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ゾガ・アーヴィ-今週の国王

そんなくだらない本の読了にクッタクタになっているあんたの横で、あたしゃ行きつけの大根おばさんの店の閉店時間をピッタリ目指して走ってっちゃうぞ!早くしなよ。そう言ってニカッと笑うなどと余裕をかましておったゾガ・アーヴィだったが、今朝ばかりは日課のサル渡り運動すら思うように捗っていないらしい。ゾガ・アーヴィよ、君が今週の国王に選出されたって噂を私は聞いていないわけじゃないし、なにも今更具合悪くなるまで隠す話じゃあないだろ。しかも、今週から週がわりの国王は匿名で活動オッケーですってことになったじゃないか。そうすると、ゾガ、君は一体、何を悩んでいるんだい。私はそう言った。すると、マシュマロを80回咀嚼して飲むのを昼飯にするのが趣味のゾガ・アーヴィは、俯き加減でこう言った。友よ。ああ。こんな時だけ改まって、あんたの事を友だなんて呼ぶ予定を立てるのは、せめてマシュマロの咀嚼回数をきちんとこなしてからが良かったんだけど。まあ、私の美学なんてヤワなもんでさ。つまりね。私はあんたに今週の国王に選出されたというようなことは一言も言ってないけど、「メーシャーバリエーション朝食会」の会長になったことは、言ったように思うわけ。・・はて。メーシャーヴァリエーション?実のところ私は、ゾガの話を100聞くことは今後もうやめにしよう、という風に心を決めたあの日から、ゾガのいう事に対しアンテナを張るのに使うエネルギーをかなり削り気味だった。その日はゾガがサル渡りを終えて、決まった深さの砂場に50秒間潜って阿波踊りの型を学ぶトレーニングの真っ最中だったにも関わらず、コーヒーを煮出しすぎた私に向かって「おいおい信じてくれ!目ん玉には心があるんだ!私はすごくこれに確信を抱いているし、なんか宇宙の仕組みも絶対わかりそうなんだよ!」と言ってきたことがあった。そしてゾガは、一方的に、今思えばトンチンカンそのものだということは否めないものの、意識を他個体にシンクロさせがちな私ならばまあまあ騙せそうな感じの大長編説法を3時間喋ったのち、「ってなわけで⭐︎今日飲みいこ!」などと抜かしたのである。流石にこれには私もプッツンせずには居られなかった。私がゾガにキレた理由をあえて解説するが、ゾガの「飲みいこ」という口約束は、信じがたい事に、言い出しっぺのゾガによって必ず土壇場でキャンセルされるさだめなのである。というわけで、もちろんゾガの言った「メーシャーヴァリエーション朝食会」なんて言葉は今、初めて耳にしたし、ましてその会長としてゾガ・アーヴィが君臨していたなんて。私はゾガの話をそんなに聞いていなかったおかげで、会長君臨が現在の事実だかどうだかもわかりゃしない。可能性としては、ゾガが会長になるのは未来の予定だってことも十分あり得る、ということを、この後に及んで申し上げておくのである。あ!でも、私はゾガから、「眼医者はリエさん」みたいなことを言って、その子とデートするという風合いの惚気話を聞かされたことがあったかもなあ。そんな記憶が漂着し更新される脳を感じつつ、その話題がどうやら「メーシャーヴァリエーション朝食会」の間違いだったようだ、というアタリが付いたような心地をじわじわと味わっていた。このままだと私のゾガ・ヒアリングのレヴェルが省エネタイプであったというのが、今週の国王であるゾガ・アーヴィにバレてしまう。ゾガの私への信用の喪失は免れないだろう。くそう、なんで今週国王なんだよゾガ!お願いだから嘘だと言ってくれ!そんな私の内々の焦りなど微塵も悟っていないご様子のゾガは話を続ける。

あのさ!「メーシャーヴァリエーション朝食会」ってさ、なんと、「超ショック会」のことだったんだよ。ああもう、どうしたらいいか、わからないよ!わからなさすぎる!友だちだろ!助けてよ!

ああ、そうだったのか。「超ショック会」とは、その名のとおり、超ショックを受けた人たちで構成されている。毎月1度は定例会が行われるが、そのメンバーの入れ替わりの激しさや、定例会の凄まじい雰囲気のせいで、大体の人間からは嫌われている集団だ。誰だって腫れ物はそっとしておきたい。「超ショック会」は、超ショックな人たちにとっては会員同士で傷を癒すことができる貴重な場なのだが、その会長だけは、受けたショックが大きくてはいけないという決まりがある。ゾガはそのショックの大きさの調整のことで悩んでいたのであった。

私は自信たっぷりに言ってやった。いや、こんなもんで丁度いいんだと思うよ。ゾガ・アーヴィ。君のショックは食べ頃のうどんに氷をたくさん突っ込まれたくらいのことと同じさ。しかしゾガ・アーヴィは、より一層顔を青くして、サル渡りを完全にやめてしまったのであった。言ってから思い出したけど、私はゾガから、国王として最初に課されていた仕事を失敗した罰に、適温よりもかなり下がった状態にされたうどんを出されて凹んだというエピソードを、数日前に聞かされていたばかりだったのだ!


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