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夜の視点から生まれる都市の文化と多様性──「全国エリアマネジメントシンポジウム2022」開催レポートVol.2

2022年9月8日、ナイトタイムエコノミー推進協議会(以下JNEA)は全国エリアマネジメントネットワークの主催する全国エリアマネジメントシンポジウム 2022「都市にダイバーシティ&インクルージョンを 〜ナイトタイムエコノミーとエリアマネジメント〜」に登壇しました。

前回の記事では、JNEA代表理事の齋藤貴弘が担当した「これからのナイトタイムエコノミー。夜から街をひらいていく」の様子をお届けすることで、観光・文化・まちづくりに関わる多様なステークホルダーによってナイトタイムエコノミーを推進していく重要性について提示させてもらいました。

今回はJNEAのメンバーであり、森ビル株式会社にてタウンマネジメントを担当する伊藤佳菜が登壇したプレゼンテーションセッション「夜の可能性とまちづくり~エリアマネジメントの役割~」の内容をレポートすることで、夜を起点としたまちづくりの可能性についてお届けしていきます。

世界一の都市が持つ「多様性」と「文化」

森ビル株式会社にてエリアマネジメントやナイトタイムエコノミー政策に関する規制緩和や政策提言、JNEAでは東京の夜間文化価値調査「Creative Footprint TOKYO」の制作などを担当してきた伊藤は、自身の経験を踏まえつつ、ナイトタイムエコノミーとエリアマネジメントの関係性について語りました。

「先進国では75%もの人口が都市に住んでいると言われる都市の時代。激しい都市間競争下において、どのような都市が人々を惹きつけるのだろうか?」

このような問いの提示から始まった本セッション。伊藤は都市の魅力を測るための指標のひとつとして、森記念財団にて制作を担当していた「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」を紹介しました。

本ランキングは、国際的な都市間競争において、人や企業を惹きつける“磁力”は、その都市が有する総合的な力によって生み出されるとしており、世界の主要都市の「総合力」を経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野で複眼的に評価しています。最新の調査結果では1位がロンドン、2位がニューヨークとなっており、東京は世界3位にランクインしています。

伊藤は本調査の制作を担当していた当時、「どうやったら東京は世界一の都市になれるのか?」という問いをよく投げかけられていたと語ります。

伊藤 東京オリンピック開催に向けて盛り上がっていた2016~2017年当時。東京を世界一位の都市にするために必要な施策を検討するべく、さまざまなシミュレーションを行っていました。「観光客数が2倍になったら」「美術館が30個増えたら」など都市におけるさまざまなパラメータを調整したのですが、なかなか一位にならないことがわかったんです。

そこで、伊藤はパラメータだけではわからないような東京とロンドン・ニューヨークとの違いを知るべく、現地調査を実施。現地の人々へのインタビューを通じて見えた東京に足りない要素は、下記の3点であったと伊藤は語ります。

1.多様性にあふれる社会
2.そこで暮らす人々の文化と共にあるライフスタイル
3.ソフトとハードが一体となった、官民連携のまちづくり

伊藤 ロンドンやニューヨークには多様な属性の人々を受け入れる寛容性に満ちた社会が広がっているとともに、皆がその社会を誇りに思っていることが印象的でした。また、そこで暮らす人々は美術館や劇場に行くのが当たり前で、文化と共にライフスタイルがありました。同時にそのような多様性や文化性をもったライフスタイルを支えるためのソフトとハードが一体となった、官民連携のまちづくりが推進されていたのです。そして、東京とロンドンやニューヨークの差は夜により顕著に現れていると感じました。

「まちづくり」にもっと夜の視点を

このような視点を踏まえたときに日本の夜に課題意識を感じるようになった、と伊藤は続けます。

伊藤 ロンドンやニューヨークでは、ナイトライフの選択肢が充実しているとともに夜には昼の肩書きを超えた多様性溢れるコミュニティが広がっていました。しかしながら、今の日本人の夜の過ごし方に関する調査結果を見ると、ビジネスパーソンの多くが夜やることがなくて困っていたり、観光客の夜の楽しみ方が居酒屋やスーパー、コンビニであったりと、改善すべき余白をすごく感じたんです。

そもそも、まちづくりにおける夜の重要性は、日本においても100年以上前から注目されていたと伊藤はいいます。都市における広場の重要性を説いた第一人者であり、戦後の東京復興計画を先導した、都市計画家の石川栄耀氏は夜の都市計画論において「夜こそが人生」であると語り、産業・経済主導の都市計画のだけでなく、生活・文化中心の都市計画があるべきだと唱えていたといいます。

(キャプション:『都市計画家・石川栄耀―都市探求の軌跡』中島 直人/西成 典久/初田 香成/佐野 浩祥/津々見 崇【共著】より抜粋

夜×エリアマネジメントの5つの機会領域

このようなまちづくりにおける夜の重要性の議論を踏まえた上で、伊藤は夜×エリアマネジメントの可能性として「賑わい創出」「交流・コミュニティ」「地域課題の解決」「人材・インフラ」「ブランディング」という5つの視点を事例とともに提示しました。

1.夜×賑わい創出

例えば、冬季に街全体を彩るイルミネーションも、夜ならではの賑わい創出の事例といえるでしょう。イルミネーションやライティング、アートインスタレーションを街の中に設置することで、夜の街を活気づけられます。

2.夜×交流・コミュニティ

例えば、クリエイティブディレクターの佐藤夏生氏率いるEVERY DAY IS THE DAYと株式会社オープン・エーの共同企画による「公園の花火屋さん」では、薄暗く怖いイメージのある夜の公園に、移動式の花火屋を設置することで、夜の公園を子どもたちの遊び場や近隣住民の集う場へと生まれ変わらせました。その他にも、盆踊りやシネマナイト、ナイトヨガなどのイベントを都市を舞台に開催することで、昼の肩書きを超えた出会いや交流を生み出すことができます。

3.夜×地域課題の解決

例えば、「夜のパン屋さん」は、昼間に売れ残ってしまったパン屋さんのパンを安値で引き取り、夜に販売する取り組みです。ビッグイシューが運営を行うこのプロジェクトは、夜という時間帯を活用することにより生活困窮者の雇用の創出とフードロスの削減を実現しています。このように「夜」を切り口にさまざまな課題を捉えなおしてみることで、解決に繋がることがあるかもしれません。

4.夜×人材・インフラ

夜のエリアマネジメントを考える中で欠かせないのが人材・インフラの視点です。日々の生活が当たり前に続けられるのは、夜間に働いている人達がいるからだということを忘れてはなりません。これからはナイトワーカーたちが昼に働く人々と同様のサービスを受けられるようなサービスや交通インフラを拡充していくことも重要です。

5.夜×ブランディング

シドニーでは、毎年5月下旬から6月にかけて、複数の会場で開催される世界最大級の光、音楽、発想の祭典「Vivid Sydeny」を開催しています。(2020年・2021年はパンデミックの影響により中止)このような大規模なイベントの開催は、インバウンド観光の推進に繋がるとともに、シティブランディング/シティプロモーションとしても有効です。

多面的な活動の舞台となる24時間都市をつくる

本セッションのまとめとして、伊藤はこれからのまちづくりに求められる視座として「職・住・遊の機能が近接・複合したまちづくり」「ひとりひとりの多面性を受け入れるまちづくり」「多様性を受け入れ育む街づくり」という3点を提示しました。

職・住・遊の機能が近接・複合したまちづくり

はじめに、職・住・遊の機能が近接・複合したまちづくりです。パンデミック以前は朝出勤、夜帰宅が当たり前のライフスタイルでした。しかしリモートワークが可能となり、時間や場所の制限から解放された現在においては、「昼はショッピングや芸術鑑賞を楽しみ、夜に働きたい」「特定の拠点を持たず、日本各地を転々としながら生活がしたい」などといった人々の多様なライフスタイルを受け入れるまちづくりが重要であると伊藤は述べます。

ひとりひとりの多面性を受け入れるまちづくり

続いて、ひとりひとりの多面性を受け入れるまちづくりの重要性です。昼は会社員であるAさんが夜はミュージシャンであり、家庭ではお父さんであるというように、人は多面的な側面を持っています。だからこそ、そのような人々の多面性を受け入れられるような街が求められていると伊藤は語ります。

多様性を受け入れ育む街づくり

最後に、多様性を受け入れ育む街づくりです。伊藤は、いまの日本のダイバーシティ議論は目に見える違い(性別・人種など)を認識する表層のダイバーシティ論、マイノリティの受け入れ論にとどまっていると感じると述べた上で、これからは目に見えない違い(価値観、考え方、セクシュアリティなど)も含めた、多様性を受け入れ育む街づくりを考えていくべきではないかと述べます。

伊藤 まちづくりと多様性に関する3つの提言を踏まえて、最後に私が申し上げたいのが、24時間都市の重要性です。まちづくりの視点からナイトタイムエコノミーの推進に取り組んでいくことが、人々の多様なライフスタイルを受け止める世界一の都市をつくることにつながるのではないでしょうか。