小6の無邪気な恋心。その2。(塾通いの思い出③)
小6の恋バナ②
「ショールームの店員さん」
年の差恋愛の目覚め?
01
ある日曜、塾の日曜クラスが終わった、その後。
電車賃を節約するために、電車を使わず、歩いて家まで帰った時があったんだ。
その時は、たまたま、私ひとりだった。
その道すがらだ。
街の中心にほど近い電車通り沿いに、ショールームがあって。
家電の量販店というのも当時からあったが、雰囲気がまるで違う。
売ろう売ろうという雰囲気より、むしろゆったり見てもらうためのスペース。
むしろ車のショールームのような雰囲気だ。
当時でいう、オフィス用のパソコンとかを扱っているお店。
まだ家庭用パソコンなんて普及してない時代だったから。
お店じゃないと、パソコンなんて触る機会なんて、他になかった。
だからだろうか。
何を思ったか、ふらっと立ち寄ったんだ、何気なく。
まあ、当時からいかにも私らしい、いつもながらの好奇心ではあるが。
お店の中には、ビジネスパソコンが綺麗に並んでて。
それと一緒に、今でいうmidiキーボードのようなものもあった。
ゲームでも触るような感覚で、なんとなくいじくってみる。
すると、ある店員さんが、何気なく、声をかけてくれた。
「動かし方、わかりますか?」
「何か、曲を流してみましょうか?」
何度も、親切に声をかけてくれた。
最初のうちは、申し訳ない気持ちで、縮こまってた。
だって、こっちは見ての通り、塾帰りのしがない小学生。
こういうお店に出入りするような、背広とネクタイの大人達とは程遠い。
明らかに、買おうとしている客の姿じゃない。
そもそも、こんなところに、こどもがいる事自体、不自然だ。
ましてや当時のパソコンは今以上に高い。
小学生の持ち金で買える金額じゃない。
そんな、お呼びでない、小さな野次馬にも関わらず、だ。
その店員さんは、大人に接するように、丁寧に話しかけてくれた。
その親切心が、最初はむしろ恥ずかしかった。
でも、なんだか嬉しかった。
結局、お言葉に甘え、その日は小一時間ほど、楽しませていただいた。
でも、ずいぶん長居してしまった。
もう帰らなきゃ。
「ありがとうございました。」
あの店員さんを見つけて、今度は私から、お礼を言った。
「また、来てくださいね。」
と、にこやかな店員さんの笑顔。
その一言に、なぜか、また甘えたい気持ちになった。
02
その後。
翌週も、日曜の塾帰りは、電車に乗らず、歩いて帰ろうと思った。
お目当ては、またしてもあのショールーム。
なんでそんなに頻繁に行きたいと思うようになったんだろう?
自分でもわからない。
何となく、だ。
そうとしか言えない。
「何となく、行ってみたい。」
そして、
「またあの人に教えてもらおうかな」という期待も、かすかにもあった。
また、前回のように、ショールームに入る。
店員さんが他にも数人いるのが目に入る。
でも、あの店員さんじゃない。
今日はいるのかな。何となく気になった。
いた。
見つけた。
なんとなく焦るような気持ちで、やや早足で、その店員さんのところへ向かった。
なんで焦っちゃうんだろう。
「すみません、また、あの曲聴きたいんですけど」
「こんにちは。いいよ。どうぞ。」
先週よりも、より親しみのある語調だった。
まるで年下の弟・妹にでも話しかけてくれるように。
そのままキーボードのところへ向かい、曲出しの準備をしてくれた。
手早く操作をすると、電子音が流れ始める。
当時、テレビからよく聞こえてきたヒット曲の旋律だ。
大人びた哀愁を感じる、マイナーキーのメロディ。
それをBGMに、店員さんの横顔をふと見る。
なぜだろう。
その横顔が、何となく、気になった。
じっと見つめようとしたが、同時に、やましさのようなものを感じた。
そんな自分を悟られぬようにか、反射的に、キーボードに視線を落とす。
すると今度は、店員さんの右手に、視線が向いた。
その手肌を、それとなく、じっと見つめていた。
横顔を見つめるより、気づかれにくいだろうと思って。
曲が流れ終わった頃、あいさつをした。
「ありがとうございました。また来ていいですか」
思わず、自分のほうから、次回の約束まで求めてしまった。
その店員さんは、にこやかに、うなずいてくれた。
「どうぞ。また来てね」
何だかその日は、前回以上にほんわかした気分で、帰路についた。
港町の自宅まで、徒歩ならば、結構な距離だったはず。
でも、その道のりでさえ、苦痛に感じなかった。
言いようのない高揚感に、歩みも、心も、躍っていた。
03
そんなことが、しばらく、何度となく続いただろうか。
毎週というほどではなかったが、ほぼそれに近いくらい頻繁に、だ。
いつもは友達と一緒だった塾の行き来も、日曜午後だけは、私一人だった。
寄り道先は友達にも知らせず、自分だけの秘密だった。
不思議と、ぽかぽかとした好天の日しか記憶がないのは、なぜだろう。
ときめくような気分で、ショールームへ立ち寄る。
そして、あの店員さんと言葉を交わし、ほんわかと帰路に着く。
そんな週末が、何度か続いた。
ところが、ある時期になってだ。
なぜだったんだろう。
そのお店に行かない日曜日が、続いてしまった。
理由は、思い出せない。
多分、単純に、何かの偶然だったと思う。所用が入ったとか。
行きたいとか、行きたくないとか、気分の問題ではなかった。
たまたまタイミングが合わなかった、本当に、それだけだったんだ。
04
そんなご無沙汰がしばらく続いてしまった後の、ある日曜の塾帰り。
しばらくぶりに、ショールームを訪れようと思った。
「あの店員さん、今日もいるかな。」
しばらく店員さんの顔を見ていなかったものだから。
いつの間にか、真っ先に、その店員さんのことを思い出すようになっていた。
でも、いざ到着してみると。
あれ。なんか違う?
展示商品の位置が、微妙に、様変わりしてる。
定位置に置かれていたキーボードも、なくなっていた。
場所を移動したのかな?
何人かの店員たちは、今までと変わらない様子。
でも、あの店員さんの顔が、見当たらない。
何となく、心が曇った。
どこにいるのかな。
あれこれ店舗内を物色するふりをしつつ、いく人かの店員さんが、奥にあるオフィスらしき部屋から出入りする様子を、横目で見ていた。
いない。
出てこない。
いつまで経っても、あの店員さんが見えない。
思い切って、一人の別の店員さんに、尋ねてみた。
その方も、私の気持ちを知る由もなく、からりと、愛想よく答えてくれた。
キーボードについては、都合により、置かなくなったとのこと。
そして。
あの店員さんは、もう今はこのお店にはいない、とのこと。
表情にこそ出さなかったが。
心の中で「えっ」と驚いた。
理由までは、あえて聞き出そうとはしなかった。
あの人にこだわっているように、思われたくなかったから。
心の底で無意識に湧き上がる、かすかな動揺。
それを悟られないよう、あえて平然と振る舞った。
私もまた、にこやかにお礼を返し、
まもなく、未練の様子もなく、そのままあっさりと店を出た。
私がショールームに行ったのは、その日が最後となった。
05
その日は、何だか、心にぽっかり穴が空いたような気分で、帰路についた。
空虚感の正体は、わからなかった。
寂しかったとか、悲しかったとか、そういう感情も、別になかった。
でもなんだろう。この、茫漠とした気持ちは。
あの店員さんに何度も流してもらえた、マイナーキーのヒット曲。
いつの間にか、そのメロディが脳裏で何度もリフレインしてた。
不思議なくらい、その時の心境に似合う曲調だ。
情に訴えるような湿っぽさはなく、ニヒルでクール。
でも、何か物悲しい。
どことない哀愁を感じる。
その調べを何度も脳裏で重ねつつ。
呆然と、自宅へ向かって、電車通り沿いに歩みを運ばせた。
この日もまた、気がついたら家に着いていた、という気分だった。
でも、今までのそれとは、何かが違う。
何を考えていたんだろう。
どれだけ時間がかかったのか。
わからない。今でも思い出せない。
06
それから、ずいぶん年月が経ってからだ。
路面電車の街を離れて、もう何年も経ったあるとき。
あのショールームのことを、ふと思い出す瞬間があった。
正直、忘れかけていた記憶でもあった。
でも、久々に、脳裏の底から、おぼろげに思い出が蘇った。
あの調べ。あの横顔。あの手指。
その頃にはもう、ふたつのことが、わかるようになっていた。
ひとつは、あの当時の自分の気持ち。
「あの店員さんのこと、憧れてたんだな、私」って。
まだ大人の恋を熟知するほどの経験はしてないが。
少なくとも、あの頃の自分の心境は、自覚できる歳になっていた。
もうひとつは、あの時流してくれた、メロディの原曲と意味。
当時は、さっぱりわからなかったけど。
今や、それがわかるだけの年齢に成長していた。
「そういう歌だったんだ」って。
その歌は、いわゆる別れ歌。終わった恋の歌。
もちろん、あの人が小学生相手に、そこまで深読みして選曲したとは思えない。
不思議な偶然だったと思う。
07
そして、さらに長い時が流れ。
今や、年齢も、私を取り巻く状況も、大きく変わった。
遠く離れたあの街も、行こうと思えば、いつだって車で行ける。
でも、もう、二度と出会うことは、できない。
あの店。あの人。あの時代。
あのときならではの色を帯びた、あの風景には。
ショールームは、もはや建物すら、きっと残ってないだろう。
あの人は、今どこで、どうしてるんだろう。
まだ、あの街のどこかで、暮らしているのかな。
あの時出会った、通りすがりの小学生のことを、今でも覚えていてくれるかな。
あのとき出会えた、あの偶然を、私が今でも覚えているように。
回想、終わり。
まとめ。
やれやれ、なんの話だか。笑
前回も今回も、何だかひどいね。
まあでもほんと、いずれも実話だったんですよ。
そんな甘酸っぱい思い出も、あの塾通いの中で、あったんだよね。
恋っていうほど、何かがどうなったって話でもないんだけど。
でも、どれも、どの体験も。
あの時間・あの場所・あのシチューションでなければできない体験だった。
あの頃、塾通いをしてなかったら、他にああいう体験の機会はなかった。
その意味では、とても良かったと思うよ。
さあさ、いつものノリに、戻しますよ。
さあ、あとは、何が思い出せるかなぁ・・・。
(完全に、照れ隠しモードですね(恥)。あはは。)
あ、思い出した。
買い食いの思い出とかね。あるねー(笑)。
これは、ちょっとした、友情話かな。
いや、友情ってほどでもないな。
お金を持ちよって、たこ焼き買った話とかね。
(しょーもない・・・苦笑)。
ま、私のキャラには、そーゆーネタのほうがしっくりくるね。
てなわけで、ではまた次回。
2024.11.10