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2025年、日本のベンチャーファイナンスで何が起こるのか?:二極化と新たな機会

はじめに

前回、2024年の振り返りとして、スタートアップの資金調達額は横ばい(2024年:7,793億円、2023年:8,139億円)である一方、ファンド設立額が大幅に減少(2023年:9,239億円から2024年:3,870億円へ)したことをお伝えしました。2023年は確かにJICによる大型ファンド設立という特殊要因があったものの、2022年の6,785億円と比較しても大きく減少しており、これは明らかにエコシステムの転換点を示すものと言えます。

明確化する二極化の波

2025年において最も顕著になると予想されるのが、エコシステム全体を貫く二極化の進行です。この二極化は、LP、VC、スタートアップという3つのレイヤーで同時に進行していくことになりそうです。

まずLPレベルでは、特に事業会社の動向が注目されます。日本のLPの社数の半分以上は事業会社が占めていますが、これらの企業の間で明確な方向性の違いが生まれています。「なかなかシナジーが生まれない」として、スタートアップとの連携やオープンイノベーションから手を引く企業がある一方で、二人組合やCVCを通じて、より一層の関与を強化しようとする企業も現れています。

VC業界でも同様の分断が進んでいきそうです。過去のトラックレコードを基に継続的な資金調達を実現するVCがある一方、新規のファンドを含めて組成に苦戦するVCも出てくることでしょう。特に1号ファンドの立ち上げは厳しい状況が続いており、この傾向は今後も続くことが予想されます。

スタートアップの明確な二極分化

スタートアップ側でも、明確な2つの方向性が見えてきました。一方には、シリアルアントレプレナーを中心に、ハイバリュエーションでの大型調達を実現するグループが存在します。彼らは、日本発のユニコーン、さらにはデカコーンを目指す存在として注目されています。一方で、一部からは「勝ち馬に乗るような投資の採算は合うのか」といった懸念の声も聞かれます。

他方で、特にAI関連において、資金調達を一切行わない「非調達路線」を選択する企業が増えています。彼らの多くは受託やコンサルティングを中心としたビジネスモデルを展開していますが、この状況は90年代後半にホームページ作成などを請け負う中小新興企業の台頭期に似た様相を呈しています。生成AIは、インターネットやスマートフォン以来の大きな変革をもたらすと期待されていますが、受託業務などの市場は急速にレッドオーシャン化することでしょう。非調達路線を選択したスタートアップにとって、この環境変化への対応が重要な課題となります。

資金調達を左右する新しい潮流

2025年の資金調達環境では、特に3つのセクターの動向が注目されます。まずAI関連ですが、北米では投資額の40%を占める一方、日本ではまだその割合は低く、今後の成長余地が大きいと考えられます。

次にディープテック領域です。この分野は大規模な先行投資が必要であり、事業会社との親和性が高いことが特徴です。事業会社による投資や協業が、成長の重要な鍵を握ることになるでしょう。

そして、エンタメ領域です。BtoB一辺倒だったスタートアップの活動領域から、徐々にBtoCへの揺り戻しが見られる中、特に動画関連コンテンツでの盛り上がりが期待されます。この分野は特にグローバル展開の可能性を秘めており、今後の成長が期待されます。

海外資金の質的変化

さらに注目すべきは、海外からの投資資金の流入です。2021年に見られたような「ツーリストマネー」とは異なり、より本格的なVC投資が2024年は増加しました。これは米中デカップリングの影響によるもので、アジア地域への投資先として日本市場への関心が高まっているためです。

特にミドル・レイトステージでの資金供給において、大規模な資金を運用する海外VCの役割が重要性を増すと考えられます。国内のファンド設立環境が厳しい中、この海外資金の活用は、日本のスタートアップエコシステムの発展において重要な意味を持つでしょう。

海外投資家の中には、LPからの資金調達を目的として日本市場を訪れる者も依然として多いものの、実際に投資を行うプレイヤーも出てきています。米中対立による地政学リスクの高まりの中、日本は比較的安定した投資先として注目を集めています。

事業会社の二面性

事業会社の関与については、その二面性に注意を払う必要があります。特にディープテック領域では、事業会社との連携が不可欠であり、将来的には事業会社がセカンダリー取引の受け手となることも期待されます。一方で、バリュエーションにおける甘さや、スタートアップ自体の成長とは異なる政策的アジェンダへの対応を求めるなど、懸念点も存在します。事業会社との関係性をいかに構築していくかは、スタートアップの成長戦略において重要な検討事項となるでしょう。

おわりに

2025年の日本のスタートアップエコシステムは、二極化という大きな流れの中で、新たな転換期を迎えることになりそうです。一見すると、海外資金に依存することへの懸念も聞かれますが、こうした資金をうまく活用することで、日本のスタートアップの飛躍につながる可能性があります。

変に海外のファンドを崇拝するのは危険ですが、このような資金を活用できれば、日本のスタートアップがより大きく飛躍するための土台となるかもしれません。2026年2月、この予測がどの程度的確であったか、改めて振り返ればと思います。


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