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孤独

3月です。イラストレーター・ゴトーヒナコさんの作品が自由港書店に集まってきています。ゴトーヒナコさんは2024年3月20日から3月31日まで東京・代々木のアートギャラリー「Picaresque(ピカレスク)」さんで個展「空は透明」を開催されます。自由港書店ではDMをお配りしています。

ゴトーヒナコ個展「空は透明」(ピカレスク)DM

ゴトーヒナコさんは、自由港書店でも好評販売中・文芸誌『USO』シリーズ最新刊『USO5』(2023年11月刊)に漫画「名前のない天使」を寄稿されています。
ーー誰にも名前を呼ばれないのは寂しいけど、自由なことなんだよ。
ーーそれって、ほんと?
(ゴトーヒナコ「名前のない天使」『USO5』|rn press)

『USO5』(rn press)

『USO5』には私も短い小説を寄せました。それは、「断層」というタイトルの、「孤独」をめぐる小説でありました。その『USO5』の中央に圧倒的な存在感をもって配されていたのがゴトーヒナコさんの「名前のない天使」でした。わかるようでわからない、わからせようとしない、わかるなんてかんたんなことじゃない、ほんとうもあれば、うそもある、このかんじ、これはすごい「USO」だな、と思いまして、このたび、こちらからお願いを差し上げて、作品集などを置かせていただくことになりました。

ZINE「PICNIC 2023」|ゴトーヒナコ

ZINE「PICNIC 2023」|ゴトーヒナコ
2023年

100×100mmの作品がまとめられた小さな作品集。絵に、言葉が、そっと添えられています。

本当の言葉がききたいの
わかってあげたい
ーー名前をつけないで

誰にも触れることのできない小さな世界が、大切に守られますように。

comixシリーズ「星のゆくえ・人の旅」|ゴトーヒナコ|ondo 刊

comixシリーズ「星のゆくえ・人の旅」|ゴトーヒナコ
2023年|ondo

人はどこへいくのだろう。
星はどこへいくのだろう。

この世界にたくさんの人々がいて、それぞれにそれぞれのつながりがあること。その不思議。

ZINE「PARADICE」| ゴトーヒナコ

ZINE「PARADICE」| ゴトーヒナコ
2022年

熱帯を思わせる鮮やかな色彩の中に
黒が漂っています。

そう/私たちは/似ている
けど違う
そして/違うのに/似ている

パラダイスって、いったいどんな場所なんだろう。

実は、ゴトーヒナコさんの作品は2月に当店に入荷してきていて、店頭には並べておりました。入荷しましたよ、というお知らせを、書かねば、書きたい、と思いながらも、正直、とても、書くことが難しかったのです。作品から漂う気配、作品の奥にあるもの。そうしたものを、適切に伝えられるだろうか。伝える必要があるのだろうか。そうしたことを考えているうちに、3月になってしまいました。

3月には、明るいイメージがあります。そんな3月にご紹介できて、それはそれでよかったなあ、と思ったりもしています。

ゴトーヒナコさんの作品には光と影が同居しており、黒い服を身にまとった生きものと白い服を身にまとった生きものが登場し、作中にも、「キラキラした光をはらんだ黒い布」が描かれ、光と影(闇)について描かれていたりします。自らに欠落したものを切望すること、そして相互補完性・完全性と愛、そうしたことについて、決して安易に「答え」を出そうとするのではなく、圧倒的な時間と空間のスケール感の中で、読み手が何かを感じることを助けてくれるような、ゴトーヒナコさんの作品は、そんな作品です。

私たちはいつから「孤独」になったのか(みすず書房)

私たちはいつから「孤独」になったのか
著者:フェイ・バウンド・アルバーティ
訳者:神崎朗子
みすず書房|2023年11月新刊
自由港書店に入荷しています。
みすず書房さんのウェブサイトを見ますと、2024年3月現在、重版がかかっているようで、売れているようです。「孤独」への関心の高さがうかがえます。

「孤独」とは、いったいなんだろうか。そして、私たちはいつから「孤独」になったのだろうか。ロンドン大学キングス・カレッジ近現代史教授であり、イギリス初の感情史専門の研究所であるロンドン大学クイーン・メアリー感情史センターの創立メンバーの一人であるフェイ・バウンド・アルバーティさんが、丹念に歴史を辿りながら、見つめていきます。

フェイ・バウンド・アルバーティさんは、いわゆる「孤独」を、ただ単に「ひとりでいる」という意味での【ワンリネス】、「静謐な環境で自身や世界と向き合う」というニュアンスをもった【ソリチュード】(=いわゆる「いい孤独/選ばれた孤独」)、そして、「理解者、友人、伴侶、「ソウルメイト」をもたず、寂しい」という意味をもった【ロンリネス】の概念に明確に区別していきます。そのうえで、【ロンリネス】が、そのような「さびしさ」をもった概念として認識され使用されるようになったのは1800年(19世紀)以降のことなのだ、ということが語られます。

そして、「魂の伴侶」「最大の理解者」といった意味合いを持ち、「この人と一緒にいられるから私は自分自身でいられる」といったコンテクストを孕んだ【ソウルメイト】という概念、そして、そうした【ソウルメイト】と出会うことで人は幸せになれるのだ、という【ロマンティック・ラブ】概念の登場とともに【ロンリネス】という概念もまた登場したのだ、というような説明がなされていきます。

しかしながら、そうでなければ「幸せ」になれないのだとしたらーーー。「幸せ」って、いったい、なんなんでしょうね。

孤独を生きた、ライナー・マリア・リルケ(1875-1926)、ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)、シルヴィア・プラス(1932-1963)といった詩人・小説家たちの生涯についても触れながら、「孤独」の真実を「底の底まで」見つめて、「どう生きるか」について追求していく一冊です。

『トトロの住む家 [増補改訂版]』(宮崎駿 著/岩波書店)

『トトロの住む家 [増補改訂版]』(宮崎駿 著/岩波書店)。自由港書店に入荷しています。「トトロが住んでいそうな(住んでいる!)家」を宮崎駿さんが訪問し、住人の話を聞き、絵を描いて、できあがった一冊です。一般的に、「家」というのは人が暮らすための場所であるわけなのですが、果たして、「家」は、誰のものなのでしょうか。絵には「気配」が漂っています。宮崎駿さんの絵には「気配」がありますね。さてなんの「気配」なのでしょうか。「孤独」とはなんでしょうか。「君たちはどう生きるか」。問いかけてくる本です。

岸野裕人『日々独呟 ひびひとりつぶやく』(港の人)

岸野裕人さんの随筆集『日々独呟 ひびひとりつぶやく』(港の人)入荷しています。

岸野裕人さんが五十歳となられた2001年から2008年にかけて書かれた手記をまとめたもの。学芸員としての姫路市立美術館、兵庫県立美術館勤務を経て、倉敷市立美術館館長となられるあたりの時期に書かれたもの。「五十歳の誘惑」他。「五十歳の誘惑」には、「絵とは何か」「絵を描くとはどういうことなのか」ということについての、岸野裕人さんの真剣な思いが(軽やかな風のような文体で)書かれています。

岸野裕人『日々独呟 ひびひとりつぶやく』(港の人)

岸野裕人さんは1950年姫路の生まれ、2022年、姫路のご自宅で亡くなられました。本書によれば、最後の最後まで、絵を描こう、とされたのだそうです。扉絵は岸野裕人さんご本人によるもの、あとがきは(奥様である)岸野久美子さん、装丁は(お嬢様である)岸野桃子さんによるものです。

こんなふうに、美術を、人を、生涯かけて愛して生きられたらいいな。素敵な本です。

岸野裕人『日々独呟 ひびひとりつぶやく』(港の人)

Special Thanks!

本記事の写真に写っている布たちは、いずれも、現在、隣町の塩屋にある「坂の上のギャラリーyamne」さんで硝子作家の栗原志歩さんとの共同展「Water」を開催されている染色作家・画家の清原遥さんの作品です。

「光と風を感じられる穏やかな書店をつくりたい」と思って小さな店(自由港書店)を開いたのは2021年5月のことでした。「光と風をはらんで穏やかにゆれてくれるような青い布」をずっと探していたのですが、開店までに見つけだすことができませんでした。yamneさんで清原さんの布にめぐりあえたのは2022年のこと。清原遥さんの布を店内に飾らせていただき、それでようやく、自由港書店は自由港書店になれました。

清原遥さんは、「絵を描くように」布を染めているのだといいます。清原遥さんの貴重な作品と出会える機会はなかなかありません。皆様ぜひ、会期中にyamneさんへ!(3月2日から3月24日まで。火曜休)https://www.instagram.com/yamne_man/


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