ナイトタイムエコノミーの推進に向け、多様なステークホルダーが対話できる土壌をつくる──「Voices of the Night」トークイベント 開催レポート
新型コロナウイルスによるパンデミックの影響により、ナイトタイムエコノミーは大きな打撃を受けました。人々は集うことを制限され、夜の経済活動の多くは抑制されました。
しかし、夜は私たちが豊かな生活を送るために欠かせない時間であるはず。昼の肩書きを超えた交流の場としての夜、創造的で実験性に富む文化的表現の場としての夜、経済活動の場としての夜。
そんな夜の持つ価値を私たちの日常に取り戻していくには、夜に関わる多様なステークホルダーが連帯し、進むべき方向を模索していく姿勢が求められるはずです。
そんな思いから、ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)では今年、ナイトタイムエコノミーに関わる多様なステークホルダーが対話できる土壌をつくるべく「Voices of the Night」と題してワークショップやトークセッション、ネットワーキングイベントなど様々な場を展開していきます。
2022年8月10日には、その皮切りとしてオンライン・トークイベント「これからのナイトタイムエコノミー」を開催しました。登壇者は、パンデミックの厳しい状況下でも、夜の価値を信じてトライアルを重ねてきた人々です。
本記事では、そんなナイトタイムを牽引するプレイヤーが語る、パンデミックにより再認識した夜の価値と、これからのナイトタイムエコノミー推進に求められる視座について一部抜粋して紹介します。
ナイトタイムエコノミーを推進するための、より具体的な施策について知りたい方はぜひ下記のアーカイブ動画をご覧ください。
「夜の価値」は人々の対話によってつくられる
イントロダクションセッションでは、JNEA代表理事の齋藤貴弘が「Voices of the Night」開催への想いを語りました。齋藤は、風営法改正・ナイトタイムエコノミー政策を主導した経験を踏まえ、ナイトタイムエコノミーを再度盛り上げるために重要なのは、夜に関わる人々の声を聞くことだと述べました。風営法の改正も、皆の声を大切にしたボトムアップのアプローチから生まれたものであったと語ります。
セッションの終わりには、「Voices of the Nightという小さなアクションが、やがて大きなムーブメントとなり、これからのナイトタイムエコノミーをより豊かに変えていけるよう活動を続けていきます」と述べ、夜の価値を取り戻す活動への協力を呼びかけました。
トライアルを重ねて見えたナイトタイムエコノミーの機会領域
キーノートセッション 「世界のナイトタイムエコノミー復興戦略」には、⽂化・クリエイティブ関連のコンサルタントVibelabよりミリク・ミランさんとルッツ・ライシェリングさんが登壇しました。
Vibelabはアムステルダムの元ナイトメイヤー(夜の市長)であるミリク・ミランさんが立ち上げた、ナイトタイムエコノミーを専門とするコンサルティング会社です。パンデミック下でもいち早く、世界のナイトタイムエコノミー復興施策をまとめた「GLOBAL NIGHTTIME RECOVERY PLAN」を発表するなど、グローバルなナイトタイムネットワークの中心としてナイトタイムエコノミーを推進してきました。
本セッションでは、パンデミック下でのVibelabのトライアルを振り返りつつ、行政と現場の架け橋となるプレイヤーの必要性が指摘されました。ルッツ・ライシェリングさんは、ナイトタイムエコノミーを推進するためには、夜に関わる多様なステークホルダーの目線を合わせを行うプレイヤーの存在が欠かせないと語ります。
ナイトタイムは音楽や文化だけでなく環境や交通、防犯、コミュニティといった都市に関わるあらゆるステークホルダーにとって重要なテーマだからこそ、それぞれの業界で語られる言語や常識を理解し、信頼関係を築いた上で慎重に合意形成を行う必要があるといいます。セッション内では、さらにナイトタイムエコノミー推進に向けた機会領域として「才能の発掘」「オンラインとオフラインの統合」「遊休空間の活用」が紹介されました。
情熱や本能の視点から「夜の価値」を語ることの大切さ
セッション1『ポスト・コロナにおける日本のナイトタイムエコノミー』では、ナイトタイムエコノミー推進の方法論について議論が交わされました。登壇したのは、TEAL Inc. 代表/COAMT 代表の臼杵杏希子さん、DJ/プロデューサーのNaz Chirsさん、Smappa!Group 会長/歌舞伎町商店街振興組合 常任理事の手塚マキさん。
ナイトタイムエコノミー推進協議会 理事 梅澤高明をモデレーターにパンデミックを経て再認識した夜の価値と、日本のナイトタイムエコノミー推進に求められる視座について語られました。
3人が共通して語っていたのは、「昼の肩書きを超えた人々の交流が夜の価値である」ということでした。手塚さんは、夜には自分の知らない価値観を持つ人との出会いがあり、それが人々の心を育み豊かにしていくと語ります。
さらに、臼杵さんはコロナ禍のクラブに言葉では表せないようなかけがえのなさを感じたといいます。集うことが制限されるなかでもクラブに来る人々は心の底から音楽を求めていて、熱気と創造性に満ち溢れていたと述べます。
そんな議論を踏まえた上で、Naz Chirsさんは豊かなナイトライフの実現に必要なのは「情熱や本能などの不可算な価値を軸に夜の価値を捉え直すこと」だと語ります。
意気投合できる友人と語り合う瞬間やいい音楽に出会えた瞬間など、夜の価値は数字では説明できないもののはず。それなのに今の夜は「どれだけ儲けが出るか」「人々が訪れるか」という指標でばかり語られているのではないか、とNazさんは指摘します。
最後に、梅澤は本セッションを通じて夜の価値は数字で表せるようなものではないことを再認識したと語り、「夜の持つ感性的な価値の重要性をどのように伝えていくのか」という問いに改めて向き合うことの重要性を指摘しました。
夜は新たな文化を醸成する土壌
セッション2『ポスト・コロナにおける日本のナイトタイムエコノミー』では、草の根的な活動からはじまり、今ではグローバルに活動し、ナイトタイムに大きなインパクトを与えてきた3人のプレイヤーが日本のナイトタイムエコノミーについて語り合いました。
登壇したのは福岡音楽都市協議会 理事 深町健二郎さん、元ロームシアター京都 橋本裕介さん、タイムアウト東京 代表 伏谷博之さん。ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事の齋藤貴弘をモデレーターに、まちづくりや観光における夜の価値や、文化を育むエコシステムデザインについて議論されました。
本セッションにてキーワードとなったのは「新たな文化を醸成する土壌としての夜」。伏谷さんは、パンデミックの中でも多くのプレイヤーはナイトカルチャーに身を浸し創造的に活動してきたと語った上で、夜を舞台に文化と経済の好循環をデザインすることの重要性を指摘しました。
では、どのように経済と文化の好循環をデザインするべきなのでしょうか? この問いの答えを探るべく、福岡を中心に音楽を切り口にまちづくりとコミュニティ形成を行ってきた深町さんは、まちづくりや観光の分野における音楽やナイトタイムエコノミーの可能性について紹介。熱量を持って推進される草の根活動の意義が語られました。
また、京都において文化産業の創出に従事してきた橋本さんは、コロナ禍でニューヨークへと移住し、数々の現場を経験することで見えた、芸術文化支援のあり方や社会的合意形成を得るプロセスについて紹介しました。
夜の価値を見つめ直し、新しい形でナイトタイムエコノミーを推進するべく開催した本イベント。ナイトタイムエコノミーが停止を余儀なくされるなかでも、歩みを止めずに活動を続けたプレイヤーからのリアルな声が集まりました。
そんな声に耳を傾けるなかで再認識したのが、ナイトタイムにおける「対話」の重要性です。多様なバックグランドを持つ人々が情熱や本能のままに語り合えるのが夜の価値であり、同時にナイトタイムエコノミーの推進に向けて重要な視点です。
JNEAでは「Voices of the Night」を通じて、夜の価値について対話を深め、行動へと移していく場を展開していきますので、私たちのビジョンに共感いただける方は、ぜひ活動の輪にご参加ください。