
歯を齧る。
「齧る(かじる)」という漢字。
このタイトルをつけるまで、ちゃんと知らなかった。
そして想像するとなんともややこしくて
不思議な状況の「歯を齧る」という言葉。
人生で歯医者さんにお世話になったことが、私はほとんどなかった。
私は虫歯がない。
確か小学生の頃、校内での歯科検診が終わった後に
「虫歯がない」ということで、全体朝礼で表彰されたことがある。
(良いことだけど、なぜかすごーく恥ずかしかった。)
そういうことがあったし、自分でも歯のことは気にかけていなかった。
流石にたまにはちゃんと診てもらわないとと、
ようやく行こうという気持ちになったのが4年前。
近所の歯医者さんに検診に行ったのが、
人生で初めての「歯医者さんへ行く!」という出来事だった。
その時も「お母さんに感謝してくださいね!綺麗な歯ですよ〜」と言われ
私はこれを一生アピールポイントにしよう!!!!!と調子に乗ったくらい。
(母には遅ればせながらお礼の電話をしました。)
私は自分の歯に対して、とても自信を持つ人になっていた。
そんな私の前に「親知らずが痛い」という、
周りの方々から聞いていた歯の痛みが突然やってきた。
ずっと右上の親知らずが痛いのだ……
数週間過ぎてもおさまらず。
え、もしかして私、ついにむしばが……
そのうちおさまるだろうと思っていた歯の痛みが続くことに
さすがに恐怖を感じて、歯医者さんを予約した。
人生2度目の歯医者さん。
あぁ、虫歯と言われるのかな…
「虫歯がないこと!」を初めての歯医者さんの日から、
唯一のアピールポイントとして掲げていたが
もうそれも出来なくなるかもしれない。
お医者さんに痛みの説明をしたり、レントゲンを撮っていただいたり。
そしてついに、
でで〜ん!と映し出された自分の口腔内のレントゲン写真を前に
診察の結果が先生の口から放たれる。
親知らずの周りの歯茎が腫れてますね〜
この親知らずだけちゃんとお顔出してるので
今後もこの親知らずの影響で痛みが出るかもしれません
抜いた方がいいですね〜、
せっかく虫歯ないので、大事にしていきましょう!!
目の前のレントゲン写真から見てもはっきりとわかるくらい
その親知らずだけ「こんにちは〜、親知らずです〜」と顔を出していた。
あ〜、よかった。
虫歯なかった〜、と安心した。
そして先生と話し合って、この親知らずを抜くことになった。
その時は何も考えず、親知らずを抜くことにしたが、
よくよく考えてみると、人生で初めてのことだった。
歯を、抜く、とは?
え、どうやって抜くんだろう。
痛いかな、痛くないかな。
そこから手術前日まで
友人たちの親知らず体験談を聞いたり、
ネットに流れている親知らず抜歯レポを読んでしまった。
(抜歯前日に読んだのがあまりに恐怖な内容だった。)
自分で恐怖を助長してしまった状態で、抜歯の時を迎えることになった。
そこでまた、抜歯初めて人間は謎が浮かんでしまう。
え、麻酔って、注射?どうやって?え、歯茎に直接??
え????
心でワタワタしている私をよそに、抜歯は淡々と進んでいた。
先生に言われるがまま、口を開いて終わるのを待つ。
開始して20分後、終わった。
あまりにも早くて、本当に親知らず抜かれたかな?とさえ思った。
痛みがあったかと聞かれると、
口をしっかり開けるために入れた器具が一番痛かった。
なんだかあっという間に、その初めては終わった。
え、終わったの??と心の中で沢山思っている私に、
先生が声をかけてくれた。
抜いた歯、持ち帰りますか〜?
はい!持ち帰ります!
なぜか即答だったし、ちょっと嬉しかった。
綺麗に洗ってくださり、透明で小さな袋に入った「親知らず」を渡された。
とても不思議な気持ち。
その後、痛みもなければ腫れもなく。
想像していた恐怖もなかった。
むしろ感動の方があったかも。
帰宅して、持ち帰り「親知らず」を眺める。
結構しっかりして、小さい頃抜けた乳歯と全然違う。
ちょっと貫禄すらあるその歯を眺めていたら、
私は信じられない気持ちになる。
歯を齧りたい!!!!!!!!!
とんでもない奇行であることはわかっていた。
でもとても齧ってみたい衝動に駆られた。
その白いごつごつをかじってみたい。
恥ずかしながら、齧りました。
なんというか、ちょっとこれすごい恥ずかしいんですが
「うわ!生命体!生きてるって感じ!」と思いながら齧っていた。
とても面白い体験だった。
生まれて初めての経験。
後日、この奇行を友人に話したところ
「自分の歯をかじる?なんなのそれ、哲学?」と言われました。
すごい、哲学だわこれ。
(私の奇行を最後まで読んで下さり有難うございます!涙)