私と鬱
会社を辞めて、東京を離れ、京都に移った。
京都でも、挑戦の入口で夢に破れ、途方に暮れ、神戸に流れ着いた。
極度の人間不信だった。
人の顔をまっすぐ見ることができなくなってしまった。
言葉を発しようとしても自分で言葉を飲み込んでしまい言葉が出てこない。
どうしてもお店で会計しなければならないときなど、猛烈に汗をかく。
どうしても人の話を聞かなければならないときなど、相手が何を言っているのかが途中でわからなくなり、意識が飛び、あたまが回らなくなって、猛烈にくしゃみが出る。
どうにもならなかった。
常にみんなに笑われている気がしていた。
日中は、部屋で寝ることにした。
夜、外に出て、誰もいない港をぼんやり歩く日々だった。
神戸に辿り着いたばかり、まだお店を始める前のことだ。
それでも、書店を始めることにした。
それ以外、もう、「やりたい」と思えることなんてなかったから。
やれる限りやって、生き延びられる限り生き延びていこう、と思った。
まず、お酒を飲むのをやめた。
それから、1年かけて店を作って、店を開いた。
何より不安だったことは、「お客様が来てくださるだろうか」ということよりも「来てくださったお客様とちゃんと会話できるだろうか」ということのほうだった。
私は幸運だ。
店をオープンし、お客様と交流させていただくなかで、心が回復していっていることが、ありありと感じられている。
うれしそうに本を選んでくださっているお客様の姿をみていると、心が洗われていくのがわかる。
書店を始めることができて、書店を続けることができているのはお客様のおかげだし、「書店をやろう」と思わせてくれた書店さんや、もちろん、本を書いて、作って、卸してくださっている作家さん・出版社さん・取次さんのおかげなのだ。
わたしは書店に救われたのだ。
そしてわたしは今、「自由港書店」という名前の、「じぶんらしく生きたいと願うすべての人のために」をコンセプトとした小さな書店を営んでいる。
2022年8月8日、イラストレーターで漫画家の佐々木充彦さんの10年ぶりとなる新作漫画『キャットウォーク』が刊行されました。刊行の報せを受けた時、自由港書店としては絶対に揃えておきたい本だと確信したので、すぐに注文をさせていただきました。発売日に入荷し、すでにしっかりと棚に備えております。
『キャットウォーク』ーーー
お前はゴミだ!消えてしまえ!
会社で罵られ、居場所がない主人公ミロは、ある日、気が付くと、猫の街にいた。
人(にんげん)がいない。
二本足で歩く猫ーーーキャットウォークーーーしかいない。
だけれど、まちの遠く向こうに、ひとりの人(にんげん)がいるのを見つけた。
ミロは走って探しに行く。
人(にんげん)なんて、もう、こりごりなはずなのに。
人(にんげん)を求めて、ミロは走るーーー。
ーーー「人(にんげん)って、なんだろう」。
『キャットウォーク』は、そうした究極の問いを極限まで掘り下げながら描きあげられた漫画です。
そして、一冊の本の中に、その漫画に加えて、漫画の元となったプロットが「小説版」として収録されているのでした。
「小説版」は「漫画版」とは異なる筋道を通りながら物語が動いていくので、ふたつをあわせて読むことで、なお一層、「人(にんげん)って、なんだろう」「どうしようもなくなったとき、どう生きたらいいのだろう」ということについて深く考えさせてくれる構成になっているのでした。
作者の佐々木充彦さんの才能は途轍もないものだし、この作品を紙の本として出版することを決断された出版社のrn pressさんには畏敬の念を持ちます。
何度でも書きたいと思うのだけれど、わたしは書店に救われた。
でも、もっと厳密に書けば、わたしは、「書店をやる」と思えたことに救われた、のだ。
だからわたしはこの『キャットウォーク』をしっかり書店に備えておきたい、と思うのだ。
どうしようもなくなって、とぼとぼと書店に来てくださったかたに、手に取ってもらえるようにしておきたいと思うからだ。わたしがまた、そうして、各地の書店さんで、いまの自分を支えてくれているような本たちと出会えたように。『キャットウォーク』に出会ってほしい。
わたしは、個人用に『キャットウォーク』を購入して、もうすでに何回も何回も繰り返し読みました。
ぜひ、読み終わった方と、お店で感想を語り合えたら嬉しいな、と思っています。
お店で、お待ちしていますね。
(この本に限っては、外に出るのがしんどい・須磨まで行くのがしんどい、という方に限って通販(メールオーダー)の対応もさせていただきます。Twitter、Instagram等からご連絡くださいませ。)
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