<浪人編3>60歳の私が、19歳のころ、出来なくなってしまった「彼との対話」
年が明け、入試が迫ってくる。彼の精神状態は、まともな感じではなかった。
今までの彼ではないみたい。こんな彼をみるのは、初めて。人間ではないみたい。私にとっては、そこまで彼が、変わったと感じていた。
本当に入試が迫ってきて、会う頻度も減り、高校時代のように毎日、話をすることもなかった。だからこそ、久しぶりに会うと、彼が、変わっていくことが、私にははっきりと認識できたのだと思う。
社会の規範にハメ込まれるうちに、本人が気がつかないうちに、いつの間にか人格が変異してしまう様を、目のあたりにしている感じだった。
彼の口から発される言葉は、排他的で、それまでと明らかに違っていた。
「社会の価値観に抗うことは意味が無いのだ」と、ただ強がって、言っているようにも見えた。
彼は、第一志望の大学に合格した。だけど、私の「憤り」と「葛藤」は、入試が終っても、止むことがなかった。
「良心は、人にとって絶対的なもの」という彼の言葉は、私の中でいつまでも輝いていた。この言葉の背後に見えた「彼の純粋さ」を、私は心から信じていたし、そんな彼が好きだったのだ。
だからこそ、彼が、彼自身の本来の心を離れて、今のまま、大人になってしまうのではと、私はハラハラしていたのだ。
高校時代、あんなに毎日、話すことがあったのに、彼と「対話」が、全くできなくなっていた。私にはわからない風景を、彼は見ているようだった。
この年の春、彼は晴れて大学生になった。そして、私たちは少しずつ、それぞれの道を考え始めるようになった。
今回は、ここまで…
いつもお読みいただき、ありがとうございます。「浪人編」はこれで終わりです。※「二十歳編」につづく
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