高校編4 60歳の私が、少女だった頃には、わからなかった、彼のお母さんの気持ち
ある日、彼が、学校の友達と授業をさぼって、それがバレて、お母さんが、学校から呼び出された。
この日、彼のお母さんの怒りが、沸点に達した。
日ごろから彼は、「母親の怒り方」に対し、息子の立場から「否定的見解」を私に話していた。でも、この日は、それとは違った。
学校の呼び出しから帰った彼のお母さんは、彼が幼い時、書いていた日記を、息子にたたきつけた。実は、彼は、幼稚園の時に入院した経験があった。その当時、お母さんが、書いていた日記だ。よっぽど頭にきたのだと思う。
誰かに見せるために書かれたものではない、その日記を私が目にすることに、大きな戸惑いを感じた。
後日、彼は私に、この話をした。
そして、細かい字で、紙いっぱいに書かれている、その日記を見せてくれた。その文章には、私の知らない、幼い頃の彼の姿が、愛情いっぱいに書かれていた。
私も、同じ母親として、今なら彼のお母さんの気持ちがわかる。
彼のお母さんは、よっぽど悔しかったのだと思う。母親は、無意識に全身全霊をかけて、子どもを育てている。一生懸命育ててきた我が子に、裏切られたような思いになったのだと思う。
高校生だった私は、この時、彼に気の利いた言葉を、何一つ言ってあげれなかった。
不思議なもので、自分が母親になってから、ふっと高校生の彼が言っていたことが、腑に落ちることがあった。
彼が、私に話した「母親の怒り方」に対する「否定的見解」とは、例えばこんなこと。
「学校の成績のことを怒りたければ、それだけ怒ればいいのに、生活が乱れてるとか、お酒やタバコやってるんじゃないのとか、色々なことを全部よせ集めてきて、まとめて、怒っていくから、イヤなんだ。」
親からして基本的に良い子だった私は、彼のこの発言に、共感してあげれなかった。「あー、わかる、わかる、うちのお母さんもそうよ。」みたいに。
ところが、自分が親になり、高校生の我が子を怒っていた時、なぜか彼の言っていたこの言葉が、頭を横切り、「あ~、こうゆうことだったのか~!」と突然、腑に落ちたことがあった。
高校生の彼に、今なら、解説してあげられる。
「母親の怒り」とは、こうゆうこと。
母親は、我が子の日々の生活の中で、常に気になることがある。そのひとつ一つは、とても些細なこと。だから、「今日は、怒らずに、過ごそう」と、様々なことに目をつむっている。怒ってばかりの毎日は、母親にとって、つらいのだ。でも、その怒りは、日に日にチャージされていく。
そして、チャージされた怒りが、ある日、突然、沸点に達する。この時、一気に日ごろの怒りが、沸き上がるのだ!そのきっかけになるのは、それこそ些細なこと。
「毎日、毎日、お母さんは、あなたの態度にどれだけ我慢していると思っているの~!」そんな感じで。全部まとめて言いたくなる。
自分が、腑に落ちた瞬間、私も、娘を怒っていた。最初はたぶん、お弁当箱をどうして毎日ちゃんと出さないの~から始まり、脱いだ洋服片付けろ~とか、朝はちゃんと起きろ~とか、最後は、何を怒っていたのか分からなくなっていた。
今なら、高校生の彼に、お母さんの気持ちを解説してあげられるのに。
今回は、ここまで~(つづく)