【読書感想文】『クライマーズ・ハイ』横山秀夫 著(文春文庫)
15年ぶりに『クライマーズ・ハイ』を再び読んでみることにした。読書の秋2022の推薦図書に『クライマーズ・ハイ』のタイトルを見つけた時は懐かしい気持ちとともに「航空機事故、新聞記者、登山」という単語を微かに思い出した。15年の歳月を経て、再び本書を読んでみると、私はいったい何を感じるのだろうか?そんな興味もあって、本書を手に取ってみた。
結論から言うと、再び本書を読むことでサラリーマンとしての生き様を再考する機会が得られ、充実した時間を過ごすことができた。新聞という媒体で情報発信する時の重責と葛藤を主人公・悠木和雅とともに味わうことができ、濃密な内容のおかげで物語の中にぐいぐいと引き込まれていった。巨大組織の中で奮闘し、ときに傷つきながらも邁進する主人公の姿には胸が熱くなる。何が正解かわからない状況の中でも、己の信念を大切にし、周囲を巻き込んでいく様子にはただただ圧倒された。15年の歳月を経て本書を読んでみたが、登場人物達の息遣いはしっかりと物語の中に宿っており、活字で表現することの素晴らしさを再認識させて頂いた。
「下りるために登るんさ」という名言。山の頂上に到達したら、空を見上げる登山家。そして、山々の美しい描写。読書中は自分自身が登山をしているような気持ちになってくる。山の中に身を置くと、自然の雄大さに比べて、人間の存在の儚さを体感するため、ついつい自分の生き方を見つめ直してしまうのではないか。植物は毎日成長し、天気は時々刻々と変化するので、昨日の山と今日の山は違う。今日と同じ明日は来ない。そんな当たり前のことを、衝立岩に挑む主人公達から教わった。
御巣鷹山で発生した航空機事故。あまりにも大きくて、そして多くの人達の運命を変えた事故。主人公が事故に翻弄されながらも、苦難を乗り越えて、しっかりと向き合っていく様子が印象的であった。それと同時に、組織の中のサラリーマンとしての立ち振る舞いの難しさを改めて感じた。どんなに惨めな状況になっても書き続ける選択をした主人公は称賛に値すると思う。会社人生では、ずっと成功が続くことはない。誰だって惨めな状況や力を発揮できない状況に陥ることがある。私自身がそういった状況に陥った場合は、不器用ながらも懸命に信念を貫いた主人公・悠木和雅の姿をモデルケースにして、踏ん張ってみようと思った。
現在では情報発信の手段として、Twitter、YouTube、noteなど多様化してきており、誰でも情報を発信することができるようになった。個人が発信する情報によって社会情勢が変わることもある世の中である。また、気軽に誰でも情報を発信できるからこそ、受け手側の「情報を取捨選択する力」がより求められてきていると思った。情報発信が容易になった現代だからこそ、主人公達のように議論に議論を重ねて内容を吟味して情報の精度を高めてくれる存在の尊さを感じた。
物語の中にはポケベルや無線機などの情報機器が登場してくる。現在ではスマホや衛星通信が気軽に使えるようになっているので、情報伝達における技術革新の恩恵を感じた。また、職場環境も大きく変化したと思った。お茶汲みの女性社員や部屋での喫煙、パワハラになるであろう言動の数々。そして、現在ではテレワークも普及しているので、人と人が顔色を伺いながら激しく議論する機会も少なくなっているのではないかと思った。小説の中の職場環境と現在の職場環境を対比できるのも面白さの一つである。素敵な小説をありがとうございました。
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