聖徳太子が隋の皇帝にあてた手紙から、子供たちは何を感じ取ったのか?
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■1.読めないところはホニャラと読みましょう。■
齋藤先生は授業の冒頭でいきなり黒板にこう書いて言った。「さあ、読んで下さい。読めないところはホニャラと読みましょう。」 小学校6年生の子供たちを先生は列ごとに指名して、順番に読ませていく。
わけのわからなさに笑いが起こる。初夏の風が通う教室は和やかな気分につつまれた。『学校で学びたい歴史』」[1]で紹介されている齋藤武夫先生の授業風景である。
「たいへんよく読めました。ほとんど正解と言っていいでしょう。それではふつうの読み方を教えましょう。」と言って先生は、こう読み上げた。
先生について、子供たちに後を続かせる。その後、子供たちだけで声をそろえて二度ほど読ませる。皆で一斉に読むので「斉読」と呼んでいる。
■2.誰が誰に出した手紙でしょう?■
これは、歴史上たいへん有名な手紙の書き出しです。ある意味で日本の歴史の中で最も重要な手紙だと言えるかも知れません。誰が誰に出した手紙でしょう?
先生の問いかけに、一人の生徒が答えた。「聖徳太子からツツガナキヤさんに出した。」
「中国だと思います」とすかさず、別の生徒が答える。
ここで齋藤先生は、もう一度、手紙の文章を皆で斉読させた。
漢文の歯切れの良いリズムが子供たちの体に心地よく響いてくる。それは聖徳太子の強い意志を伝えるかのようだ。
■3.皇帝はなぜ怒ったのか?■
さて、隋の宮殿に着いた小野妹子は、皇帝の煬帝(ようだい)に天皇からの国書を渡しました。皇帝は手紙を読み始めたとたん「このような野蛮国の無礼な手紙が来ても、これからは私に見せるな」と臣下に言いつけたそうです。この手紙のどこかに皇帝を怒らせる言葉があったのですね。それはどの言葉でしょう。
「なんとなくだけど、<つつがなきや>」と自信なさそうな答。「つつがなきや」は意味が分からないからね。怪しいと思ったでしょう。でも残念でした。これは「お元気ですか?」という意味です。
別の生徒が答えた。「<日出づる処の天子>と<日没する処の天子>です。<日出づる>日本はこれから発展していく感じですが、中国は<日没する>でこれから夜になるみたいです」
「よく考えましたね」と齋藤先生は当時の「冊封(さくほう)」体制について説明を始める。中国の皇帝が一番偉くて、周りの国は皇帝の家来であり、中国に貢ぎ物をして、そのお返しに自分の国の「王」だと認めて貰う仕組みである。
■4.どうして隋の皇帝を怒らせるようなことを書いたのか?■
いよいよ授業は、核心の問いに到達した。齋藤先生は言った。
その授業でいちばんノーミソを使ってほしいところでは書かせるのがよい、というのが齋藤先生の流儀だ。生徒たちは一生懸命ノートに向かう。静かな教室に鉛筆の走る音だけが聞こえる。しばらくしてから挙手している生徒を指名して答えさせる。
言っている内容は似ているが、言い方にそれぞれの子供の個性が出る。
■5.そんなにうまくいくのか?■
「ちょっとみんなに言いたいんですけど」と一人の生徒が反論する。
この反論から、生徒間の議論が始まった。
一人の子供の反論から始まった議論で、子供たちは分かっていたつもりの風景を、反対側からも見るようになった。反論が出せる教室は素晴らしい、というのが齋藤先生の思いである。
■6.聖徳太子の読み■
隋は、朝鮮北部を領土とする高句麗との戦争にてこずっていた。その戦争を有利に運ぶために、隋は日本を味方にしておきたいはずだ、そういう聖徳太子の国際情勢の判断を、齋藤先生は地図を使って説明していく。遠くの国を味方にして、近くの国を攻める「遠交近攻策」という中国伝統の戦略についても説明する。子供たちから「すごいなあ」という嘆声がもれてきた。最後に齋藤先生はこうまとめた。
■7.<皇帝>と<天皇>■
これに続けて、齋藤先生は次のように黒板に書いた。
今度はすぐに読み方を教え、全員で斉読する。「ヒムガシのテンノウ、つつしみて、ニシのコウテイにもうす。」
「<皇帝>と<天皇>だと思います」とすぐに一人の生徒が答えた。
■8.子供たちの感想■
この授業のあとで、子供たちは次のような感想文を書いた。
■9.今の日本に欠けているものを教える歴史授業■
生徒たちは、この授業から実に多くの事を受け止めている。国家の独立と対等な外交を求める気概、時には相手を怒らしても主張を貫徹する交渉力、そしてその根底にある自国への誇り。今の日本に欠けているものばかりである。
こうしたことが抽象論でなく、具体的な事件を通して学べる点が、わが国の歴史の豊かさなのである。その豊かな地下水脈から先祖の思いや考えを引き出して、子供たちの素直な感性に注ぎ込み、そこから瑞々しい感動を呼び起こす齋藤先生の授業方法には感嘆の念を禁じ得ない。
齋藤先生の『学校で学びたい歴史』には、さらにキリシタン問題、廃藩置県、東京裁判などを通じて、我らの父祖がどのような思いと考えで、それぞれの困難な時代を生き抜いてきたのか、を生徒に考えさせる授業が紹介されている。こういう授業で育った子供たちが大人になっら、まさに「国際派日本人」としてわが国の未来を開き、国際社会で立派に活躍してくれるだろう。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(057) 自主独立への気概 7世紀にシナの册封体制から脱却し、独自の国号、年号、文字を確立した気概。
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■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
1. 齋藤武夫、「学校でまなびたい歴史」★★★★、産経新聞社、H15
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「聖徳太子の大戦略」について
■ 編集長・伊勢雅臣より
こういう授業を考案された齋藤先生のご努力に深く謝意と敬意を表します。こういう教育を授業でしてくれる先生方が一人でも多く増えていくことを、願います。