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彼女いない歴60年の底辺おじさんが教えてくれたのは、「悩んでも意味がない」ってことでした【中村淳彦の名前のない話】

自分の力ではどうにも解決できない悩みを抱えてしまったとき、苦境から脱するにはどうすればいいのでしょうか。もしあなたが乗っているのが沈没船であったなら、じたばたしたって始まりません。どんなに頑張ってもいつかは沈む運命です。今回は、人にはこんな生き方もあるって話をどうぞ。

沈没船に乗ってしまったら、頑張っても、頑張らなくても、結果は同じ

 ノンフィクションライターの中村淳彦です。
 僕だけじゃなく、出版とかテレビとか新聞とか、オールドメディアやっている人、みんなもう限界じゃないかって状況がずっと続いています。僕は超斜陽のアダルトビデオとか消滅したエロ本にかかわったので、社会人になったときから、ずっとこんな感じなんですね。
 アダルトメディアがもう終わりってところはうまく抜けられたけど、今回の消滅の波はオールドメディア全般なので、まあ全員ダメなわけですね。V字回復は100% ないだろうから、もうダメになることは確定で、みんな現実を見てもどうにもならないから、目の前のことやるしかないっていう状況ですね。

 こういうときにやってはいけないのは、深く悩んで苦しみながら別のことするとか。別のことできればいいけど、オールドメディアにいる人たちは環境がよくないから、新しいことはできない。できるんだったらどっかのタイミングで新しいことをやって、うまくいっているはず。今の時点でやっていないのだから、難しいと思うんですね。オールドメディアにいる以上、もうどうにもならないんですね。
 こういう産業全部が沈没しているなかでは、頑張った人も頑張ってない人も結果は変わらない。結局、オールドメディアっていう同じエリアにいる以上、寿命は大して変わらないんですね。死ぬほど考えて頑張りに頑張ってピリピリしながらやった人と、何にも考えないでぼーっとしてる人で、寿命が違うかというと、ずっと必ず沈没していくわけだから。めちゃめちゃ頑張っている人も、ぼーっとしてる人も、せいぜい寿命は2、3年しか変わらない。めちゃめちゃ頑張っている人も、生き残れないわけです。

 頑張っても頑張らなくても同じという結果がわかるのは、ちょっと名前出しちゃいますが、底辺ライターの原達也さんですよね。原さんっていうエロ系ライターの友達がいて、僕より10歳ぐらい上でもう60代前半。原さんは映画監督志望だったんだけど、早々と諦めて、若い頃からもうずっと怠け続けた。ライターではあったけど、かなり徹底した貧乏人で消費をしないで節約して、何十年もなにも深く考えないで生活した。
 ずっとね、朝から晩までプロ野球を観ていた。プロ野球って1日6試合、6試合が3時間ぐらい、それ全部飛ばさないで見るから1日18時間ぐらい。それで1日潰れるわけです。
 20代後半から50代半ばぐらいまで、そういう生活ずっとしてダメになったのが5、6年前だった。家賃が払えなくなって田舎に帰ってしまった。僕は田舎に帰る直前に電話がきて「俺のことは、もう忘れろ」と縁を切られてしまったけど、アダルトメディアが崩壊するなかで怠け続けた原さんと、すごく頑張った人たちが両者とも破綻しているので、沈没船に乗っている人は全員ダメになるってことを知ったわけです。そういう現実を徹底的になにもしなかった原さんの生き様をみて学んだんですよね。

 原さんはね、なにもかも諦めているから、洋服をこういうもの着たいとか、こういうもの買いたいとか、欲望みたいなことは一切捨てている。髪の毛もむちゃくちゃ長いんだけど、バブル時代のワンレンみたいな感じの髪型なんだけど、それも4年に1回ぐらい坊主にして、それで4年後にもう1回坊主にする、みたいなことを繰り返して、生涯に10回くらい散髪するみたいな計算なんですね。
 それで高円寺の鍵が針金の、絶対に陽のあたらない壮絶な老朽アパートで暮らしていて、クーラーも持っていないので夏場は半裸で暮らす。ランニング着てパンツとステテコ穿いて、1日中、プロ野球を観ているんですね。そんな生活を20代後半から50代半ばまでやった。
 一方でアダルトメディアは栄枯盛衰の激動で、深く考えてしまうとやっぱりいろいろあった。僕も原さんに「もう本当にヤバいことになった、アダルトメディア、このままだと終わっちゃうよ」みたいな悩みを話すこともあったけど、原さんは一貫して「お前、こんなくらだらない仕事のことを、そんな深く考えてもダメだ。どうでもいいことを考えるな、なにも考えるな、ぼーっとしていろ」みたいなことを言うわけですね。
 なにを言っているんだこの人、貧乏人はヤバイなと当時は思ったけど、原さんが言っていたことは、今思えば正しかったなと思うわけですよね。

 原さんのことを、どうして思い出したんだろう? なぜか思い出しちゃったんだけど、原さんで思い浮かぶのが、顔に大きなほくろがある。顔のほくろから、もうめちゃめちゃ長い毛が生えているんですね。3cmぐらいの毛が生えていて、その毛だけはずっとフィックス。抜いたりしないで、ずっとほくろから毛が生えてるのを伸ばしっぱなしにして、4年に1回ぐらい坊主になってロン毛になって、基本的にロン毛なんですね。どんなに暑くてもめちゃめちゃ長い髪で生きて、なにも考えないで本当にずーっとぼーっとして過ごしていた。
 そうなってくると、スランプも困りごとも悩みも、なにもないわけですよね。今流行のミニマリストの先駆者でしょう。

 僕は当時、子どもも小さかったし、やっぱ原さんみたいにするわけにはいかなかった。だからスランプになったり、産業の危機に悩んだりしてしまったけど、これからは原さんみたいな生き方もアリなんじゃないかなと思ったわけです。
 原さんは北陸出身で、いきなりあんな人が地方の過疎地に現れて、地域は大丈夫なのかって心配ではあるけど、縁を切られてしまったのでどうしているかわからない。
 原さんは彼女いない歴年齢の中年童貞みたいな感じだけど、人生になにも悩みはないし、どんな不衛生でも免疫があるので生きていけるし、100歳くらいまでは軽く生きると思いますね。

 すいません。今日はなんの参考にもならないことを話してしまいました。

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<著者プロフィール>
中村淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター。無名AV女優インタビュー『名前のない女たち』シリーズ、『東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか』、『悪魔の傾聴』などヒット作多数。花房観音との共著『ルポ池袋 アンダーワールド』(大洋図書)が絶賛発売中。Voicy「名前のない女たちの話」日々更新中!https://voicy.jp/channel/2962