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「中学時代はいじめられっ子」無職のナンパ男はこうして殺人者になった|木更津女子大生殺害事件・本田祐樹
2011年6月11日、千葉県木更津市の林道脇で女性の全裸遺体が見つかった。翌12日、本田祐樹を遺体遺棄の容疑で逮捕。本田には別件で2女性への強制猥褻、強盗強姦の容疑も浮上した。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。
性犯罪を重ねて
「この辺りはゴミの不法投棄が多く、毎日見回りをやっていた。2日前の午後3時10分頃、電柱の下に仰向けに横たわっていた若い女性を見つけました。彼女に花を手向けるのは発見者の義務だと思う」
そう語り、男性は両手を合わせた。2011年6月11日午後、千葉県木更津市の林道脇で見つかったのは千葉県市川市に住む千葉商科大2年生の菊池果奈さん(19)だった。数百メートル先の林道沿いからは、切り刻まれた果奈さんの衣類や下着、預金通帳などが見つかった。全裸にされた果奈さんの頭にはディカウントストアのレジ袋が二重に被せられ、両手をキャミソールで縛られていた。
レジ袋に残された指紋から、死体遺棄の疑いで逮捕されたのは、市川市に住む無職の本田祐樹(24)だった。木更津市内に実家があり、土地勘があった。遺体発見翌日のスピード逮捕、これで一件落着かと思いきや捜査は難航した。千葉県警担当記者が解説する。
「本田は『1ヶ月前ナンパで知り合った。木更津に行ったが、現場近くで菊池さんを降ろした』と犯行を否認。県警は2人に面識がなかったと見ています。しかし、本田が転がり込んでいたマンションの名義人は、菊池さんと同じ大学に通う同学年の女子大生でした」
このマンションと果奈さんのアパートの距離は約1・4キロの近さだった。本田の姿は大学構内でしばしば目撃されていた。また、近隣で一人暮らしの女性を狙った強盗、強姦事件が発生。目撃情報から犯人はネコのイラストが入った黒い上下のジャージ姿だった。逮捕された13日、JR市川駅前で職務質問された本田の身なりはネコのジャージ姿だった。間抜けというかーーわたしはこの男の23年間の生い立ちを追うため木更津に入った。
父親は木更津市内で板金会社を経営、4人兄弟の3男として生まれる。中学を卒業後、市原市内の専門学校をわずか1年で中退した。中学の同級生が語る。
「影が薄い奴で、みんなにいじめられていた。同級生から相手にされないから下級生と遊んでいたよ。実際は彼らのパシリで、万引きや窃盗で何度も警察の厄介になっていた」
本田はコンビニでタバコ1箱を万引き、余罪が多数判明し少年院に送られた。友人の紹介で本田と知り合った当時中学生だったAさんを取材した。高校生のAさんが言う。
「1年半の間に、少年院から百通以上の手紙が届きました。出所後も何度も『遊ぼうよ』とメールが届きました。あんまりしつこいので『わたし彼氏いるし、無理』って返しても『家の前にいるよ。お前の名前を入れたTシャツを作って着る』と毎日連絡があり、怖くなりました。もしかしたら、わたしも殺されたかもしれませんね」
Aさんは、事件を知ってから震えが止まらないという。逮捕から3ヶ月、死体遺棄は不起訴処分になったものの本田は強盗殺人・強盗強姦・住居侵入容疑で再逮捕された。
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2013年2月、千葉地裁で初公判が開かれた。
「本田は『同意を得て菊池さんの家に入れて貰い、無理矢理何かを取ったことはありません』ときっぱりと起訴内容を否認した。奪ったキャッシュカードで、木更津市内のコンビニで現金50万円を引き出したことについて弁護側は『最初の20万円は菊池さんと合意の上』で、残りの30万円については事実関係を認めた」(司法担当記者)
では、果奈さんを殺したのは誰なのか。本田はある暴力団員の名前を挙げた。司法担当記者が続ける。
「カトウマサキという知人の暴力団員が真犯人だと本田は主張したが、警察が捜査しても該当人物は見つからなかった」
2013年3月、一審の裁判長は、僅か1週間の間に起きた別の女性2人への強制猥褻、強盗強姦罪に触れ「被告が同種の犯行を繰り返す中でエスカレートした」と述べ、また「遺留品から被告と同じDNAや指紋が検出された」と無期懲役を言い渡した。
2014年1月、東京高裁は弁護側の控訴を棄却した。本田の交際相手が、果奈さんと同じ岩手県出身など、謎が多い事件だった。
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小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。