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たどった線路の先には・・・。(ぼっち旅の原体験②)

おことわり。

線路内に入るのは、違法行為です。
本文は、あくまで虚構、フィクションとしてお読みいただければ幸いです。

では、前回の続きをどうぞ。


町はずれを走る線路の謎について。
そのうち、こんな噂を聞くようになった。

「1日1本だけ、貨物列車が通るらしいよ」
「朝の5時40分ごろ、通るらしいよ」

えっ、あそこ、ホントに列車が走るの?

そういえば、たまたま早起きした日の朝方、汽笛のような音が聞こえたことが、あったような、なかったような・・・

ただ、なぜか、自分でその列車を見に行こうとまでは、考えなかった。
こどもが早朝に勝手に外出するなんて、いけないことだと思っていたたからだ。
当時の私は、意外といい子ちゃんだったのだ。親の前では。


それからまた、ちょっと月日が経った頃だ。
ある日曜日の午前、友達数人と習い事から帰る時、線路の近くを通りかかった。
誰ともなく「この線路をずっとたどって歩いていこうか」と提案した。

久々に思い出した、この線路の謎。
どこに続いているのだろう?
列車とか、出会えるのだろうか?
途中に駅とかあるのかな?
大してこだわっていたわけではないが、ちょっと知りたい気持ちになった。

結局。その場にいた友達、全員が賛成。
軽い気持ちで、みんなでワイワイおしゃべりしながら歩き始めSた。
線路に沿って、自宅とは逆の北方向へ。

終着点なんて、誰も知らない。
どこまでいこうかなんて、誰も決めてない。
今日は日曜日。時間は十分ある。
なら、行けるところまで行ってみよう。
みんな、その程度の軽いノリだった。

万一、列車が来たらどうしよう?
すぐに横へ逃げれば、いいよ。
都合よく、線路に沿って、土のタタキのような小道が並行してる。
もし列車が来たら、ヒョイっと、そっちによければいいだけだ。
誰でも出入りできちゃう線路。
犬か何かの散歩で歩いた形跡もあるくらいだ。

しかも線路だ。
道路より目立つし、わかりやすい。
帰りたければ、元きた線路をたどれば、迷うことなく帰れる。
そんな安心感も、背中を押した。


道すがら、どんな話題をかわしたのか。どんな光景を見たのか。
昔の記憶だ。そこまで克明には覚えていない。

しかし、ある地点に来て、みんな立ち止まった。
呆然と立ちすくんだ。
ある意味、恐怖の瞬間でもあった。

川だ。

結構な川幅だ。
向こう岸まで、数十メートルはあるだろうか。
線路だけが、水面から十数メートルほどの高さを、ヒョロリと伸びている。

これは、橋と言えるのか?
まあ、川に架かっているのだから、橋と言えば橋だろう。
しかしホントに、鉄路一本、渡してあるだけ。
橋桁も、なんだかスッカスカで、頼りない感じだ。
もちろん歩道なんて、どこにもない。
トラスのような構造物どころか、架線一本ない。
つまり線路はむき出し。雨ざらし・風さらしだ。
ただ一筋の鉄路が、岸と岸を、頼りなく、ヒョロンとつないでいる。

どうする?渡るの?
渡るにしたって、歩道なんてないし・・・いや、あるといえばあるか?
薄っぺらな板が、たて方向に連なっている。
2本の線路の間に挟まるように、だ。
しいて足場と言えるものといえば、これだけ。
でも、本当にただの板。ペラッペラだ。
確か、固定すらされてなかった気がする。
ただ枕木の上に、渡して置いてあっただけな記憶が。

しかもこの橋、高さもある。
線路から水面まで、10メートル以上はあっただろうか。
枕木のすき間からぐーんと下に、川面のゆらめきが、てらてらとのぞいて見える。


高所恐怖症の私は、もう、おじけついていた。
まだ岸から、一歩も進んじゃないのに。
腰から下の力が、すでに、ヘナヘナと抜けていた。
極限の緊張時に体の内から火照るような、じわんとした、イヤな熱を感じながら。

ちなみにこの頃の私は、まだ水泳なんてやってない。
そして、生来のこわがりだ。
だから、橋を渡るなんていうだけで、ものすごい恐怖感に襲われた。
高さの恐怖。そして水の恐怖。
幼児期の頃は、橋を渡るとき、四つん這いになってたくらいだ。
四つん這いったって犬のようにどころじゃない。犬の方がカッコイイくらいだ。
手はヒジまで、べたっとついて。
手のひらは、ヤモリのように地面をがっちりつかみ。
足はヒザ立ちで、なぜか、お尻だけは突き上げて。
ぶざまな格好で、這いつくばるように、オドオドと進む。
そんな姿を家族に笑われてたけど、恥ずかしいどころじゃなかった。
怖さの方が、はるかに何百倍も勝っていた。


しかし、そんな私の苦悩もいざ知らず、他の友達は口々に言う。
「どうする?渡る?」
「おこられないかなぁ、誰かに」
「見つかったら、隠れるところも、逃げ場もないよ」
「下の川に飛びこむ?」

なんて恐ろしいことを。

しかも、とどめのようなセリフを、誰ともなく、口にした。

「1日1本だけ、貨物列車が通るんだよね。」

え?

いやいや、列車なんて来ないよ。私、一度も見たことないし。
そんなのわからないよ。誰も、見たことないんだし。
でも、1日1本なんでしょ、朝方に。もう昼過ぎだよ今。
それ噂でしょ。朝だけとも、1日1本とも、限らないかも。

もし万が一、人が渡ってるタイミングで列車が来たら・・・?

不意に、国語の教科書に出てきた女の子のことが、思い出された。
つり橋が怖くて渡れない女の子の物語。
確か、トッコちゃん、とか言ったっけ。
あの時ばかりは、授業中よりもはるかに切実に、トッコちゃんの心境を理解した。
少なくとも私だけは。


今日はここまでにします。
次回、先に述べておくと、意外と情けない結果で終わります。
また思い出しながら綴っていきます。


おことわり。

線路内に入るのは、違法行為です。

ここで挙げている場面は、もう数十年も前のお話です。
一般的な時効をとっくに超えているほど、昔の話です。
しかも当時、私たちは小学生。刑事罰の適用もできないほどの幼さです。

また、この線路が当時、営業路線として運用されていたのか、廃線だったのかも、よくわからない様子でした。

そして何より、私自身の記憶が、かなり曖昧です。
もしかしたら創作や誇張も、入ってしまっているかもしれません。
実際どこを歩いたのか。線路内か。沿道か。
正直、よく覚えていない箇所も多々あります。

なので、繰り返しになりますが、あくまでフィックションとして、鷹揚にご解釈いただければ、幸いです。恐縮ですが、ご理解のほど、よろしくお願いします。

2024.10.12

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ぼっちスト・茶凡頃(ちゃぼんごろ)
申し訳ないです!まさかチップをいただけるなんて、思ってませんでした。ありがとうございます!