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細かすぎる英文契約解説(第6回)〜不完全な完全合意条項〜

はじめに:完全合意条項とは

完全合意条項(entire agreement clause)とは、当該条項を含む契約書が当事者間の合意事項の最終版であり、それ以外の口頭や書面による合意は存在しないことを明示する条項です。完全合意条項を契約に含めることで、当事者間の合意内容を明確にし、もって紛争リスクを低減することができます。

具体的な条項例

完全合意条項は、以下のようなものが一般的に規定されます。

Entire Agreement. This Agreement is intended by the parties as a final and exclusive expression in respect of the subject matter of this Agreement. All earlier and contemporaneous negotiations and agreements of the subject matter of this Agreement merged into and superseded by this Agreement. 

重要な4単語とParole Evidence Rule

この条項中で、外してはならない4単語があります。それは、final and exclusive expressionです。私がロースクールで受けた授業の教科書では次のように表現しています。

When drafting a merger provision, describe the agreement being signed as final and exclusive to signal that the parties intend the agreement to be fully integrated.

Tina L. Stark, Drafting Contracts: How and Why Lawyers Do What They Do, Second Edition (Aspen Publishing 2014),p234


少し噛み砕いて説明します。

そもそも、なぜ完全合意条項が当事者の契約内容を明確化するのに寄与するのでしょうか。ここでポイントとなるのが、Parole Evidence Ruleです。

Parol Evidence Ruleは、完全に統合された(fully integrated) 契約書が存在する場合、当該契約書と矛盾する口頭や書面による証拠を提出できないことを定めた法原則です。なお、Parole Evidence Ruleは口頭証拠排除原則などど訳されたりしますが、排除されるのは口頭証拠に限られないので注意が必要です。

「完全に統合された」とは、ある契約書が締結までのあらゆる当事者間の合意や交渉過程を全て統合しており、その結果、当該契約書がその合意内容を示す唯一の文書である状態を言います。

このような「完全に統合された」状態を端的に示すには、final and exclusiveが適切であるということです。もちろん、他の表現を排除するものではありませんが、同じ趣旨の意味を表現している必要があります。

例えば、個人的にexlusiveという単語が抜けている条項をよく目にします。この場合、もし他に同じ契約主題(同じ取引)に関して別の合意文書や口頭合意があった場合、いざ訴訟になったときそれらの契約外の文書が証拠として提出され、思わぬ契約内容が認定される恐れが出てきます。Merger Clauseという表題だけで安心せずに、中身をきちんと確認する必要があります。

条項修正が必要な典型例

反対に、final and exclusive expressionが入っていては不都合が生じるケースもあります。それは、あえて契約の一部を別の文書で合意している場合です。典型的には、秘密保持に関する合意は当該契約書では規定せずに、交渉初期に締結した秘密保持契約を活かしているような場合です。

このような場合、上記のようなMarger Clauseを無修正に入れてしまうと、当該取引に関して秘密保持に関する合意はなされていないものと扱われるリスクが出てきます。そこで、しかるべく例外を設けて、当該秘密保持契約は本契約の一部であり、Parole Evidence Ruleの適用は受けないことを明示しておく必要があります。

おわりに

以上みてきたように、漫然と雛形やサンプルを引っ張ってくるだけではリスクがあるのが完全合意条項です。「不完全な完全合意条項」にならないよう、当該契約書以外にどのような合意文書や別途合意があるか精査した上で、条項の要否や具体的文言を精査する必要があるかと思います。


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