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細かすぎる英文契約解説(第5回)〜Deemの正しい使い方〜

はじめに

「deem」とは、英文契約においてよく使用される法的用語で、「〜とみなす」「〜と判断する」という意味を持ちます。この言葉は、ある状況や条件が満たされた場合にあるフィクションの事実が成立すると「みなす」ことを表現にするために使われます。ロースクールの教科書では以下のように記載されています。

 "Use deem or deemed to turn something contrary to reality into a contractual reality. Deem creates the fiction that something is true, even though it is not"

(Tina L. Stark, Drafting Contracts: How and Why Lawyers Do What They Do, Second Edition (Aspen Publishing 2014),p352)

ところが、意外に誤用が多いのがこの言葉です。本記事では、Deemの本来の使い方を少し深掘りした上で、「みなす」「法的なフィクションにのみ使う」とはどういうことか、具体的に解説していきます。

Deemは紛争時の立証責任にもかかわる重要な用語であると同時に、うまく使えば不明瞭になりがちな条件関係をクリアに契約書に落とし込むことができます。本記事を参考に、読者の方が担当する契約の紛争予防レベルを上げていただければ幸いです。

「みなし」効果とは

Deemの一つ目のポイントは、ある事実について、反証を許さずに確定させるときに使われるということです。

例えば、次のような条項においてdeemはどのように機能しているでしょうか。

"If the Company fails to deliver the Products within 60 days after the Delivery Date, the Company is deemed to have breached this Agreement, and the Buyer may terminate this Agreement."

(会社が納品日から60日以内に製品を納品しない場合、会社は契約違反とみなされ、買い手は契約を終了することができる。)

deemed to have breached this Agreementとありますので、契約違反については反証が許されないということです。つまり、例えば会社が納品の遅れについて何らかの正当化事由を有していたとしても、そのような議論は許さないということです。単純に、60日以内に納品しないことをもって契約違反が確定し、買主に契約解除権が生じます。売主には厳しい条項ですね。

効果的な使用例

もう一つのポイントは、deemは実際の事実関係と異なる法的なフィクション(仮定)を表現したい場合にのみ使われるという点です。実際の状況や事実に基づく意味が自然に通じる文章では、「deem」を使用する必要はありません。以下に、誤った使用例を示します。

誤った使用例: "The Agreement is deemed effective from January 1, 2009, to December 31, 2009." (契約は2009年1月1日から2009年12月31日まで有効とみなされる。)

この例では、「deem」を使う必要はありません。なぜなら、ここに書かれている契約の有効期間は実際の事実関係に基づいており、法的なフィクションではないからです。この文を正しく表現するには、「deem」を削除し、シンプルに次のように書けば良いです。

 "The Agreement is effective from January 1, 2009, to December 31, 2009." (契約は2009年1月1日から2009年12月31日まで有効である。)

一方で、法的なフィクションを表現すれば有効に契約関係を処理できる場面も確かにあります。例えば、以下のような例では「deem」を使用することが適切です。

 "A notice received after 5 p.m. on Friday is deemed received at 9 a.m. on Monday." (金曜日の午後5時以降に受信された通知は、月曜日の午前9時に受信されたものとみなされる。)

この例では、実際の受信時刻と異なる法的なフィクションが「deem」を用いて表現されています。土曜日と日曜日に受診された通知の効果について長々と書くよりも、よりシンプルかつ明確に法的効果を規定することができますね。自社の営業日が月曜日から金曜日の午前9時から午後5時で、営業時間外の通知についてはすぐに対応する必要がないことを規定したい場合は、このようなDeemが有効に機能するでしょう。

ここでのポイントは、繰り返しになりますが、実際の事実として金曜日の午後5時以降に受信された通知が(PCシステム上の機能などにより)月曜日の午前9時に受信されたことになるわけではありません。あくまで法的なフィクションとして、「月曜日の午前9時に受信されたものとみなす」ことにしているだけです。

おわりに

以上述べましたように、「deem」は法的なフィクションを作り上げ、それを事実であると「みなす」機能を果たす重要な単語です。実際の状況や事実に基づく意味が自然に通じる文章では使うと、かえって意味が不明瞭になります。上手に使えば、例で挙げたような事実関係のグレイゾーンや隙間を埋める有効な条項が作れます。

この知識と意識が「deem」を使ったより明確なドラフティングの一助になれば幸いです。


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