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JOG(1364) 脅迫メールに屈せずに出版された「トランスジェンダー」本が訴えていること

 少女たちが「自分は本当は男性かも」と迷うと、すぐに男性ホルモン注射や乳房切除を勧められるアメリカ社会の実態。


■1.出版中止を要求する脅迫を受けた本がベストセラーに

 出版中止を要求する脅迫メールを受けていた本が、産経新聞出版から4月3日に発売され、即座にAmazonの総合で1位となりました。
『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』です。

 この本はKADOKAWAが発行しようとしましたが、「差別を助長する」という批判や本社前で抗議集会をするという脅迫を受けて発行を中止し、「結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」と謝罪までしました。

 監訳者の岩波明・昭和大特任教授は「海外9カ国で普通に出版されている本の出版をめぐり、なぜ謝罪までしなければならないのか。出版社の姿勢そのものに根本的な問題がある」と発言しています[産経]。そういう本を、脅迫に屈せずに発行した産経新聞出版の言論の自由を守ろうとする気概を高く評価します。

 同時に、自分たちの主張に反対する意見を暴力をもって封じようとするやり方から、結局このトランスジェンダーの活動家たちは左翼過激派と同じ、という正体を自ら暴露してしまいました。

 言論の自由を守り、自由民主社会を維持するためにも、多くの人がこの本を読み、「脅迫などやぶ蛇だった」と彼らに「反省」させなければなりません。以下、弊誌として、この本で共感した部分をご紹介しますので、読者にもぜひお買い求め戴いたり、お近くの図書館に購入リクエストを出すなどの加勢をお願いします。

■2.千倍にも激増した思春期の「性別違和」

 トランスジェンダーとは、たとえば女性として生まれたのに、違和感(「性別違和」)が拭えず、なかには男性ホルモンの注射や、乳房切除手術を受けて肉体的にも男性になってしまう人々のことです。逆に男性に生まれたのに、自分は女性なのではというケースもあります。

 欧米諸国では、性別違和を訴えて〝トランスジェンダー〟を自認する思春期の少女が急増しています。かつては女性に生まれて性別違和を感じる人の割合は1万人あたり0.2人~0.3人、男性の半分ほどでした。それが2017年には1万人の高校生の200人がトランスジェンダーを自認しているといいます。実に1千倍近い増加です。

 特に10代の少女たちが、SNSやYouTubeなどを見て、「自分は本当は男性なのでは」と思い悩み、中には親に黙って、あるいは親の反対を押し切って、ホルモン注射や乳房切除手術を受けてしまうケースも少なくないのです。しかも、学校や医者もそれを止めるどころか、後押ししている状況が、この本では多数の事例で描かれています。

 この本の出版を脅迫した活動家たちは、こういう社会を日本でも作り出そうとしているのでしょう。日本の青少年をこういうテロ行為から守る為にも、欧米社会での悲惨な状況を良く学ばなければなりません。

■3.男性ダンサーとなった少女ジュリー

 具体的なケースを見てみましょう。ジュリーはバレーの得意な乙女チックな女の子で、中学にあがった頃はプロのバレエダンサーになれるかも、と目されていました。性別違和など示したことは一度もありませんでした。

 高校に入ると、友達から教わって、芸術家のためのオンライン・コミュニティをよく覗くようになりました。しかし、そのサイトは大勢のトランスジェンダーがフォローし、コメント欄にはジェンダー思想的なコメントが並ぶサイトでした。また、学校でも別の友人が授業でトランスジェンダーに関する口頭発表を行い、ジュリーの強い関心を引きました。

 高校二年生になると、バレエ仲間から意地悪をされたり、熾烈な競争で悩んだジュリーは月に2、3度、カウンセリングを受けるようになりました。セラピストは、カウンセリングの始めに、まず彼女の好きな名前と、heかsheか、どちらで呼ばれたいかを尋ねました。ジュリーは男性の名前を挙げ、また男性として「he」で呼ばれることを選びました。

 高校3年生になった頃、ジュリーはバレエに嫌気がさし、ひたすら男性への性転換を目指すようになりました。髪の毛を短くし、親にも自分の選んだ男の名前で呼ぶように求めました。実は学校では、親には秘密のまま、すでに教職員も友人たちも、ジュリーの選んだ男性名で呼び、男性として扱っていたのです。

 ジュリーは18歳で家を出ると、低所得者向けの公的医療保険を受けて、男性ホルモンの注射を始めました。親がジュリーを厳しく叱ると、親との連絡をピタリと断ってしまいました。インスタグラムには近況を投稿していましたが、親をブロックして自分の投稿を見られないようにしました。

 親の知人に、ジュリーのインスタグラムを見ることのできる人がいて、その助けを得て、親はジュリーの近況を知りました。
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ジュリーの動画を見ました。乳房切除手術を受けた直後の動画を。病院のベッドに横たわっていて、うれし涙を流しながら、これがどれくらい人生で最高の日かとかそんなことを話していました。
あの子の四百人の応援団が『やったー』とか『すばらしい』とか『ほんとすごいね』とか『あなたならできる』とかコメントしているんです。[シュライアー、p42]
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 その後、ジュリーはレストランで働きながら、ダンスの舞台で男性役を務めています。親との連絡は回復しましたが、招待された舞台では親はジュリーを見つけるのに苦労しました。

 20歳になった今も自分はトランス男性だと頑なに言い張っています。親が長期にわたるホルモン注射の危険性について語ろうとしたら、それについて話したくないときっぱり拒まれました。しかし、親としては、娘(息子?)がまた口を利いてくれるようになっただけでも嬉しいと感じています。

■4.性転換したら幸福になれるのか?

 ジュリーは男性に性転換して、幸福になれたのでしょうか? そうかも知れません。しかし、そのまま女性としてバレリーナの道を歩んでいたら、女性の体格で男性役をこなす無理はしなくても良かったでしょうし、親との確執も、ホルモン注射の危険を冒す必要もなく、あるいは普通の結婚をして、赤ちゃんに授乳できる喜びを得られたかも知れません。

 一方、男性から女性への性転換は、別のメリットもあるようです。「すでにアメリカじゅうの高校で最高水準にある女子選手が女性を自認する生物学上は男子の選手に圧倒されている」[シュライアー、p235] 本人は幸福でも、その陰に不当な勝負で敗者となる女性選手たちを犠牲にしています。

 かつて最強の女子テニス選手だったマルチナ・ナブラチロワが「女性に転換した元男性選手を女子スポーツで競技させるのは不公平だ」と主張したところ、「トランス嫌悪」とのレッテルを貼られて、スポンサーからも放り出されました。アメリカ中の女子選手が同じ不満を抱きつつも、沈黙させられているようです。

■5.性別違和には別の原因もある

 児童期及び思春期の性別違和を数十年研究してきて国際的な専門家として知られるケネス・J・ズッカー博士は、「性別違和に至る原因はいくつもありうる」と語り、なんでも性転換させてしまうやり方を批判しています。ズッカー博士の診断した100人以上の少年は、性転換することなく、88%が性別違和から脱していました。

 しかし、2015年、博士の働くカナダのオンタリオ州は「転向療法」を禁止しました。性別違和を抱く患者は、みな間違った性の肉体に生まれてきているのだから、肉体の手術をして「本来の性」に戻さなければならない、という考えです。

 それをズッカー博士のように性別違和は別の原因かも、と考えて、すぐには性転換させない、というのは、本来の性に戻ることを妨げる「転向療法」だと言うのです。

 この法律が成立すると、トランスジェンダー活動家たちはズッカー博士が「転向療法」を行っていると糾弾し、勤め先の依存症メンタルヘルスセンターから解任させました。世界中の500人近いメンタルヘルス専門家がズッカー博士の解雇に抗議する公開書簡に署名しましたが、効果はありませんでした。性転換の邪魔をする専門家は、いかに高名でも職を失う、という事が示されました。

■6.女性患者が「自分は男」と感じたら、それは正しい

 アメリカでも、いまや19州が性自認への配慮から、メンタルヘルス専門家が「転向療法」に関わることを禁止しています。そのかわりに、医療従事者が従うべき原則は「肯定ケア」です。

「肯定ケア」とは、女性患者で「自分は男性だ」と性別違和を抱いていたら、そのまま男性だと認め、男性になれるよう処置する、ということです。ジュリーを診察したセラピストが、「好きな名前と、heかsheか、どちらで呼ばれたいか」を尋ねたのは、この一例です。そして、男性を選んだら、すぐに男性になるための第一歩として男性ホルモン注射を勧めるのです。

 しかも、その診断の基準もなく、測定可能な兆候も、確認するための手段もない、単なる患者の感じ方だけを「肯定」するのです。全米教育協会は、次のように、この「肯定ケア」の正しさを訴えています。
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 トランスジェンダーの若者の性自認が肯定されない期間が長くなればなるほど、学校への興味の喪失、酒やドラッグにおぼれるリスク、不健全な精神状態、自殺など、懸念すべき影響は深刻さを増し、短期間では解消できなくなると思われます。[シュライアー、p130]
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 こういう主張を通すためには、88%の少年を性転換することなく、性別違和から救ったズッカー博士のような科学的専門家はとんでもない邪魔者でしょう。活動家たちがまずズッカー博士の職を奪ったのは、彼らの戦術から言えば、必要不可欠のことでした。

■7.「またあとで乳房が欲しくなったら、手に入れればいいの」

 性転換手術を支持している医者で、アメリカでも最も知られているロサンゼルスのオルソン・ケネディ博士はこう言います。
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 わたしたちにわかっていることは、思春期の子供たちには理にかなった論理的な決定をくだす能力があるということです。・・・それに、胸の手術の件もありますね。またあとで乳房が欲しくなったら、手に入れればいいの。[シュライアー、p262]
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 乳房切除手術をして、「あとで乳房が欲しくなったら、手に入れればいいの」というのは、乳房のように見える肉の塊を胸につけることで、それは本当の乳房ではありません。授乳はできないのです。

 この本の著者シュライアーさんは、大学一年生の頃、胸が大きすぎるのに悩んでいました。シャツを着ても、真ん中のボタンがいまにも弾け飛びそうに見えるのがいやだったのです。胸を小さくする手術を受けたいと思いましたが、両親は大反対。いつか子供におっぱいをやりたくなるかも知れないのに、そんな不要な手術でそれができなくなる危険を冒すべきではないと。

 シュライアーさんは、粉ミルクがある現代で、そんな理由はなりたたないと確信していました。しかし、両親の許可無く自分で胸の縮小手術を受ける資金もなく、その計画は頓挫しました。それから、10年後、シュライヤーさんは、こう書いています。
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それから十年あまりがたち、わたしは三人の子供たちを母乳で育てることになる──わたしの人生でもっとも愛情深い仕事のひとつだ。もちろん、新生児に安らぎを与える方法はほかにもあるが、授乳は何よりも効果がある。・・・

 だが、授乳しないことで何かを失うなんて、いまのわたしには明らかでも、思春期のわたしにはまったく思いもしないことだった。[シュライアー、p180]
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 この体験談と比較すれば、ケネディ博士の「思春期の子供たちには理にかなった論理的な決定をくだす能力がある」とか、「あとで乳房が欲しくなったら、手に入れればいいの」というセリフは一人でも多くの青少年を性転換させるための欺し文句にしか聞こえません。

■8.文化マルクス主義から社会と家庭を守るには

 一度性転換して後悔した人々は、「性転換したら幸せになれる」というトランスジェンダー思想は「カルト(邪教)」のようだとよく言います。SNSやYouTube、学校の授業でも、その呪文を唱和し、思春期の少女に「勇気をもって前に進め」などと囃し立てます。

 シュライアー女史のこの著作は、インターネットや学校で、どのような洗脳工作を行い、また止めようとする親を「無理に止めたら娘さんは自殺しかねない」などと脅迫したりする事例がたくさん描かれています。それらはこの本を直接読んでいただくとして、この本から、もう一つ考えたいことは、トランスジェンダー活動家たちは、何のためにこういう活動をしているのか、ということです。

 弊誌は、彼らの目的を「文化マルクス主義」と呼びたいと思います。かつてのマルクス主義は、労働者たちに資本家に搾取されていると吹き込んで、階級闘争を起こし、革命に導こうとしていました。

 しかし、先進国では労働者たちも豊かになり、この戦術が通用しないと知ると、一部の人々は人種・民族差別、女性差別、夫婦別姓、自虐史観など文化面で人々の恨み辛みをかき立てる戦術に転換しました。人々が満足した平穏な社会では、いつまでも革命は起こせないからです。

 LGBTの活動家もその一派でしょう。彼らは「革命」という目的のためには、思春期の少女たちを拐(かどわ)かして、その人生をめちゃくちゃにすることなど、なんとも思ってないようです。「革命のためには手段は正当化される」からです。そして、その実態を暴いた本の出版を暴力で止めようとするのです。

 こうした活動家から我々の社会や家族を守るためにも、彼らの活動でアメリカ社会がどれほど破壊されつつあるかをよく知る必要があります。
(文責 伊勢雅臣)

■リンク■

・マガジン「日本人の世界観で文化マルクス主義から社会と家庭を守ろう」
 このテーマに関連する弊誌過去号記事数編をまとめて読めます。
https://note.com/jog_jp/m/m5bc097bd75f9

■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・シュライアー、アビゲイル『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』★★★、産経新聞出版、R06
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4819114344/japanontheg01-22/

・産経新聞「『批判する人は中身読んでいない』脅迫されたトランスジェンダー本監訳者『学術価値高い』」R060402・

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