かつての若者は、ちょいワルジジの夢を見るか
先日来、炎上騒ぎになっているらしいこちらの記事を遅ればせながら拝読。
newsポストセブン
「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ
https://www.news-postseven.com/archives/20170610_561363.html
熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと、ガイドのように次々と知識を披露する。そんな「アートジジ」になりきれば、自然と会話が生まれます。美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多いので、特に狙い目です。
あまりにも男性本位、なんの根拠もなく一方的な願望混じりの妄想に、これは炎上も止むなしかという思いとともに「以前どこかでこれに似たようなものを見たことがある」と既視感を覚える。
それはかつてインターネットなどなかった時代遥か数十年前、若者ならずとも日本人の情報源といえばテレビや新聞、そして雑誌であった。その中で男性向けの雑誌にしばしば登場したナンパマニュアルである。もしかしたら「ガールハント指南」ですらあるかもしれぬそれを、数十年の時を超えて年齢を重ね成長したかつての若者たちに再び売りつけようということか。
6月24日に創刊されるという雑誌『GG(ジジ)』は、「金は遺すな、自分で使え」というテーマで、“ちょいワルジジ”になるためのファッションや車、バイク、旅行、アンチエイジングなどを特集していくという。「定年後は好きなように生きたい」「まだまだ女性にモテたい」──そんな“枯れたくない男性”のための雑誌であるというが、それにしてはあまりにも下品すぎはしないだろうか。
『GG(ジジ)』編集長の岸田一郎氏がかつて生み出し世に広めたという「ちょいワル親父」や「艶女(アデージョ)」、「艶男(アデオス)」といった言葉は、私の感覚としてはまず「オシャレである」というイメージがある。上質なファッションを上手く着こなすとともに、素養はもちろんご本人たちもそう言われるために、そう呼ばれるにふさわしくあろうと努力なさっている感じの言葉としてとらえている。
ところが今回の「ちょいワルジジ」になったとたん、昭和のセクハラ親父(当時はそんな言葉すらもなかったが)そのものになってしまうのはどうしたことか。ファッションについては今回の記事では触れられていないが、美術館へとひとりで来ている女性客にいきなり話しかけるどころか聞こえよがしに付け焼刃の知識自慢を始めるなどとはただの迷惑客、変人の類であろう。余計なことかもしれないが、今回の記事中にある焼き肉の部位を聞かれたときの「尻をツンツン」という表現はいささかセンスが古くはないだろうか。
こういった記事や雑誌を読んでどれほどの「ちょいワルジジ予備軍」が生まれ、内容を実行に移すのかは現時点では知り得ぬことだが、彼らがうまくいかなかった場合に「これでだめなら仕方ない」と思ってくれるだろうか?記事や雑誌そのものに不信感を持ち、離れていってしまうのではないだろうか。10代20代の若造ならともかく、それなりに経験を積み重ねてきた人生の先輩方がそうそう何度も騙されてくれるとも思えぬ。まさかその怒りの矛先が、ただ純粋に美術鑑賞を楽しんでいる女性陣に向けられるかもしれぬとは仮定の話でさえ考えたくもないことである。
今回炎上という形で有名になってしまい、嘘かまことか対策会議を開く美術館までもあるという。いまさら創刊号の内容を差し替えるわけにもいかぬ以上、『GG(ジジ)』編集長岸田一郎氏と編集部の方々には、是非とも検証記事をお願いしたい。自身とは言わずとも、指南した50代60代男性を美術館に派遣し、女性に声をかけさせるのである。そして何人が話を聞いてくれたか、何人がランチの誘いに乗ってくれたか。何人の連絡先を入手できて、その後連絡して再会できたのは何人か。何人が料亭についてきてくれて、鮎の塩焼きの食べ方を教えたときに何人中何人が上手くできたか。そういったデータをまとめて自説の有効性を証明していただきたい。
効果が実証されることできっと読者も実売部数も増えることだろう。まさか実日常的にそういった行動をとっているとも思えぬ、多分に願望の入り混じった根拠に乏しい憶測、男性の妄想を形にしたような記事よりは。しかし、ただ純粋に美術鑑賞を楽しみたい女性にとって迷惑なことに変わりはないし、すでに美術館側が対策をとっているかもしれないのでくれぐれもルールとマナーを守ったうえで実践していただきたい。そしてさらに、女性の側にも世当然のごとく選ぶ権利というものがあり、彼女たちにとって興味のもてない自称「ちょいワルジジ」の相手をしてやらねばならぬ理由など存在しないことは言うまでもない。
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