102: 未知への飛翔〜PART.2
Guilty or not guilty?
Qによって「2079年の法廷」の再現に引きずり出されたピカード艦長他3人は、人間は残虐な種族であるという罪を認めさせられてしまう。しかしピカード艦長は自分たちが残虐かどうかテストしてから裁きを下すように要求する。Qはその言葉に乗っかるわけだが、ここではQは人間は残虐な「種」であるかどうかを問うているのに対して、艦長は残虐であるかどうか「個」として判断せよと要求するわけである。
私なぞは人間が残虐な種であるということは疑いないと思っている。人間以外の種はいたずらに同種族の命を奪うような行為をおこなうことはない。人間だけが愚かしくも戦争など無益な(一部の人には有益なのかもしれないが)殺生をおこなうのだ。残虐かどうかは明白だろうと考えてしまう。これはもう完全にQが正しく、「人間」は「guilty」なのである。かといってすんなり尻尾を巻いて地球に帰ることはできないので、ピカード艦長としてはちょっと理屈を捏ねて頑張ったわけである。 艦長のレトリックにすんなりと乗ったQはこのとき、やっぱり人間を使って暇つぶしに遊んでいたのかもしれないな、なんて思ったりする。
チーフ・オブライエン
Qの法廷からエンタープライズに帰された一行は、まったく時間が経っていないことに驚く。このシーンに戦闘ブリッジの操舵手として登場しているのが私の好きなキャラクターのひとりである「チーフ・オブライエン」である。もっともこのエピソードでは名前もまだない。第2シーズン以降は準レギュラーのような扱いで、主に転送室の主任として登場し続けることになる。
マイルズ・エドワード・オブライエン (Miles Edward O'Brien)を演じているのはColm Meaney(コルム・ミーニィー)という俳優さん。ずんぐりとした感じでいい人オーラ全開な感じがするのだが、アメリカ映画では悪い脇役を演じることが多い。私はとても好きなのだが、いったいどこが好きなのか、どこがそんなにいいのか自分でもよくわからない。しかし良いキャラであると感じる人は多いようで、TNGからのスピンオフ作品である「Star Trek: Deep Space Nine(DS9)」では技術主任としてレギュラー出演している。
ライカー副長登場
始まって30分以上経ってからやっとライカー副長が登場する。すでにUSSフッド号でデネブ4号星にいるという設定である。
初登場のライカーもやはり若い!
第2シーズン以降たくわえている立派な髭はまったくなくツルリとしているし、体型もずいぶんとスリムで、若々しい溌剌とした新任副長といった雰囲気である。
ライカー副長の登場とともにデネブ4号星とファーポイント基地の全景も映し出されるが、こういった遠景の描写はすべて書割である。デジタルリマスター版の映像であれば緑色が鮮やかになっているのだが、私の手持ちのものは全体的に赤茶けた映像なので少し残念だ。
このデネブ4号星でエンタープライズ号はライカー副長、ジョーディ、ドクター、ウェスリーの4名と合流する。また、ドクターとウェスリーのクラッシャー一家とピカード艦長の微妙な関係もチラリと窺わせる思わせぶりな描写もある。この関係設定はシリーズを通してビバリー(ドクター)とピカードの関係性に大きく影響を及ぼしてくる。こういった人間関係、ヒューマンドラマがSFという舞台を通して展開されていくところが、このスタートレックシリーズの一番の魅力だと思う。
副長がエンタープライズ号に出頭するところでTNG初の「転送」が披露される。TOS時代の描き方とは違い、ずいぶんと進化している。転送時の最後にチラチラと輝く効果があるが、あれは風船に塩を振りかけた様子との合成映像だそうだ。まだCGが一般的でなかった時代の特殊効果はずいぶんと苦労が多かったことだろう。しかしこうして見ただけではどんなふうに撮影・編集されているのかわからないところなど、職人的な技を感じて大変に興味深い。
ちなみに転送時の合図は艦の外からは「Beam up (down)」。艦内の転送機上では「Energize」。吹き替えではどちらも「転送」となっていると思うが、英語では使い分けているところが面白い。
ライカーは円盤部とのマニュアルドッキングの指揮を艦長に指示されて見事に成功、ブリッジクルーの信頼を一発で得ることになるのだが、このあたりの展開(圧力をかけ気味の上官(艦長)、実力を見せつけて新任上官として一気に信頼を得る)はとてもアメリカチックな展開だなぁ、と思う。
もちろんここはこのエピソードの見せ場のひとつで、我々日本人が見ていてもちょっとハラハラして最後には「イエァ!」となるのだが…。
俳優
アメリカ的な演出はあちらの役者さんが演じているからこそ自然に見える。日本人の演者であったらちょっとやり過ぎ感が漂うような感じがする。表情や身振り手振り、こういった演出など、普段の生活の中で大きな動作をおこなわない日本では、演技でもずっと抑えた微妙なものが求められるのではないだろうか。かといって微妙な表情などの演技をアメリカの俳優陣ができないのかというと、これがまたかなり上手い。以降のエピソードでも「うわぁー、この微妙な表情!」といった感心する演技が多々見られる。
俳優といえば、TOSをみていた人には嬉しい役者がこのエピソードには特別出演している。「ボーンズ」ことドクターマッコイである。エンタープライズ号の医療設備の査察に訪れる提督で、なんとおん歳137歳という役どころである。TOS時代と変わらずの転送嫌いの文句言いで、昔からのファンはニヤリとするのではないだろうか。出演時間は短いがデータとの絡みも面白い。
エピソード・タイトル
ところでこのエピソードの原題は「Encounter at Farpoint」。直訳すると「ファーポイントでの出会い」となる。 「Encounter」という単語を辞書で調べてみると「思いがけない出会い、遭遇、邂逅、対決、交戦」から「経験(特に性体験)」となっており、どうも(良くも悪くも)感情を揺さぶられるような出会いを指す言葉のようである。
エンタープライズ号はQと対決、またファーポイント基地では未知の生命体に遭遇し、ピカード艦長はライカー副長と出会い、艦長はドクター・クラッシャーと、副長はカウンセラー・トロイと、未知の生命体は同種との邂逅を果たす。ドラマの始まりにふさわしい「Encounter」の詰め合わせのようなエピソードである。
観るものに与える感情はどの「Encounter」も少しずつ異なるが、私としてはTNGレギュラーメンバー(Qを含む)同志の出会いにワクワクするエピソードだったと思うのである。
描かれた「Encounter」によってそれぞれの関係性やキャラクターの一端も垣間見ることができた。これから第7シーズンの最終話までの関係性の変化をずっと追ってみるのも楽しい。
ちなみに原題に対して邦題では、エピソードの内容を表現するというよりは、TNGという物語全体がスタートするぞ、ということを強く意識させるものになっている。また、日本でテレビ放送された時の邦題は「デネブ星の法廷」とされていたようである。
Engage.
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