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情報系博士課程学生が7年ぶりに2025年共通テスト国語(現代文)を問いてみた
2018年1月,私は東京大学駒場キャンパスでセンター試験(現在の共通テスト)を受験した.東京大学を志望していた自分にとって,駒場キャンパスでセンター試験を受けることができたのは嬉しかった.確か7号館だったと記憶している.7号館は古めの建物で,トイレも当時はウォシュレットなんかはついてない古いタイプのレバーを押して流すようなものだったような気がする.
センター試験は非常に厄介だ.自分は嫌いである.特に,時間制限が厳しい中,焦りながら問題を解くのがとても嫌だ.思考力を問うために試験をやっているなら,もう少し制限時間にゆとりを持たせてじっくり考えさせてもいい気がする.点数に差をつけるための非常に恣意的なものに感じる.数ⅡBの大問の最初の方で計算ミスしたときのエラー蓄積たるや恐ろしい.やり直す時間などない….
理系の自分にとって,当時の最大の脅威は「国語」であった.私は典型的な,国語が苦手で,あまり本を読まない理系の人間であった.古文漢文は論外として,現代文はなぜできないのかわからなかった.自分は日本人で日本語を読み書きしているのに,なぜ現代文の読解ができないのか....確か高校2年生くらいの時,どうしようもなくなって,東進の林修先生の講座を受け始めた.当時はすでにテレビに出演する人になっていたので少し馬鹿にしていたが,講座は理系の人間にもとてもわかり易い内容で,多少は問題の解き方がわかるようになった.それでも,最終的にはたしか7〜8割程度のデキで,東大受験に臨むための持ち点に結構ダメージを与えたのだった…
それから時は経ち,2025年.東大修士卒・現在博士課程の理系人間がイマの共通テストの現代文を問いたらどんな感じなのか,気になって問いてみた次第である.制限時間は60分に設定した.
結果
点数を先に発表したいと思う.
83 / 90(一問間違え!悔しい!)
言い訳をすると,Alc 4.5%のApple Ciderを飲みながら問いていたので多少注意が散漫になった可能性がある.間違えたのは第一問の問二.
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時間は60分弱で解き終わった.
それでは,問いた感想,今思うことを書きなぐる.
第一問(評論文)
まず思い出したのが,文章が始まる前の説明が随分と認知不可が高いということ.
第一問
次の文章は,高岡文章「観光は『見る』ことである/ないー『観光の眼差し』をめぐって」の一部で,ジョン・アーリをはじめとする研究者の見解を踏まえて書かれたものである.これを読んで…
高岡文章→だれ?
タイトル→意味わからん
ジョン・アーリ→だれ?
研究者→なんの分野の研究者?
見解→なんの見解?
本文を読めばわかるんだろうが,この問題文を初見で見てもハテナがたくさん出てきて思考が止まってしまう.思考が止まると時間を浪費し,焦りが増す.焦るとパフォーマンスが落ちる.もっと次のように書いてはくれないか?
第一問
次の文章は,観光学研究者 高岡文章の「観光は『見る』ことである/ないー『観光の眼差し』をめぐって」の一部で,高岡氏の観光や観光者のあり方に関する見解を述べたものである.この部分では,社会学者ジョン・アーリをはじめとする研究者らの観光に関する見解を踏まえて書かれている.これを読んで…
あとは,本文も元の文章の抜粋であるから,特に冒頭部分など文脈がつかめるまでは認知不可が高い.脳が疲れる.
ただ,そこさえクリアすればフムフムと読み進められた.
漢字
大学院に入ってくらいから,全然手で文字を書かなくなったため,いざ漢字を聞かれると,何だっけ…?となることがある.
それでも,共通テストのいいところは選択肢式であること.問われている漢字が選択肢の漢字と同じかどうかだけわかればいい.割と安定感をもって解けた.
その他の問題
基本的には,〇〇はどういうことか?〇〇な理由はなぜか?といった内容である.
丁寧にやるには,消去法のため選択肢を全部読まなければいけない.それぞれの選択肢がおかしなことを言っていないか注意して選べばいける.大体おかしなことを言っているときは,本文にない情報や論理が含まれているようだ.
この,本文でそんなこと言ってねえよ!/ そこまでは言ってねえよ!をきちんと判断できる能力が大事なんだと改めて思った.そして,高校のときに欠如していたこの能力を,自分は大学院の研究活動を通して養えた気がする.
研究では,実世界にある問題を切り取って,問題設定としてきちんと取り組む範囲を定め,それに対応した範囲の実験を行い,結果から言える範囲のことを言う.全体を通して,取り組んでいる範囲に一貫性がないといけないため,研究を計画するときには自分が考えている概念の範囲にとても気をつかう.また,それを論文として執筆する(言語化する)際には,関連研究との関係性なども踏まえ,自分の研究の立ち位置・意義・内容が正しく誤解なく伝わるように,文章を何度も何度も練り直す.同じようなことを言っていても,読む人が読んだらこうも読めてしまう,というのが先読みできれば,その可能性を潰すような書き方に変更する.
これを繰り返した結果,文章を読む際に細かい論理・ニュアンスにとても気を使うようにクセがついた.そのおかげで,紛らわしい選択肢の「おかしい部分」を違和感レベルではなく,明確に発見できるようになった.それにしても,結構脳の疲労がたまる.高校生でこれを満点取れる人はすごい….
第二問(物語)
物語も,結局は同じであることがわかった.
評論文では,選択肢の内容を本文内に示されるファクトや著者の見解・論理と照合して判断するところを,物語では登場人物の状況・言動・仕草などと照合して判断すればよい.
重要なのは本文に書いてある範囲のことしか推論してはいけない,ということだ.たとえ問題が「〇〇の心の動きの説明として最も適当なものを」だとして,あなたが人の気持ちが分からないロボット人間であったとしても,必ず答えとなる「気持ち」の内容は別の言い方で本文に書いてある.その内容を拡大解釈せずに書いてある範囲で理解し,その範囲を反映している選択肢を見つければいい.そういう意味では,「気持ち」を持たないChatGPTでも物語の問題は解けると思う.
まとめ&受験生へ
なんか現代文が解けるようになっていて,少しはまともな人間になったような気がしてよかった.一問ミスしたのだけ結構悔しい.博士号が取れるころには赤ワインをグラス3杯飲んでても完答できるようになっていたいとおもう.
国語でしくじった受験生へ.切り替えていきましょう.
特に東大を志望している受験生へ.共通テスト:二次試験 = 1:4の点数配分なので,二次試験で十分に取り返せます.自分もそうでした.絶望しないように.