この時期になぜ今という思いがする。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直し問題に絡め、危機管理の状況を自ら作っているという気がする」と結んでいる。

 鳩山氏は、この問題を政争の具としてしか捉えておらず、その主目的たる邦人保護など眼中にないのである。

■4.冷酷なハト派■

 鳩山氏の発言は、西村慎吾衆議院議員の次の文章を思い起こさせる。[4,p201]

__________
 わが国の政治風土では「人にやさしい」などと言っている政治家に人気が集まったりしているが、実は彼らは冷酷なのである。(中略)

 世間が関心を示さなければ、北朝鮮に拉致された日本人がいるのが分かっても、見て見ぬふりをして、自分の政治的パイプを誇示するために、コメを送ったりしてきたのである。

 世界人類の幸福のためにと言った美しい言葉に酔う人ほど、隣人に冷酷に接する人が多いのとよく似ている。キリストは、具体的な汝の隣人を愛せよ、と言ったのであり、世界人類を愛せと言ったのではない。だからこそ、この聖書の言葉は重いのである。わが国の「ハト派」とは、軽薄な偽善者の別名に過ぎない。
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 鳩山議員も民主党結成の時「友愛」などと言っていたが、政争のためには、実際に異国の学校に閉じこめられて、不安な一夜を過ごさなければならなかった日本人の子供たちのことなど眼中にない「冷酷なるハト派」なのである。

■5.「冷酷なるハト派」の犠牲者たち■

 「冷酷なるハト派」の餌食は、在外邦人だけではない。たとえば次のような人々はみなその犠牲者なのである。

・阪神大震災の犠牲者 自衛隊は、京阪神地域で地震に対する備えがまるで出来ていないため、甚大な被害が予想されるとして、共同訓練を呼びかけていたのだが、革新自治体は自衛隊との協力を嫌って、その申し出を無視していた。

・北朝鮮に拉致された人々 日本国内から拉致された国民は、すでに10人を超える。レバノン政府は拉致された自国民を強硬な抗議で取り戻したが、日本政府は北朝鮮に調査を依頼して、そのような事実はないと簡単に否定されたままにとどまっている。

・ペルー事件の被害者 日本大使館が狙われ、招待客中、米人らはすぐ解放された。無抵抗で、「人命尊重」を叫ぶだけの日本人は、テロの絶好の標的である。

・オーム、少年犯罪の犠牲者 加害者の人権のみを主張する人権派弁護士達によって、オームはいまだ存続しており、いつ次の犠牲者が出るか分からない状態である。また少年犯罪の被害者は泣き寝入りである。

 人権、平和の美名のもとに、国民の生命と財産は危機にさらされている。人権も、平和も、それを守ってくれる国家のない所では、単なる美辞麗句に過ぎないのである。

■参考■
(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)

  1. 産経新聞、1998.07.30、夕刊

  2. 産経新聞、1998.05.19、朝刊

  3. 読売新聞、1997.07.12、朝刊

  4. 西村慎吾、「誰か祖国を思わざる」★★★、クレスト社、H9

//////////// おたより ////////////

■ teruhyさんより

海外駐在しています。てっきり住民税を払っていないから守ってくれないと思ってました。(笑)そう言えば、住民税払っていてもミサイルが頭の上をかすめてましたから税金とは無関係ですね。ところで、もしあのミサイルで死んでいたら保険金は支給されていたのでしょうか?もし保険金すら支給されないようなら、国家は国民の資産をも守っていないことになりますね。政治家の皆様は不景気の中ご自分の資産作りに励んでおられ、国民の資産など眼中にないかも知れませんが。。

ともかく、海外邦人の皆様、日本という国家は国民を守ってくれないようですので海外邦人救出保険でも探して加入しましょう。もちろん、保険料は我々国民を愛するハト派の政治家の皆様になんとかして頂きましょう。

■ 編集長・伊勢雅臣より

 保険とは、名(迷?)案ですね。保険にしか頼れるもののない寂しさは感じますが。同胞が力を合わせて、自分たちを護るというあたりまえの国家に早く戻る必要があります。

© 1998 [伊勢雅臣]. All rights reserved.

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