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基礎講座「算命学」②陰陽五行と自然思想

ご購読いただき、ありがとうございます。
今回は、占技のベースである思想についてです。どう占うのかだけでなく、なぜそう占うのかがわからないと、解釈に応用がきかないので、機械でやった占いと変わらなくなってしまいます。
だから、思想を理解することは、鑑定のスキルを上げるのに不可欠です。また、東洋哲学の伝統に裏打ちされているので、処世術としても学ぶべきところがたくさんあります。
暗記しないといけないこともあります(「十干」「十二支」「相生/相剋」など)が、読み書きそろばんと同じく、ここがスラスラできるようにならないと、いろんな占技を学んでも使いこなせません。わかりやすい説明に努めますので、頭と手を動かしてマスターしていただけたらと思います。


1.気と陰陽論

気とは何か?

算命学がなぜ当たるのかについて、第1回で次のように説明しました。

  • 森羅万象、この世のすべてのもの(物質)/こと(現象)は、気が集まることで生成し、気が変わることで変化し、気が散ることで消滅する。

  • 気は一定の法則にしたがい動いているから、それでもの/ことを分析すれば、性質や未来がわかる。

気の思想は、算命学だけではなく、多くの中国思想がベースにしています。気は直接観察できないのでイメージしにくいのですが、この世を動かすエネルギーのようなものだと思っていただけたらよいでしょう。
では、気はどんな法則にしたがい動いているのでしょうか?
今回は、気の法則について、お話します。

もの/ことには陰陽がある

一番目は、陰陽の法則。
陰陽論(あるいは陰陽説)といいますが、気は陽の気と陰の気とがペアになって存在していると主張します。これをビジュアルにしたのが太極図です。(気で形づくられる)すべてのもの/ことには陽と陰があって、人間には男/女、活動には肉体/精神、一日には昼/夜、気候には暖/寒、位置には上/下、形状には大/小があります。

陽の気があるから陰の気が認識できるという関係で、より主体的なのが陽の気です。だから、同じペアでも、何を論じるか(「極」といいます)で陰陽が異なることがあります。男と女でいえば、経済は男が陽で女が陰ですが、家事は女が陽で男が陰とするのが自然だと、算命学では考えます。
また、陽と陰の2パターンだけではなく、陽のなかにも陽と陰があり(陽中の陽、陽中の陰)、陰のなかにも陽と陰がある(陰中の陽、陰中の陰)、さらに…というように、陽と陰の入れ子構造でこの世のもの/ことは形づくられているとするのが陰陽論の世界観です。これをあらわしたのが「易経」で、陰陽の64パターンでいろんなことを解釈します。

陽は精神、陰は現実

算命学で頻繁に用いられるのが「精神/現実」という視点です。
精神は「陽」で心など目に見えないこと、現実は「陰」で身体など目に見えるものをいいますが、算命学では、陽の男性は精神に強く、陰の女性は現実に強い存在だと観ます。
そして、出産する母親は子供に身体を、出産しない父親は子供に精神を与えるということから、子供に現実面を教えるのは母親の役目、子供に精神面を教えるのは父親の役目だとします。生活のしかたを教えて子供をしつけるのは母親ですし、子供は父親との会話を通じて/父親の背中を見て生きかたを学びます。だから、だらしないダメな母親に育てられた子供は現実面に、尊敬できないダメな父親に育てられた子供は精神面に問題が出やすくなります。
このように、役目も陰陽で論ずるのはとても面白いと思います。精神/現実という視点は、占いの解釈でも多用されるので、チェックしておいてください。

陰陽のバランスは変化する

つぎに、陰陽のバランス=力関係は常に揺れ動いているとします。すなわち、この世は常に変化しているということです。
加えて、互いに暴走しないよう抑制し合っていて(人体のホメオスタシスのようなイメージ)、しかしバランスが崩れてしまうと、陰極まれば陽になる(逆も真なり)で立場が逆転する(暴騰/暴落する株式市場のイメージ)こともあります。社会現象を観ると、特定の価値観に振り子が振れると、反対の価値観への揺り戻しが起こるというように、陰陽の法則が働いているように思います。
さらに、変化が陽と陰で交互に繰り返されると、物事は長続きします。昼=陽と夜=陰が交互に繰り返されて、息を吸う=陰と息を吐く=陽を交互に繰り返すから、生命は続くわけです。
家系も、陽の代と陰の代が交互に並ぶ家系は長く続きます。徳川家は十五代続きましたが、初代の家康が陽、二代目の秀忠が陰、三代目の家光が陽、四代目の家綱が陰、五代目の綱吉が陽と、陰陽が交互に並んでいます。逆に、陽が続いて拡大を続ける家系があったとしたら、家系がつぶれるようなことが突然起こりやすいともいえます。

陰陽論を活用する

陰陽論は、とてもユニークな世界観/人生観です。「すべてのものには陰陽がある」「人間は、陽が男で陰が女」「以上」という説明で終わってしまいがちですが、それでは当たり前のことを確認しているだけで、何の学びもありません。
重要なのは、隠された歪んだ陰陽の構造を見つけ出すことでしょう。何について、何と何のバランス(一極二元構造)が崩れているのか…。たとえば、男と女を社会構造で観て、一方的な男=陽の支配と女=陰の服従により成り立っていることを告発したのがフェミニズムでした。陰陽論は、このような新しい視点を提供してくれるかもしれません。
陰陽論は、偏った思い込みからも自由にしてくれます。あえて反対のもの/ことを置くことで、新しい視点が生まれてくるかもしれません。たとえば、不幸が続いたら「あとは上がるだけだ」と考えてみる。幸福があるから不幸があるのであって、不幸ばかりは続かない、というのが陰陽論です。
老子曰く「禍は福の寄るところ、福は禍の隠るるところ」。
あるいは、人間万事塞翁が馬です。

国境の砦の近くに馬の調教に長ける老人(塞翁)がいた。飼っている馬が胡人(国境外の異民族)の土地に逃げ、近所の人々は同情したが、塞翁は「どうしてこれが良いことにならないだろうか」と言った。数か月してその馬が、胡人の駿馬を連れて帰ってきた。近所の人々は祝福したが、塞翁は「どうしてこれが不運にならないだろうか」と言った。息子がその馬に乗り足の骨を折る大怪我をした。近所の人々は同情したが、塞翁は「どうしてこれが良いことにならないだろうか」と言った。1年して胡人が国境を越えて攻め入ってきた。国境の働き盛りのものは戦争に駆り出され、10人のうち9人の者が戦死した。塞翁の子は戦争に駆り出されず命を永らえた。

ウィクショナリー「塞翁が馬」より

そして、幸/不幸を待つだけではなくて、そのときに備える。中国の古典「菜根譚」には次のような一節がありますが、陰陽論は処世術にも役立つのです。

衰颯の景象は就ち盛満の中にあり、発生の機緘は即ち零落の内に在り。故に君子は安きに居りては、宜しく一心を操りて以て患を慮るべく、変に処しては、当に百忍を堅くして以て成るを図るべし。
【訳】
物事が衰え始めるきざしは最も勢いが盛んなときにすでに現れ、新しい物が生まれ始めるのは底に落ち込んでしまっているときである。だから君子は順調なときに気を引き締めていざというときに備えておき、事が起きて大変なときは、ひたすら耐え忍んで、目的を果たすようにしなければならない。

「全文完全対照版 菜根譚コンプリート」

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