言葉で語らない。作品で語る。(とっておきの一書・一節⑩・・・ひとまず最終回)
前回の氷室さんの紹介をしているうちに。
私自身の好みについて、再発見した。
なんだかんだで、表現や作品、アウトプットで勝負できる人が好きなんだ。
建築界では、まさにこの人がそう。
谷口吉生氏だ。
本書もおそらく重版等の入手は難しいようだ。出品者からの購入も可能だが、谷口氏設計の美術館等に行くと、定価で購入できたりもする。
私も「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」で購入した。
実際に谷口作品に触れたのち、感動の余韻も冷めないうちに購入したものだったため、特別の思い入れがある一書だ。
日本建築界の巨匠・谷口吉郎氏をお父様に持つということもあるから、きっとインタビューなど、言葉を求められる場面は、数おおくあったと思う。
しかし、このかた、とにかく多弁を嫌う印象がある。
建築作品そのものも、ある意味、控えめだ。
「我こそはアーティスト」というトゲというか個性が、一見、わからない。
そして、この上なく洗練され、上品である。
でも、この方の作品を数多くみているうちに、わかってくる。
「主張が見えにくい」個性というものの個性、すなわち主張を。
この厳格さ。清廉さ。
これこそが、谷口氏の、慎ましやかな個性なのだ。
本書からは、いわゆる名言的なものをあげるのは、難しいと感じた。
しかし、谷口氏の性格というか作風を裏付けるような言葉が見つかる。
そのいくつかを紹介しよう。(以下、趣意)
「私は努力をしないと勉強ができないタイプだと自覚した。」
「図画工作が得意で、他の教科の勉強も、視覚化して記憶する傾向があった。」
「模型製作も、接着剤が少しでもはみ出すと気になって仕方がない。几帳面な性格は、父譲りだろう。」
「満足のいく仕事を続けるためには、事務所を大きくしてはいけない。これは父の最大の教えだ。(中略)今でも、全ての設計プロセスに自分自身が直接参加するため、多くても2つ以上の設計を同時に引き受けないように心がけている。」
高校・大学と慶應義塾。丹下健三氏やハーバード大学に学び帰国。
一見、我々の手の届かないような遠い世界の人のように感じる。
しかし本書を読むと、華やかな経歴の陰には様々な苦闘があり、それを地道に、真摯に乗り越えてきたことが、よく読み取れる。
作品以外の言葉で語る場面が少ない谷口氏だからこそ、ご自身の筆で綴られた半生のあゆみと自己分析は大変貴重である。彼の建築に魅せられるもの達にさらなる自信と説得力を与えてもらえる。
「とっておきの一書・一節」の毎日投稿は、とりあえず今回で一区切りします。
もちろん、これで完全にオワリ、ってわけではありません。
「ぼっち旅」の投稿記事同様、また、折ある時に、いろんな本を紹介してまいりたいと思います。
毎日投稿としては、まずは、いったん締めますね。
お読みになってくださり、ありがとうございました。
2024.11.22