【疾患センター解説】さまざまな腎代替療法に精通し、患者の生涯にわたり診療を続ける 腎センター/透析センター
腎センターとは 内科、外科、小児科が連携し、患者に合わせた腎代替療法を実践
腎臓病のスペシャリストが患者の一生に寄り添う
腎センターの特徴は、人工透析を担当する腎臓内科のみならず、腎移植医療を担当する外科、小児科医が在籍し、子どもから高齢者まで、腎臓の疾患の全てを一体となって診療することです。医師はもちろんのこと、看護師、管理栄養士、臨床工学技士、薬剤師などの多職種も活躍しています。
腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植の3種類があります。患者さんに合わせて治療法を選択しますが、腹膜透析は継続できる期間が7〜10年ほどとされていますし、何十年にわたり継続できる血液透析についても、さまざまな合併症を考慮する必要があります。
現在、国内で行われている腎代替療法の9割以上が医療機関での血液透析ですが、腹膜透析や在宅血液透析、腎移植の数も増やそうという取り組みが始まっています。社会情勢が変化を迎えるなか、さまざまな腎代替療法に対応できるようなセンター化の動きも、より進んでいくかもしれません。
そのため腎臓内科医にも、移植医療に関する知識がますます求められていくでしょう。例えば生体腎臓移植では臓器提供後にドナーが透析導入に至った事例も報告されています。レシピエントだけでなく、長期的な観点からドナーをフォローすることも、腎臓内科医の役割として挙げられます。また腎不全看護認定看護師、血液浄化関連専門臨床工学技士などのコメディカルは、腎代替療法専門指導士の資格を取得できます。腎代替療法のあらゆる側面を理解する指導士には、血液透析から腹膜透析、腎臓移植への移行について、患者さんの相談に乗ることが期待されています。
センターの大きな目標は、腎機能を透析が必要になるほど低下しないように透析導入をできる限り避けること、透析治療に至った場合にも腎臓移植に移行できるように移植手術の成績を伸ばすことなのです。
腎臓疾患とは 腎臓の機能が低下していき、血液を自ら浄化させることができなくなっていきます
血液をろ過し老廃物などを尿として排出
代表的な腎疾患のひとつが慢性腎臓病(CKD)です。腎臓の血液を尿にろ過する機能が低下すると、本来ならば尿に含まれないたんぱく質を多く含んだ尿(たんぱく尿)がみられるようになります。多くのCKDで最初の所見となります。
初期段階では腎臓保護のために食事指導や薬物療法を実施します。この20年で創薬の面でも進歩があり、腎臓内科医には薬物療法でオピニオンリーダーの役割も期待されています。
進行すると腎代替療法が必要になります。血液透析は、週3回施設に通い、透析器(ダイアライザ)で血液を浄化します。1回に3〜5時間ほどかかります。施設によっては夜間透析にも対応しています。
在宅血液透析という選択肢もあります。週5回、血液透析を短時間ずつ実施することで降圧薬の服用を減らせるといったメリットがありますが、導入のためには、水道と電気工事の初期費用、透析器を設置するスペース、穿刺の際の介助者などの課題を解消する必要があります。
腹膜透析では、腹腔に刺したカテーテルから透析液を注入します。一定時間が経過すると、腹膜を介して血液中の老廃物や過剰な水分が透析液に移動し、血液が浄化されます。時間をかけて緩徐に行うため腎機能が温存されやすいという特徴がありますが、長年続けると腹膜が劣化していきます。
小児患者には腎移植を中心に行う
腎臓移植では移植後には拒否反応が生じるため、術後に免疫抑制薬の服用が必要です。この20年間でいろいろな免疫抑制薬が、成人と小児に共通して、大きく発達しました。
小児の患者さんは先天性腎疾患が7割以上です。小児の透析治療では成長ホルモンが分泌されず、成長が止まります。透析時間が通学などにも影響しますから、社会生活から遅れないように、透析を経ないですぐ腎移植を行う、先行的腎移植を5割以上の小児患者さんに実施しています。
全国から小児患者さんの紹介があり、下は2〜3歳の方から、上は16〜18 歳くらいの方まで腎移植を行っています。
治療法について 患者さんの意思を尊重し、チームで治療方針を検討
医学的な評価と患者の価値観の両方を重視する
内科チーム、外科チーム、小児科チームごとのカンファレンスで、それぞれの科に特化した治療方針を決めます。腎臓内科では慢性腎炎の治療法、外科では血液透析で必要な内シャント作成手術の方法、小児科では成長するために成長ホルモンをどうやって使うか、などを検討します。
さらに「高齢のがん患者さんにはどのように透析をしていくのがよいか」「ご家族は腎提供を希望しているが、患者さん本人は悩んでいる」といった臨床倫理学的な問題が関係する症例については、全体カンファレンスでディスカッションします。
治療方針を決めるには、 SDM(Shared decision making)の考え方が大切です。医学的な見地と患者さんの希望するライフスタイルなどの情報を医師と患者さんが共有して、意思決定をしていきます。末期腎不全になったとしても、何をしたいのか、どのように生きたいかという点を考慮し、医学的な評価を超えて治療法選択をしていくことが非常に大事です。
患者さんは長期間通われる方が多いですから、自然に関わりは密になっていきます。そこが腎代替療法に携わる医療従事者にとっての、大きなやりがいにつながっています。
人工透析に至る方には糖尿病患者さんも多くいます。週3回透析に通うだけでなく、糖尿病の医療機関を別に受診するのは負担が大きいですから、実際にセンターで血糖管理まで担当します。そのうえで、血糖コントロールが不安定な患者さんは糖尿病専門医に任せるといった、協働も行われています。また、がんなどの他の疾患を治療する診療科や精神科とのしっかりとした連携も重要です。