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スイングバイIPO:注目の成長戦略の利点と課題

はじめに

スタートアップの世界で最近注目されている「スイングバイIPO」。この手法は、従来のIPOとM&Aの良いとこ取りをしたかのような魅力的な成長戦略に見えます。今回は、スイングバイIPOの利点と、特にその課題について、ベンチャーキャピタリストの視点から考えます

スイングバイIPOとは

スイングバイIPOは、スタートアップが一度大手事業会社に買収された後、再度IPOを果たす手法です。このプロセスでは、創業経営者の株式は維持したまま、外部VCなどの株式を事業会社に売却します。その後、事業会社との連携で企業価値を高め、将来的に再度IPOを目指します。

この手法が注目を集めている背景には、グロース株への厳しい市場評価や直接的なIPOの困難さ、そして2014年頃に設立されたファンドの満期到来といった要因があります。

特に、2024年にソラコムが東証に上場を果たしたことで、スイングバイIPOという手法が広く注目されるようになりました。ソラコムは一度KDDIの傘下に入った後、KDDIとの連携により事業を大きく成長させ、再度の上場に成功しています。この成功事例により、スイングバイIPOは多くのスタートアップや投資家の関心を集めることとなりました。

スイングバイIPOの利点

スイングバイIPOの主な利点としては、以下が挙げられます:

  • 大手事業会社からの資金調達による急速な事業拡大の可能性

  • 事業会社のリソースやネットワークを活用した成長加速

  • 創業者チームの経営独立性の確保

  • IPO市場の状況に応じて上場のタイミングを柔軟に選択できる点

スイングバイIPOの課題

しかし、スイングバイIPOには看過できない重要な課題があります。主な課題は以下の3点です:

1. ガバナンスの歪み

スイングバイIPOでは、特定の事業会社の持ち分比率が高い状態で上場することになります。これは、独立した上場企業としてのガバナンスに重大な疑問を投げかけます。

東証が進める親子上場解消の流れに逆行する形となり、少数株主の利益が損なわれるリスクが高まります。特定の会社の影響力が独立した上場企業において非常に大きくなることで、健全なコーポレートガバナンスの実現が困難になる可能性があります。

2. IR上の課題

政策保有株の比率が高いことで、様々なIR上の問題が生じる可能性があります。具体的には、以下のような課題が考えられます:

  • 大手機関投資家からの投資が入りにくくなる

  • 株式の流動性が低下する

  • 株価上昇の抑制要因となる

これらの要因により、スタートアップの成長戦略にも影響を与える可能性があります。株式市場での評価が適切に行われず、企業価値が正当に反映されないリスクがあります。

3. 事業会社との利害の不一致

何より起業家にとっての難点は、買収時には上場を約束していても、状況の変化や担当者の交代により、その約束が反故にされるリスクがあることです。上場のタイミングや是非について意見が分かれる可能性も高く、これはスタートアップの長期的な成長戦略に大きな影響を与えかねません。

例えば、以下のような状況が考えられます:

  • 事業会社側が上場を遅らせたいと考える

  • 事業会社の経営者や担当者が交代し、以前の約束が守られない

  • スタートアップの価値が大きく上昇し、事業会社が100%子会社化を望むようになる

インセンティブ構造のねじれ

これら3つの課題の根底にあるのが、スタートアップと事業会社の間のインセンティブ構造のねじれです。スタートアップ側はIPOを目指す一方、事業会社側は成長が見込める子会社を手放したくないという矛盾した状況が生まれる可能性があります。

事業会社の視点に立てば、シナジーが生まれている子会社をわざわざ上場させ、持分を減らすことに疑問を感じるかもしれません。一方、スタートアップ側は上場によって更なる成長を目指したいと考えます。この利害の不一致が、様々な問題の根源となりかねません。

スイングバイIPOの今後の展望

スイングバイIPOはスタートアップの成長戦略として有効に機能する可能性があります。ですがそのためには、以下の論点を乗り越える必要があります。

  1. ガバナンス体制の明確化

  2. 少数株主の利益保護メカニズムの構築

  3. 事業会社との長期的な利害一致の確保

  4. IPOまでのロードマップの明確化

私自身は、スイングバイIPOを全否定するものではありませんし、この戦略が上手く機能する事例が増えれば、日本のスタートアップエコシステムに新たな可能性をもたらすと考えています。だからこそ、上述した課題点を乗り越える事例が出てきて欲しいと考えています。

まとめ

スイングバイIPOは、従来のIPOとM&Aの中間に位置する新たな成長戦略として注目を集めています。ソラコムの成功事例により、その可能性が広く認識されるようになりました。しかし、この戦略には根本的な課題があり、特にインセンティブ構造のねじれという問題が重要です。これらの課題を適切に管理し克服できれば、スタートアップにとって有効な選択肢となる可能性を秘めています。

スタートアップ経営者は、この戦略のメリットとリスクを十分に理解した上で、自社の状況に最適な成長戦略を選択することが重要です。

興味深いことに、スイングバイIPOは事業会社側とスタートアップ側の双方にとって、一定の魅力を持つ提案となっています。事業会社側にとっては、全株式買収の提案を起業家が嫌がることを想定した場合でも、スイングバイIPOという形で協業を提案しやすくなります。これは、スタートアップの独立性を一定程度尊重しつつ、シナジーを追求できる戦略だからです。

一方、スタートアップの起業家にとっても、スイングバイIPOは自身の「面目」を保つ上で受け入れやすい提案となっています。IPOという目標を掲げ続けることができるため、単純なM&Aよりも心理的なハードルが低いのです。このように、スイングバイIPOは両者のニーズを巧みに満たす戦略として注目されています。

しかしながら、これらの利点があるからこそ、前述の課題に対して慎重に対処する必要があります。表面的な魅力に惑わされず、長期的な成功を見据えた判断が求められるでしょう。

スイングバイIPOが真に有効な戦略となるか、今後の事例の蓄積と市場の反応を注視していく必要があります。成功事例が増え、日本のスタートアップ業界に新たな選択肢をもたらすことを期待しています。


今後もこのようなスタートアップに関連する内容をアニマルスピリッツのNewsLetterで配信していこうと思います。
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