食堂車で、小学生ひとり、ステーキを食べる。(はじめてのぼっち旅②)
んまー、こにくらしい小学生ですこと、我ながら。
見出し書きで、すでに自分で笑ってしまいました。
というわけで、前回の続きです。
最初に補足しますと。
当時の新幹線は、食堂車ってのがあったんだよね。
結構なホテルのレストランとかが、入ってるの。
また、時刻表で調べれば、どの列車にどこのホテルが入ってるのかもわかるんだ。
そのひとつに「都ホテル」が入ってる列車があって。
当時、父から聞いた話だと、そこが一番美味しかったのだそうだ。
メニューの中で、ステーキが一番高かった。
確か5000円くらいだったかな。当時の物価からね。
もう乗る前から、その食堂車の、そのメニューを、めあてにしてたんだ。
さてさて、そんな感じで、
座席に案内された場面の続きから。
私が食堂車に行ったのは、まだ営業開始直後だったと思う。
まだお昼ごはんにはちょっと早いかなって時間。
そのせいだろうか。
他に、お客さんは、1組もいなかったんだ。
案内されたのは、車両中央あたりの4人掛けテーブル。
広い車内の、広いテーブルに、こどもがちょこんと1人。
まるで、豪華な宮廷に何かの間違いで迷い込んだ、のら犬・のら猫の気分だ。
なんだか浮いてる気がして、ちょっと恥ずかしくもなった。
メニュー表を開くと、値段の安い順に、メニューが並んでる。
私のおめあては、その最後尾、右下の隅っこにあった。
ステーキ。5000円。いちばん高いメニュー。
お値段の5000円って数字に、ちょっと緊張した。
5000円なんて大金、おなかの中に消しちゃって、いいのかなあ。
なんだか申し訳ない気持ち抱きつつ。
「これを1人前、お願いします。」
1人前もなにも、私しかお客さんいないのにね。
ウェイトレスさんがご丁寧に「かしこまりました」なんて受け付けてくれた。
しばらくして。
頼んだステーキが届いた。
ジュージューと油をはねさせながら。
わあーっ、きたー!
と、いつもならはしゃぐところも、今日はガマン。
よだれが垂れちゃわないように、おちょぼ口に、きゅっと唇をとがらせる。
静かに、ウェイトレスさんに頭を下げる私。
奥ゆかしい演技とは裏腹に、内心では、よだれの心配。笑
あ、お箸が無い。
そうか、ナイフとフォークだ。
ええとね。
ナイフは右手、フォークは左手で、持つんだよ。
「あさりちゃん」で、そう覚えた笑。
ライスはフォークの上に盛るんだよ。
これは誰から教わったんだっけなぁ?
ともあれ、小学4年生が、いっちょ前に、気取っちゃって。
しずしずと、お上品っぽく見えるよう、ステーキを食べる。食べる。
でも、ちらっと奥を見ると。
ウェイトレスさんたちの、今にも吹き出しそうな笑顔が。
しかも、時々、なんかひそひそ耳打ち。
「食べてる、食べてるわよ。笑」
「あの子、ホントにひとりできたの?」
「でも、ちゃんとナイフとフォーク使ってるよ。笑」
「よりによって一番高いメニューよ。お金、持ってるのかしら?笑」
なんて、聞こえてきそう。
いくらこどもでも、お客様はお客様。
さすがに、口や態度にこそ露骨には出さないけど。
みんな、なんだか笑いをこらえてるみたい。
そのくらい、小4にだってわかるよ。
顔に書いてありますよ、お姉さんたち。
まあ、場違いなお客様なのは、自分でも分かってたから。
ここに至るまで、いざテーブルに招かれるまでは、最悪、門前払いを食らうかも?なんてドキドキしてたくらいだ。
そんな取り越し苦労も、今やすっかり忘れ。
ステーキの美味しさに、夢中で舌鼓を打っている。
そもそも、電車の中だからね。
万一、食い逃げなんかしようとしたって、逃げ場なんかない。
だからだろうね。
ウェイトレスさん達も、安心してたんでしょう。
「いざとなったら、乗客席にいるであろう、お父さんかお母さんを呼べばいい」
くらいの気持ちだったんでしょうね。きっと。
実は、お父さんもお母さんも、乗ってないんだけどね。笑。
そんなこんなと、考えつつ。
お姉さんたちを、横目で見て見ぬふりしながら。
何食わぬ顔で、VIP気分でステーキをたいらげた。
まだVIPなんて言葉も、知らないくせに。
ごちそうさまー。
お宝物をすっかりおなかの中に入れ、ホクホク気分。
さあ、お会計だ。
おなかのシャツの下から、大事そうに財布を出す。
1万円札が重なってないか、お札のカドを、2本の指ですりすりしごき。
会計のお皿に出した、その瞬間。
ウェイトレスさんたちがみんな、一斉に、くすくすくす、って吹き出した。
「なあんだ、お金、持ってたんだね」って言いたげな、安堵の笑い。
ずうっと笑いをこらえてた、お姉さんたち。
そのガマンが、一気に弾けた。
最後はもう、声を上げて笑わずにいられなかったんだろうね。
しかし、こちとら、あいもかわらず油断はしない。
満腹感にひたりつつも、こどもらしくかわいげな笑顔を崩さず。
笑顔のウラでは、内心、毒づいてたけど。
「ちゃんとお金くらい、持ってますよーだ。」
って。
「ありがとうございました」と、笑いを残しつつ、頭を下げるお姉さんたち。
私は、最後まで得意げな顔のまま、食堂車の自動ドアを出る。
自動ドアの閉まる音と同時に、私のセレブごっこはおしまい。
まだセレブなんて言葉も、知らないくせに。
自動ドアが閉まった、その直後。
私もまた。
うふふふってイタズラ笑いが、込み上げてならなかった。
(次回に続きます。)
・・・まあそれにしてもねぇ。
親も今やもう高齢だけど、改めて、感謝しなくちゃって思います。
当時、こんな体験の機会を与えてくれたことにね。
2024.11.15
サムネの画像は、下記リンクより、引用させていただきました。
ありがとうございました。
2024.11.15