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患者の事情に合わせて治療法を選択 変形性股関節症
股関節が変形し、痛みや歩行障害などが生じる疾患。症状だけでなく、患者のライフスタイル・事情も考慮しながら、治療方針を決定します。
疾患の特徴
原因の8割は寛骨臼形成不全によるもの
股関節は体重を支える荷重関節で、体重を支える面積が狭いため、軟骨がすり減り、変形性関節症の発症が多い部位です。40歳~50歳以上の女性に好発しますが、その他の年齢でも少なくありません。
日本人の場合、変形性股関節症の原因の8割は骨盤側の寛骨臼が浅い人(寛骨臼形成不全)によるものです。成人男性の0~2%、成人女性の2~7%が寛骨臼形成不全だといわれています。
また乳児期の先天性股関節脱臼の既往のある方は寛骨臼形成不全になりやすく、成人後に二次的に変形性股関節症が発症するケースも少なくありません。
寛骨臼形成不全の場合、股関節にかかる荷重が正常な場合の数倍に達し、それだけ軟骨に負担がかかり、日常生活動作が傷害されます。
主な症状は痛みと動作障害です。進行具合によって病期は4段階に分かれます。
「前股関節症」では寛骨臼形成不全はありますが、軟骨は保たれている状態、「初期」になると軟骨の厚さを示す関節裂隙が狭くなり、「進行期」は軟骨が一部消失、「末期」には広範囲に消失します。こうなると骨同士がぶつかり、痛みが強くなります。
診察ではX線を撮って変形性股関節症の診断をします。骨の状態の詳細を確認するために、CTやMRIなどの画像診断を行って診断を確定させる場合もあります。
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主な治療法
痛みと程度と病期(進行具合)に応じて治療法を検討
治療は痛みの程度と病期(進行具合)に応じて治療法を検討します。痛みが軽度な場合は消炎鎮痛剤などによって痛みを抑える薬物療法、筋力増強を目指す運動療法、関節への負荷を軽減させる食事療法(減量)などを行います。
保存療法で改善が見られない場合は手術を選びます。軟骨の摩耗が少ない「前・初期」で若年であれば、骨切り術に代表される関節温存術が選択されます。関節温存が難しい変形が進んでいる場合はインプラント(人工関節)を使う人工関節置換術を行います。
骨切り術は骨の一部を切り、関節への負荷のかかり方を整える手術です。50歳以下の比較的若い世代を中心に行います。骨の癒合に時間はかかりますが、リハビリ後は活動制限なく生活できます。
代表的なのが骨盤側の寛骨臼を切って大腿骨頭を覆う位置に回転させ、体重を受ける面積を広げる寛骨臼移動術・寛骨臼回転骨切り術です。他にも術式があり、股関節の前方から10cm前後の切開で実施できる低侵襲なCPO、さらに低侵襲なSPOを行っている施設もあります。
人工関節置換術は金属、セラミックス、プラスチックなどで作られた人工関節に、病変部の関節を置き換えます。人工股関節全置換術(THA)は大腿骨頭と寛骨臼の両方を人工関節に置き換えるもの。大腿骨頭だけを置き換える、人工骨頭置換術(BHA)もあります。
近年、THAでも最小侵襲手術(MIS)が実施されています。10cmの切開ですから、体への負担も少ないのですが、術野が狭いこともあり、高度な技術が求められます。
人工関節置換術の大きなメリットは入院やリハビリの期間も短くて済むことです。人工関節の耐用年数に限りがあることから、高齢者を中心に手術が行われてきました。ただ、近年、耐用年数が20年以上へと伸びたため、より若い世代でも実施されるようになりました。
手術を選択する際は日常生活や趣味などのライフスタイル、希望する入院・リハビリテーション期間といった、患者さんの事情も考慮に入れています。
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中島 康晴(なかしま・やすはる)
公益社団法人日本整形外科学会理事長。2016年、九州大学大学院医学研究院整形外科教授に就任。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医など。
※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載