レ・ミゼラブル、今を生きるということ。

先も見えない 闇を這い出そう
光を求めて 別れを告げよう
罪が渦巻く ジャン・バルジャンの世界
ジャンバルジャンは死んで
生まれ変わるのだ

レ・ミゼラブルは、観劇するごとに様々な楽しみ方のあるミュージカルだ。

舞台は19世紀のフランス。パンを盗み脱獄未遂を繰り返したことで19年間奴隷として収監された男、ジャン・バルジャン。
仮出獄を与えられ晴れて自由の身となるが、世間からの風当たりは冷たい。荒んでいくバルジャンに手を差し伸べたのは、神に仕える司教。バルジャンは教会から銀の食器を盗んで逃げるが、司教はそれを赦した。バルジャンの心のなかでなにかが揺れ動く。
彼の心情を歌った、「独白」。プロローグのラスト。

ジャン・バルジャンは死んで、生まれ変わる。

戦う者の 歌が聞こえるか
鼓動があのドラムと 響き合えば
新たに熱い 命が始まる
明日が来たとき そうさ 明日が

民衆の歌。
レ・ミゼラブルの中で最も有名なナンバーの一つ。
彼らは貧困にあえぐ人々を開放するため、立ち上がって声を上げる学生たちだ。
学生たちは、決して貧困層ではない。恵まれた身分に生まれながら自らの生きる国に自由が存在しないことを痛感し、蜂起によって覆そうとする者たち。

彼らは自らを火種として、民衆を巻き込みやがて革命を起こすねらいだった。しかし、先のナポレオン失脚もあってか、民衆は立ち上がらなかった。彼らは見殺しであった。
ガブローシュが撃たれたあの瞬間、悲観と哀愁に漂うバリケードの中で、自らの命を賭して死んでいく。リーダーのアンジョルラスは世界に自由をと叫び、死ぬことが世界を変えることだと信じバリケードから落下し死亡する。

あのバリケードで最後に命を落としたのは、グランテールだった。ガブローシュの死から、世界に対して最も怒りを抱いていたのは彼かもしれなかった。ABCカフェでも革命に対しては懐疑的。いやすべてにおいて懐疑的で皮肉屋なグランテールは、ガブローシュとの間に親子のような関係を知らずのうちに築いていた。ガブローシュとの出会いが、彼の存在を過去や未来ではなく「今」に引き戻した。

逃れたい 早く
ジャン・バルジャンの世界を
俺には行き場所も
たどる道もない

バルジャンを追いかけ続ける刑事ジャベール。法のもとですべてを判断する鉄の男。
だが罪を犯したはずのバルジャンは司教に慈愛を学び、自分を追うジャベールにさえその命を救った。罪を犯したら罰を受ける。正しい行いをすることが人間として生きること。そう信じていたジャベールは、それを根底から否定されてしまった。そうであるならば、彼の信念は偽りだったのか?慈愛は正義を凌駕するのか?そういったことのすべてが、ジャベールを追いつめる。
「ジャベールの自殺」のあとで、彼はセーヌ川に身を投げ自殺する。


今を生きるとは。自らを過去でも未来でもない「今」に留めること。世界がそれを否定しても、自分が信じたもののため突き進む。それが死へと向かう道だったとしても。

レ・ミゼラブルでは、今を生きる人々が大勢登場する。そしてその行いは、他人のためになされるものであり慈愛である。

誰かを愛することは
神様のおそばにいることだ
列に入れよ 我らの味方に
砦の向こうに 憧れの世界
皆聞こえるか ドラムの響きが
彼ら夢見た 明日がくるよ

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