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92歳の母の「不確かな記憶力」を知る

私は、母の刺繍作品をインスタに載せている。その際、キャプションを書くため、その作品がつくられた背景について、私は母に尋ねる。特に、どのような刺繍なのか、刺繍糸は何が使われているのか、どこで展示したのかは、いつも母に聞いている。

※母の刺繍に関する記事も書いています。お読み頂けたら嬉しいです

先日、「湖畔のお城の風景」を刺した作品をインスタに掲載することにした。湖のほとりに建つお城の影が、水辺に写っていることを刺繍で表現してある。

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この湖の部分に施されているスッテチが、なんとも不思議な感じだで、三層構造になっている。さらに一番下にオーガンジーを敷いてある。

湖畔に立つ2本の木にも、同じような刺繍がされている。

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「ドロンワークでもないし、アジュール刺繍でもないし、なんだっけ~」と母は言葉が出てこない。

母の持っている刺繍の本を見ながら、「このスッテッチじゃないの~?」と畳みかけるように「いじわる娘の私」は、母を問い詰めた。でも、母はかたくなに「違う」と言う。

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「確か、この本のどこかに載っていたのよね~」と母が示した本が、「オープン キャンバス」昭和60年(1985年)雄鶏社から発行された刺繍の専門書。(既に絶版)

刺繍の本は、私のように刺繍をしない人が見ても、可愛かったり、綺麗だったりして見るだけでも楽しい。しかしこの本は、殆どが白黒で、文字ばかりで、つまり素人には、楽しくない本なのだ。

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結局、刺し方の名称は分からなかったので、インスタのキャプションには、母との会話のままに書いた。

すると、「とても興味深いです。」とコメントを頂いた。

母は、だいたい夜9時には、就寝する。その日の夜、9時半は過ぎていたので、もう寝たのかな~と思っていたら、「ここに載ってたわ~見つけたの」と言って、ページを開いたまま、母が私の部屋に本を持ってきた。この本は、持ち歩くような本ではない。厚みもあるし、図鑑のように結構、重たい本なのだ。その本をわざわざ、持ち上げて、よたよたと私のところまで持ってきた。

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でもそのお陰で、答えが分かった。この刺し方の名称は「ニードルウィービング」。確かにあまり耳にしたことがない。

答えが分かった私は、早速、本の写真をインスタに掲載し、コメントを頂いた方に、刺し方の名称が分かったことを返信した。

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高齢の母は時々、自分が都合の良いように話が、すり替わったりする。だから「本人がどこまで分かっているのか」が、分からない時がある。

この前も、「視野検査の予約」を眼科にして欲しいと言われ、電話をしてみると、来年年明けでいいと言われた。でも本人は、「先生から今月、来てくださいと言われた」と言うのだ。やはり「あくまでも92歳としては、しっかりしている」という言い方が、母にはあてはまるのだと、私は自分に言い聞かせながら、母との生活を送っている。

でも、この日、あやふやだけど、どこか確信のある母の「記憶力」が、なんか凄い!と思った。母は50年やってきた刺繍に関する知識を、どこか別な場所に保存しているようだ。

母自身も答えが見つかって、スッキリしたと思う。きっと刺繍の刺し方の名称を探し当てたことで「自分自身の過去」を確認できたのではないだろうか。

あるいは、娘から「じゃあ、これは何なの!」ときつく問い詰められ、さらに「言っていることが、さっぱり分からない!」と罵倒されて、悔しかったのかもしれない…



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