仕事や人生に悩んだら…「ググってもわからない問い」は哲学思考で考える
「正解のない時代」「個の時代」といわれる中で、急速に注目を集めているのが「哲学思考」です。欧米を中心に、日本国内でも注目が高まるこの思考法は、次の4つの力に効く思考スキルとして、ビジネスや教育の現場から浸透し始めています。
自分にあった生き方や働き方を見つけたい。にもかかわらず、どこから手を付けていいかわからない…自分はこれから、どうすればいいのだろう…
さまざまな悩みを抱えた人たちに、自分だけの答えを出すキッカケを掴んでもらいたい。そんな思いを背景に本書は生まれました。
発売を記念して、「はじめに」の前半を公開いたします!
はじめに
突然ですが、はじめにちょっとした問題を出してみましょう。
ここに、あなたのみたい夢を何でも見させてくれる機械があります。これを脳につなぐと、あなたの現実は機械がつくり出す夢に取って変えられてしまいます。しかし夢の中では、豪邸に住むことも、一生遊んで暮らすことも、家族や友人とこれまで通り過ごすこともできます。
この機械は、あなたの脳を電気的に刺激したり快楽物質を出して、現実と全く同じ経験と幸福をつくり出します。機械は完璧で、誤作動もなく一生幸せな夢をみさせてくれます。そこではもはや、現実と夢の区別はつきません。
さて、あなたは残りの人生を、この機械につながれて過ごしたいと思いますか。
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あなたはいま、この問題をどのように考えていますか。
もしかすると「この機械を使いたい」「使いたくない」という「答え」をまず出そうとしているかもしれません。
そうだとすると、少しだけ急ぎ過ぎている可能性があります。
私たちは日頃、様々な迷いや悩みに直面します。このとき、実は直接「答え」を出すことよりも、どのように「問い」を出せるかが問題解決の鍵になるのです。
「直接答えようとする」のではなく、「問うことによって間接的に」、問題に迫っていく方法。
それこそが、本書でお伝えする「哲学思考」です。
そんな方法に何の意味があるのか。
ただの遠回りじゃないか。
そう思う気持ちもわかります。しかし、そうではありません。
もしもこの問題に、本当に「答え」を出そうとするなら、次にあげるような「問い」を無数に出して、一つ一つよく考え「遠回り」しなければならないでしょう。
だとすれば、まず「聞き方」を変えなければいけないかもしれません。
あなたはこの問題を、どう「問い」ますか。
・幸福とは、ただ脳が快楽を感じることなのだろうか。それは、すべて電気信号や化学物質の働きに還元できるだろうか。そうでないとしたら、そもそも幸福とは何なのだろう。
・やりたいことだけをやればいい状況が本当にいいといえるだろうか。やりたくないことをまったくしなくていい人生が豊かだといえるなら、それはなぜだろうか。
・理想通りにふるまってくれる友人は、本当に友人と言えるだろうか。
・現実と非現実(夢)は本当に区別できるのだろうか。仮に区別できるのなら、どのように分けられるのだろうか。
・そもそも、いま私たちがこの機械につながれて夢の世界に生きていないと言い切れるだろうか。そもそも、何かが確実に現実である、絶対に事実であると証明することなどできるだろうか。
・選択の余地なく機械につながれるのと、自分の意思でそうするのとでは何が違うだろうか。
・機械を拒否した自分は、現実の仕事や生活に満足しているだろうか。
・私たちが存在するとは、そもそもどういうことなのだろうか。
・身体と精神の、どちらが本質的なのだろうか。精神だけがあって身体がなくても、「私は私だ」といえるだろうか。身体だけがあって精神がない場合は、どうだろうか。
・私たちは何のために生きるのだろうか。機械の中の人生にも、現実の人生にも同じ価値があるといえるだろうか。同じでないとしたら、それはなぜなのだろうか……。
この問題は、ロバート・ノージックという哲学者の「経験機械」という話をアレンジした「思考実験」です。思考実験とは、ある状況を想定してみて物事の本質に迫っていく「ストーリー」のことで、哲学ではよく使用される便利なツールです。
仮想的な状況とはいえ、この思考実験はただの「空想」ではありません。
なぜならこの思考実験から、「幸せとは何か」「現実や事実とは何か」「自分が本当に求めていることは何か」「正しい選択とは何か」「友人とは何か」「今の仕事や生活を続けるべきか」「私とは何か」「人生をどう生きるべきか」といった、自分にとって大切なことを考えられるからです。
これはいってみれば「ググってもわからない問い」です。
検索すればわかることなら、検索すればいい。しかし人生で直面する悩みや迷いは、調べて答えが出るもののほうが圧倒的に少ないはずです。
自分のための「答え」を見つけよう
・最近人間関係がうまくいかない。
・仕事で結果を出すには、どうしたらいいだろう。
・やりたいことが見つからない。
・このまま今の生活を続けてもいいのだろうか。
こういった人生の悩みに直面したとき、あなたはどのように対処するでしょうか。友人にアドバイスをもらう、自己啓発書を読む、ネットやテレビで解決策を探す、などなど。現代では様々な手段を使うことができます。
確かに、だれかが教えてくれるのであれば、これほど簡単なことはないでしょう。しかし、それはあくまで「他人の考え」にすぎません。
私たちは、こうした習慣自体を捨て去る必要があるかもしれません。
なぜなら、他人の環境でたまたまうまくいったこと、他人がその環境にあわせて考えたことが、自分自身にも当てはまるとは限らないからです。
もちろん、単なる知識の伝達や、簡単な問題の解決ならいいでしょう。
しかし、これは、人生にかかわる重大な問題です。
それを考えるためには、自分自身が自分の言葉で、経験で、環境で考え語ること、そして自分の考えをどんどん変えていく必要があります。「哲学思考」では、それを目指していきたいのです。
ですから、本書には哲学者の名前や哲学の用語は、少ししか出てきません。
哲学者の言葉や知識は、計り知れない英知の結晶です。しかしそれらは、あくまで私たち自身が考えるための道具でしかありません。
大切なのは、身につけた知識を活かし、自分だけの答えを見つけるための「考える力」そのものです。
本書でお伝えする哲学思考は、まさにその力となるものです。
それは、一度身についてしまえば、一生もののスキルになります。小手先のことに対処する、その場限りの知識や解法ではないからです。哲学思考とは、ある種の「生き方」とすらいえるでしょう。知識のように忘れてしまうものではありません。
私たちは「問う」こと自体に慣れていない
哲学思考は、「問いを重ねる」ことで深まっていきます。しかし私たちは、「問いを立てる」方法よりも、「答えを出す」方法ばかり学んできました。問うこと自体に慣れていないのです。
ですから冒頭のような問題と向き合うと、まず直接的に答えようとしてしまうのも無理はありません。
そこで本書では、第3章で「問いを立て、考える」というごく当たり前の力を取り戻す方法をお伝えします。
とはいえ、この説明だけだと少し物足りないと感じるかもしれません。結局、哲学思考では「何をすることになる」のでしょうか。
哲学思考では結局のところ、自分の軸を作り上げることを目指しているといえます。それは、たとえば次のように「自分や世間にとって当たり前となっている考え方を疑い、自分なりに再構築すること」です。
・「空気を読まなければいけない」という常識の無意味さに気づき、そこから抜け出すこと。
・「親とはこうあるべきだ」という思い込みを考え直し、子どもに接する態度が変わること。
・「仕事」の意味を問い、それが「単にお金のためだけではなかった」と思い直し、生活が変わること。
このように自分の考えを再構築することは、自分の頭の中にとどまらず生活をも変えてしまう力があるのです。
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