国鉄改革のあゆみ 9
国鉄が昭和61年に打ち出した、期末手当の査定については、各労組間で大きな温度差がありましたが、今回はダイジェスト版としてお送りしたいと思います。
当局他の各論は後ほどに
今回の期末手当査定に危機感を持っているのは国労であることは前回お話したとおりですが、今回の目的が単なる「給与の査定」に留まらず、将来の職員の選別に連なるところが最も注目すべきところではあります。
そんな中、国労は、以前からの三無い運動「辞めない、休まない、出向しない」の運動方針を堅持しており、一人の職員も選別させないとして頑張ってきました。
実際に、この時点では国労は国鉄における最大組織であり、国労の意向を無視して労務管理はできないルール(コミュルール)があったこともあり、当局としてもとを進めることはできなかったのです。
実際に、先に妥結した昇給協定(この資料がありませんのでご存じの方フォローよろしく)では、当局と先行妥結した組合を待たせて、国労との間の仲裁裁定が出されるまで支払いを停止するなど一定の配慮をしてきたのだが、今回の場合は国労が強く反対しても実行される可能性が出てきました。
というのが、労使共同宣言を行った組合が、動労・鉄労・全施労に加えて、国労から脱退した真国労(国労革マル派が分離したもの)と言う4つの組合があり、仮にこの件で妥結すればこの四組合で過半数を超えていることから、当局側は、これら組合に対して責任を負う形となるわけなのです。
国労とすれば、仮にこの制度が実行されると、国労の方針である「選別させない」を反故にしたこととなるため、何としても阻止したいと思うのですが、そのためには国労による他の組合への妨害工作が必要となってきます。
いわば、国労VS当局の知恵比べとなるわけですが、国労組合員の中からも動揺が広がりつつあるなか、方針を貫き通せるかは難しい状況と予測されました。
なお、仮にこの制度が実行されると減額の対象となるのは、約一割の2万4千人であり、その対象者の多くは当局と協調してきた職員ではなく国労所属の組合員となる公算が強いと考えられます。
この時点では国労は、当局案に対してどのように反論するかを決めかねているようであるが、希望退職者の優遇措置法案(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六十一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律)が5月30日に国鉄改革法案の第1陣として可決成立したこともあり、当局としても国鉄分割民営化は既定の路線として進めていく必要が生じたことは間違いない。
というのは、この法案だけを通して他の法案を通さないと今回の法案自体も意味をなさなくなるため政府としても他の法案を必ず通す必要があるからです。
国労にしてみれば、四面楚歌の状況であり、当局の提案を受け入れれば今までの運動方針を撤回したことになるし、拒否したとすればさらに厳しい現実が待っていることを覚悟しなくてはならないわけで、拒否すれば、民営化の際の職員選別をも認めることとなり、さらに厳しい舵取りを迫られることになるのですが、国労は後述のとおりその方針を変更させる事は出来ませんでした。
なお、その辺は後述させていただきます。
なお、参考までに5月30日に成立した、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六十一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律」の条文を載せています。
参考
法律第七十六号(昭六一・五・三〇)
◎日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六十一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、昭和六十一年度において、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法(昭和五十八年法律第五十号)第三条に規定する日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置として、日本国有鉄道の長期資金に係る債務の負担の軽減及び日本国有鉄道の職員の退職の促進を図るための特別措置を定めるものとする。
(一般会計による未償還特定債務の承継等)
第二条 政府は、昭和六十二年三月三十一日において、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(昭和五十五年法律第百十一号。以下「特別措置法」という。)第十八条に規定する特定債務(同日までに償還されたものを除く。以下「未償還特定債務」という。)及び未償還特定債務に係る同日において支払うこととなつている利子に係る債務を、一般会計において承継する。この場合において、当該承継に係る未償還特定債務の償還条件のうち償還期限及び据置期限(以下「償還期限等」という。)については、政令で定めるところによる。
2 政府は、前項の規定により未償還特定債務を一般会計において承継したときは、その時において、日本国有鉄道に対し、未償還特定債務の額に相当する額の長期の資金を無利子で貸し付けたものとする。
3 前項の規定による貸付金の償還に関し必要な事項は、政令で定める。
4 日本国有鉄道は、第二項の規定による貸付金に係る債務の処理に係る計理については、特別措置法第二十条に規定する特定債務整理特別勘定において整理しなければならない。この場合において、同条中「第十八条の規定により貸付けを受けた長期の資金」とあるのは、「第十八条の規定により貸付けを受けた長期の資金及び日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六十一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和六十一年法律第七十六号)第二条第二項の規定により貸し付けたものとされた資金」とする。
(無利子貸付金の償還条件の変更)
第三条 政府は、特別措置法第二十三条の政令で定める債務のうち政令で定めるものについて、同条の規定に基づき延長された償還期限等を更に五年以内において延長する旨の特約をすることができる。
(特別給付金の支給)
第四条 日本国有鉄道総裁は、職員(日本国有鉄道法(昭和二十三年法律第二百五十六号)第二十六条第一項に規定する日本国有鉄道の職員をいう。次項第三号及び第七条を除き、以下同じ。)が業務量に照らし著しく過剰である状態を緊急に解消するため、退職を希望する職員の募集を行う場合において、五十五歳未満の職員がこれに応じて退職を申し出たときは、その者が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、その者について退職を希望する職員である旨の認定を行うことができる。
一 昭和六十二年三月三十一日までに五十五歳となる者
二 日本国有鉄道総裁(その委任を受けて任命権を行う者を含む。)に対しその休職期間の満了する日において退職することを書面により申し出て休職していた者
三 前二号に掲げるもののほか運輸省令で定める要件に該当する者
2 日本国有鉄道は、前項の認定を受けた職員が退職したときは、その者が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、その者に対し、特別の給付金(以下「特別給付金」という。)を支給するものとする。
一 国家公務員等退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)第五条第一項の規定の適用を受けないで退職した者
二 公務上の傷病又は死亡により退職した者
三 退職の日又はその翌日に、常勤の国家公務員若しくは地方公務員又は特別の法律により特別の設立行為をもつて設立される法人その他これに準ずるものとして政令で定める法人の常勤の職員(以下「特殊法人等職員」という。)となつた者
3 特別給付金は、昭和六十二年三月三十一日までに退職した者に対し支給するものとする。
(特別給付金の額)
第五条 特別給付金の額は、退職の日におけるその者の給与のうち一般職の職員の給与等に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)に規定する俸給、扶養手当及び調整手当に相当するものの月額の合計額に十を乗じて得た金額とする。
(特別給付金の返還等)
第六条 特別給付金の支給を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつた場合には、その者は、運輸省令で定めるところにより、その支給を受けた特別給付金に相当する金額を日本国有鉄道に返還しなければならない。
一 その支給に係る退職をした日から起算して一年以内に職員、常勤の国家公務員若しくは地方公務員又は特殊法人等職員となつたとき。
二 国家公務員等退職手当法第十二条の二第一項の規定により支給を受けた一般の退職手当等の全部又は一部を返納させられることとなつたとき。
2 日本国有鉄道は、特別給付金の支給を受けることができることとなつた者であつてその支給を受けていないものが前項各号のいずれかに該当することとなつた場合には、第四条第二項の規定にかかわらず、その者に対し、特別給付金を支給しない。
(特別の配慮)
第七条 国は、日本国有鉄道の職員が著しく過剰である状態を緊急に解消するための措置が円滑に実施されるよう退職する職員の就職のあつせん等及び特別給付金の支給に必要な資金の確保について特別の配慮をするものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
(大蔵・運輸・内閣総理大臣署名)