夜の価値を起点に、都市にクリエティビティを取り戻す──カルチャー・ヴィジョン・ミーティング「これからのナイトカルチャーとエコノミー」開催レポート
これからのナイトタイムエコノミーがより持続可能に復興していくためには、夜の持つ経済・文化・社会的価値を多角的に捉え、まちづくりや観光の分野に積極的に活用することが重要なはず──。
日本の文化芸術の自立・持続化を目指し、クリエイター×産官学のプロジェクトを数々手がける一般財団法人カルチャー・ビジョン・ジャパンは、日本の文化芸術を様々な角度から考えるトークシリーズ 「カルチャー・ヴィジョン・ミーティング(CVM)」を開催しました。代表理事の井上智治さんは、開催に向けた想いについて次のように語ります。
「2014年から、カルチャー・ヴィジョン・ジャパンはクリエイターと産官学連携のプラットフォームとして活動してきました。パンデミック以降はしばらくの休止を余儀なくされたのですが、CVM再開の第一歩として夜を起点に日本の文化・経済を活気づけるには、を考えていければと思います」
ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)は、本イベントにてトークセッション「これからのナイトカルチャーとエコノミー」を担当。
衆議院議員としてナイトタイムエコノミー政策を強力に推進してきた平将明さん、世界的に活躍するDJ/プロデューサーの沖野修也さん、大手町・丸の内・有楽町エリアにおける街づくりを担当する三菱地所株式会社の山元夕梨恵さんをお招きし、JNEAから齋藤貴弘、梅澤高明とともに、「パンデミックにより再認識した夜の価値」と「これからのナイトタイムエコノミー推進に求められる視座」について議論しました。
ボトムアップとトップダウン
両者の動きが交わり推進されたナイトタイムエコノミー
ナイトタイムエコノミーの再開に向けた第一弾として開催された本トークセッション。イントロダクションとして、JNEA代表の齋藤はこれまでのナイトタイムエコノミー推進の取り組みを振り返りつつ、開催に際しての想いを語りました。
ナイトタイムエコノミー推進に向けたの活動の始まりは、2010年頃から2016年にかけての風営法改正のムーブメントだったと齋藤は述べます。風営法の改正前、ナイトクラブの営業は風俗営業とされ、強い規制を受けていました。
特に2010年頃には、大阪、京都、福岡、東京などのライブハウスやナイトクラブの摘発が強化され、業界内の不満はピークに達していたといいます。そこから、法律改正に向けた署名運動などが活発化し、最終的には齋藤がそれらをまとめ行政と対話するかたちで、2016年に改正が実現しました。
齋藤 風営法改正のムーブメントはクラブ経営者やアーティスト、エンターテイメント事業者、そしてクラブやダンスのファンによるボトムアップな活動から始まりました。そこに、本日のイベントに登壇してくださる平将明さんを筆頭とした政治的な動きも加わり、大きな法改正へと繋がりました。
その後は、これまで規制産業として成長が阻害されていたナイトタイムエコノミーをどのように盛り上げていくのかという議論に注力するようになった、と齋藤は述べます。その議論の中心となったのは、議員の人々の集まりであるナイトタイムエコノミー推進議員連盟。議連には民間のアドバイザリーボードが設置され、アーティスト、クラブ事業者、デベロッパー、観光業界、セキュリティーや交通インフラ、メディアなどの夜に関係する多様なステークホルダーが集まり、議論を交わすようになったと述べます。
齋藤 当時、急増していたインバウンド観光分野に力を入れていた観光庁がナイトタイムエコノミー政策を強く打ち出したこともあり、JNEAでは2018年以降、ナイトタイムのコンテンツ造成や各種調査事業を実施するようになりました。また、ナイトタイムエコノミーの先進都市アムステルダムのナイトメイヤー(夜の市長)やベルリンのクラブコミッションの人々と積極的に意見交換を始めたのもこの時期です。夜の持つ経済効果の側面も大切ですが、夜は実験的で創造性に富む文化が生み、多様な人々の交流を生み出す場でもありますよね。そこで、彼らと共に、夜が持つ文化的な価値や社会的な価値を可視化する「Creative Footprint TOKYO」というリサーチを行いました。
ナイトタイムエコノミーのリスタートに向け、
改めて「夜の価値」を語り合う
2020年は、これからナイトタイムエコノミーを盛り上げようというタイミングだったものの、新型コロナウイルス感染症が全世界を襲いナイトタイムエコノミーが停止を余儀なくされたと齋藤は語ります。
齋藤 動きたくても動けない。そんな状況が2年間も続きました。ただ、ようやくこのようなトークセッションが開催できたように、再度ナイトタイムエコノミーを盛り上げていくために、皆様にお集まりいただけたことを非常に嬉しく思います。
齋藤は続けて、今回のトークセッションの目的として「改めて夜が持つ価値を考える」「ボトムアップで夜を盛り上げる」の2つを掲げました。
1.改めて夜が持つ価値を考える
ナイトタイムエコノミーを盛り上げるにあたって重要なのは「夜をパンデミック前の状態に戻すのではなく、より魅力的に夜をアップデートすること」だと、齋藤は指摘します。
齋藤 パンデミック前、インバウンド観光は大きな盛り上がりを見せていました。ナイトタイムエコノミー推進も観光文脈で語られることが多く、観光消費を増やすことが議論の中心でした。インバウンド観光は国策としても重要です。しかし、多くのインバウンドを受け入れるために、マスコンテンツの溢れる標準的な街ができていないか、従来の街の個性を活かした日本らしい夜を作れているのか、といった懸念があったのも確かだったと思います。ナイトタイムエコノミーを再び盛り上げていくこのタイミングだからこそ、改めて夜の価値について確認し、どんな夜を作っていくのか議論することが重要だと感じています。
2.ボトムアップで夜を盛り上げていく
もう一つの目的は「多くのステークホルダーを巻き込んだナイトタイムネットワークの醸成」だといいます。
齋藤 風営法改正や今までのナイトタイムエコノミー推進がそうだったように、夜の価値は誰かが主導して作るのではなく、皆で作っていくものだと思っています。JNEAでは今年、ナイトタイムエコノミーに関わる多様なステークホルダーが対話できる土壌をつくるべく「Voices of the Night」と題してワークショップやトークセッション、ネットワーキングイベントなど様々な場を展開していきます。
梅澤高明が語る、夜の持つ経済・文化・社会的価値
トークセッションでは引き続き齋藤をモデレーターに、衆議院議員の平将明さん、DJ/プロデューサーの沖野修也さん、三菱地所株式会社の山元夕梨恵さん、JNEA理事の梅澤高明がそれぞれの夜に対する関わり方について語った後に、ナイトタイムエコノミー推進施策について議論を交わしました。
齋藤 はじめに、梅澤さんがなぜナイトタイムエコノミー推進に取り組むのかをうかがえればと思います。梅澤さんは風営法の改正から現在に至るまでフルコミットされてきたと思うのですが、その背景にはどんな想いがあるのでしょうか?
梅澤 夜にはとても重要な価値があると考えているからです。経済活動の場としての夜、多様な人と出会い交流を深める場としての夜、創造的で実験性に富む文化的表現の場としての夜。わたしたちの豊かな生活の多くは夜に支えられています。
齋藤 文化や観光の文脈で語られることの多いナイトタイムですが、それだけに留まらない多角的な価値を持つのですね。
梅澤 そうですね。たとえば、風営法の改正の際には、齋藤さんも語っていたように夜の「経済的価値」が注目されました。政治・行政の方々に夜の価値を伝える際には、ナイトタイムエコノミー推進はインバウンド観光を盛り上げていくためのひとつのファクターだとよく話していました。
昼は観光コンテンツが多く、楽しみ方も多様ですが、夜はおいしい食事を味わえるものの、それ以外は楽しめるコンテンツがない……。海外を見るとカジノやナイトベニューが人々のディスティネーションとなり、大きな経済効果を生むこともあるのに、非常にもったいないですよね。
齋藤 夜の価値について、他にはどのような語り口があるのでしょうか。
梅澤 夜は新たなカルチャーが生まれる場でもあります。例えば、パンクロックやヒップホップも最初は夜を起点に活動する若者のサブカルチャーでした。しかし、今ではファッションやアートと一体となって成長し、その都市を代表するようなライフスタイルに昇華しています。メインストリームの文化になるカルチャーの多くは、新しい感性を持った若者たちが活動する夜から生まれる。だからこそ、夜のエコシステムを守りながら、発展させていかなければいけないと思っています。これが文化的価値です。
そして最後に、社会的価値です。夜は昼の肩書きを超えて多様な人々が出会い、仲良くなり、緩く対話できる環境だと思っています。この「緩い」というのが重要なキーワードです。僕は昼間はCIC Tokyoというイノベーション拠点を運営しているのですが、固い場にしてしまうと新しいことや面白いことが全く生まれないんですよね。少しいい加減でフラットに会話をできるところからしかイノベーションは生まれないからこそ、夜の一番いいところは「名刺交換から始まらない」部分にあると思ってます。
沖野修也が見る日本のナイトタイムエコノミーの現状
齋藤 沖野さんは世界中の都市でDJをされていますが、海外の都市と比較したときに東京の夜の雰囲気や価値をどのように見ているのでしょうか?
沖野 僕は直近だと2022年の3月からの1ヶ月間イギリスとスコットランドに滞在していました。アーティスト活動の中で、ライブハウス、ナイトクラブ、バー、レストラン、ホテルと多くのナイトベニューを見て回ったのですが、どこもエネルギーに満ち溢れていました。パンデミックによる規制から戻りつつある中で、お客さん側にも仕掛ける側にもナイトタイムエコノミーを再び盛り上げていくための強い意志を感じられました。
齋藤 話には聞いていたのですが、実際に海外ではパンデミック後の世界に移行しつつある都市もあるのですね。
沖野 はい。梅澤さんが先ほどおっしゃっていたような夜の価値を肌で感じることができる、毎晩行きたくなるベニューばかりでした。ただ、そこから日本に帰国したら日本の夜はまだまだ暗くて、そのギャップにすごくショックを受けたんです。そんな経験も踏まえつつ、ナイトタイムエコノミーを少しでも前向きに考えられるよう、本セッションに参加いたしました。
平議員が取り組むレギュレーションのリデザイン
齋藤 風営法改正を政治的アプローチにより推し進めていた平さんは、夜に悪いイメージが蔓延する当時に、ナイトタイムエコノミーという新しい市場価値を見出し、社会や行政に対して発信していたと思います。文化的・経済的価値を包容するナイトタイムエコノミーというコンセプトを打ち出していただいたからこそ、風営法改正がメインストリームの政策として推進されたといっても過言ではありません。そこで、今の日本の夜がマイナスのイメージを払拭し、パンデミックから持続的に復興するための視座があればお伺いしたいです。
平 政治・行政の観点からお話すると、日本の政治家は現場のビジネス感覚やカルチャーへの理解を持ちにくい。何か事件や批判が起きると、正義感が先走り、過剰規制になる傾向があるんです。その規制がビジネスやカルチャーにどのような影響を受けるかイマジネーションがないまま規制を強めすぎると、どんどん息苦しくなっていき、新しい可能性の芽を摘んでしまう。
齋藤 ナイトタイムエコノミーと政治とでは、使う言語や視座が異なるこそ、夜の価値を適切に伝え、両者の目線合わせを行うプレイヤーが求めれますよね。
平 そうですね。私は今、自民党東京都連の政調会長をやってるのですが、まさに現場のプレイヤーと行政との目線合わせを進めています。日本にはサブカルチャーやナイトカルチャーなどに日本ならではの本物の魅力が多く存在する。だからこそ、それを作り出している現場のプレイヤーを尊重し、その価値をエンパワーしていく──。今の政策に重要なのは、価値の創出の負担となる規制をリデザインし、逆に光を当てていくことだと考えています。
齋藤 素晴らしい取り組みですね。
平 地方創生にも同じ意識で取り組んでいます。昼・夜関わらず、日本は地域ごとに非常に高いクオリティの観光・文化資源がある。けれどそれが充分に活かしきれていないんです。地域の文化資源の価値を引き出し、その魅力は世界に向けて発信していく。ナイトタイムエコノミーに関わらず、日本全体に求められる視座だと考えています。
まちづくりの視点から「夜の価値」を問い直す
齋藤 地方創生の話もありましたが、山元さんはデベロッパーの目線からナイトタイムエコノミーを推進していると思います。山元さんはまちづくりという文脈の中で、夜のどんな価値に注目しているのでしょうか?
山元 夜の価値は、先ほど梅澤さんのおっしゃっていたような3つの価値が相互作用的に影響を及ぼし合っているところだと思います。そんな価値の循環を都市に実装するべく、現在は、まちづくりの一環として都市観光に取り組むことの意義、目指す都市像、実現するための具体的戦略を取りまとめた都市観光ビジョンの元に、大丸有ならではの夜帯の捉え方を整理しています。都市観光ビジョンでは、時間と空間に注目して人々の回遊性や経済活動を昼・夜問わずいかに分散・最適化できるか、そのうえでハレとケの活動をいかにして作り出すかを模索しています。
齋藤 具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
山元 数々の取り組みを行っているのですが、その一部を紹介すると...。
東京駅周辺では、道路などの公的空間を活用してのお祭りやイベントの開催を行っている他、「コットンクラブ」や「P.C.M.」などの大人の遊び場や、深夜営業する「丸の内テラス」などがあります。
新丸ビル「丸の内ハウス」では、文化やコミュニティ活動に力を入れており、コロナ禍のため変則的ではありますが、朝4時まで、9つのレストランやバーを営業しています(注:来春リニューアルに向け一部閉鎖中)。週末はDJによる音楽が空間を演出し、一番奥にあるスナック”来夢来人”には毎夜ディープな人々が集まります。丸の内の中でも希少なナイトベニューとして、長く愛される場所となっていると感じます。
会員制コミュニティオフィス「有楽町 SAAI Wonder Working
Community」内には会員だけが利用できるナイトベニュー「Bar変態」があります。昼間は普通のワーカーである会員が、夜には自らチーママ・チーパパとして立つ。ビジネス街ならではのナイトコミュニティが醸成しています。
アーティストと街の交流からイノベーションを起こす有楽町アートアーバニズム「YAU」。アートの制作過程を街なかで広く公開することにより、クリエイティブな人々の多様な出会いを誘発するプロジェクトです。
夜の価値を起点に、都市にクリエティビティを取り戻す
齋藤 ここからは、ナイトタイムエコノミーを推進していくにあたり、求められる視座について議論できればと思います。僕自身、今回のパンデミックを経て、人々の都市での生活のあり方について考え方や価値観が大きく変化しました。だからこそ、都市空間の保つ役割を改めて捉え直した上で、夜の価値についてもう一回見直していきたいと思っています。
梅澤 最近ではJNEAのなかでもよくこの議論をしているのですが、パンデミック以降のナイトタイムエコノミー推進に求められるのは、クリエイティブシティの文脈で夜の価値を語ることだと考えています。クリエイティブシティとは、市民の創造性が都市発展の戦略的要素であるとする都市論です。寛容性(時間帯にとらわれないライフスタイル・LGBTQなどのマイノリティの過ごしやすさ)のある都市こそが、世界中のクリエティビティ溢れる人々を魅了し、イノベーションや創造性を生む土壌になるという考え方です。
平 僕もクリエイティブシティの考え方には注目しており、都市部もですが、地方創生文脈で盛り上がりを見せています。地方創生に取り組んでいて感じるのは、多様な価値観を持った人がいなければ新しいアイデアが出てこないことです。街に新たなアイデアをもたらして活性化するには、多様な人々の交流が重要です。
齋藤 多様な交流を生み出すために注目しているのはどんなことでしょう。
平 最近ですと、新しいデジタルの動きによって加速されていると感じます。例えば、世界中で高値で取引される錦鯉で有名な新潟の山古志村の例ですが、地域で育てている錦鯉をデザインしたNFTを発行し、このNFTを購入した人はデジタル村民になるとしたんですね。そうすることで人口を上回る人数のデジタル村民ができ、しかもそこには伊藤穣一さんや平井卓也元デジタル大臣がいたりする。多様なデジタル村民たちが、DAOのような組織となってどうやって山古志村を活性化しようかっていうのをずっと議論してるんです。また都市部からの移住やワーケーションしにきた人々との交流もコロナ禍で広がりました。よりフラットで近しい関係を作ることができる夜の交流、地方部のナイトタイムエコノミーを盛り上げていくことも重要ですね。
梅澤 そうですね。JNEAでも、地方創生の文脈で夜を盛り上げるのが、これからのナイトタイムエコノミー推進の方向性の1つだと捉えています。JNEAもパンデミックの2年間、地方の観光資源を磨く取り組みをしていました。地方には魅力的な観光資源が多く存在するけども、夜間は充分に活用できていなかったり、宿泊まで繋がらず経済効果が小さかったり……。インバウンド観光が止まっているタイミングだからこそ、それらを整備できるよう取り組んでいました。その過程で、面白いことが起こっている地方部の多くで、都市からのUターンやIターン組の人たちが地元の変革者たちと一緒に活動する光景を頻繁に見ました。
沖野 僕も皆さんと同じく、この2年間は地方での活動に力を入れていました。長野県の野沢温泉村であったり、滋賀県の近江舞子であったり。地方ならではのユニークベニューを活かしたフェスやイベントにも多く関わってきたのですが、熱量にかなり圧倒されました。コロナ禍でリモートワークが当たり前になったことによって、自分を含め、東京などの都市部で活動をしていた人々が地方の良さを再認識したのかなとも思っています。
地方との関係性の中での東京の夜の価値を問う
齋藤 そうですよね。僕らも地方のポテンシャルを再認識した2年間でした。ただ、その反面で東京を中心とした都市部の夜をどのように捉えるべきか悩んでいます。地方の夜が盛り上がりを見せる中で、東京の夜はどう変化するべきなのでしょうか?
山元 私は都市と地方は二項対立の関係性ではなくなり、コロナがきっかけとなり、より有機的につながったと感じます。社内でも二拠点生活している社員は増え、都市生活者の価値観や行動も変容しました。自然豊かで歴史ある地域文化がある地方部の魅力が再発見されたコロナ禍だったと思いますが、東京ならではの魅力や価値もやはりあります。地方との関係性の中で東京が何を担うべきか、どんな魅了があるのかを考える必要があると思います。
沖野 同感です。僕は都市がそのローカルな魅力を主体的に発信することが重要なのではと思います。東京には、見つかっていないような夜の魅力ってまだまだあります。僕は渋谷で30年以上、音楽を中心に人々が集う場”THE ROOM”をやっているんですが、そこに来るお客さんは皆、渋谷のおすすめのスポットを知りたがるんです。僕はその人たちに手書きで渋谷のマップを作って渡します。コーヒー屋、レコード屋、ビストロ、レストラン、ギャラリー、古着屋だったり。こんなローカルの情報は東京はまだまだ少ない。だからこそ、そんな情報を得ることができる夜の場や交流はとても大事だと思いますし、東京もローカルの夜の魅力を積極的に発信していって、地方や海外から来た人々にその魅力を伝えていく、再提案することが重要だと思っています。
山元 すごく面白いです。二拠点生活やリモートワークの話がある中で、東京の街に足を踏み入れる人の数って確実に減っていると思うんです。だからこそ、東京の夜も仕事終わりのついでではなく、わざわざ足を運んでもらう場にならなくてはいけなくて、そのためにも夜の価値を積極的に伝えていくことは重要ですよね。大手町・有楽町・丸の内エリアにしても、28万人の就業者が毎日来ていた街から、就業者以外の100万人の人たちに来てもらえる街にしていく。そうすれば就業者が週に3日しか来なかったとしても、街は多様性を増し、面白く元気になっていくと考えています。
梅澤 東京で過ごす人が減ったという話を踏まえると、都心に住む人をもう少し増やした方がいいのではと感じます。都心部には今は富裕層向けのレジデンスしかないけれど、古い雑居ビルを活用して賃料低めの住宅を増やすなど、若い人に住んでもらうことも重要なのかなと思います。若い世代が増えれば、昼夜問わずストリートを歩く人が増えて、飲食店や商業施設、ナイトベニューなどの周辺サービスも充実するし、街全体が活気づくと思うんですよね。
クリエイティブのためのルールメイキング
平 これは都市・地方問わずですが、外から来た人に街の魅力を感じてもらうためには、Airbnbや民泊も有効だなと思います。クロアチア共和国のドゥブロヴニクという『魔女の宅急便』の舞台にもなった美しい半島があるのですが、そこには高級ホテルはなく、一軒一軒が民泊になっているんです。観光開発をせず、地域固有の魅力を守りながらも、住民は収入が得られる。加えて、都市と地方、日本と海外の交流も生まれる。とても魅力的ですよね。ただ、そこでハードルになるのが、規制の問題です。日本では民泊は年間の宿泊日数などに厳しい規制があり、事業として運営するのが厳しい現状で、非常にもったいない。
齋藤 風営法のときもそうだったように、ナイトタイムエコノミーや都市全体を盛り上げていくためには、ルールをリデザインが重要ですよね。
平 そうですね。私が副大臣として国家戦略特区を担当していて一番感じたのは、規制を緩めることで付加価値を出しやすいのは都市だと言うことです。建築物の高さ制限や車道の規制を少し緩めるだけで、街に自由に使える空間が多く生まれます。例えば、東京駅の建物は、なぜ収益性が低い低層のまま、歴史的な建物を残すことができているのか。本来使えるはずの高層部分を空中権として隣のビルに売っているためです。それによって建物単体では採算が取れないけれど、東京駅に染みつく文化的な価値を残した事業を作っていける。つまり、ルールをうまく使うことで、事業採算性のことだけを考えずに、街にいろんな可能性が生まれてくるんです。
齋藤 僕は普段は弁護士をしているのですが、法律とかルールって実はすごくクリエイティブなものだなと思います。弁護士に相談にくる方はトラブルを起こした方が多い。なのでネガティブなイメージが強いかもしれませんが、ルールって本当はクリエイティブなものを生み出すものとして利活用できるんです。風営法改正によって、夜間に新しい経済や文化が生まれたこともまさにそうですよね。
梅澤 これからのナイトタイムエコノミー推進に重要なのは、まちづくりの文脈で夜の価値を語ること、ハードルとなるルールをクリエイティブに変革していくことだなと考えています。そのためには、政治・行政の方によるルールメイキング、デベロッパーの方々による文化資源に注目したまちづくりの推進、アーティストやDJの方々を中心としたボトムアップな取り組みが重要です。ナイトタイムエコノミーの推進には、多様なステークホルダーの連帯が欠かせないからこそ、JNEAではこれからもネットワークの場や対話の場を多数展開していきますので、引き続きご注目ください。
フラットな夜のネットワークをつくる
クリエイティブ、産業・行政・学術のプラットフォームであるカルチャー・ビジョン・ジャパンとJNEAの呼びかけにより、多種多様なゲストにお越しくださいました。トークセッション終了後はネットワーキングの時間です。会場を音楽で演出するのはニック・ラスコムさん。ニックさんは、イギリスBBCをはじめ多くのラジオ番組を制作やDJをされている他、MSCTYの創設者兼クリエイティブディレクターとして音楽と都市や空間の関係性についてのプロジェクトも行っています。会場では、パネリストのディスカッションを受け、ゲスト達による夜について様々なアイデアが飛び交うとともに、その会話を実践していくための多くの交流が生まれました。