『Qrosの女』こんなスクープ記者ありえない!……と突っ込むのが野暮になる“ある役者”の存在感【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#30
二宮和也がめちゃくちゃ怒っているそうな。妻と子ども2人との七五三参りの様子を週刊誌に撮られて誌面掲載されちゃったもんだからなんだけど、芸能人(とその家族)である限り、こういったことは致し方ないんじゃないかと思ってしまう私は、価値観をアップデートできていない古き時代に取り残された悲しき民ですわ。
Xで二宮自身が「盗撮記事」と断言しちゃったもんだから、完全に週刊誌=悪になっちゃったし。SNSってのが時代的というか、みみっちいというか。家族がマスコミにさらされた怒りをぶつけるなら、田中真紀子みたいに記事を差し止めするぐらいの気概を見せておくれよ(田中真紀子長女記事出版差し止め事件)。狂信的なファンが集うSNSでお気持ち表明したら、マスコミバッシングが加速するのは目に見えている。これも戦略か。SNSを制した者が時代を制する。知らんけど。
二宮の「盗撮記事」発言に対して出版社はどう出るか。今後の週刊誌報道の在り方、盗撮の定義を決定付けるものになるだろうから責任重大。担当者はしばらく地獄の日々だろうな。私だったらストレスによる暴食で肥えそうだ。あーやだやだ。
現実のマスコミは世間の声というコンプライアンスに頭を悩ませているが、ドラマの中のマスコミはそんなこたーない。盗撮やら潜入取材やらハチャメチャなことをやっても、お構いなし。記事のためならなんでもやっちゃう。最終的に世間の声を味方につけて、なんかいい話でまとめあげる。それがドラマで描かれるマスコミ像。本職からしたら「ありえねーよ」と一蹴されるだろうが、所詮ドラマ。フィクションの世界。突っ込むほうが野暮である。
そんなファンタジーマスコミドラマ『Qrosの女』。上記のようなことをさらっとやってのけちゃう敏腕記者(桐谷健太)、敵対するブラックジャーナリスト(哀川翔)などなど、「ありえねーよ」のオンパレード。ブラックジャーナリストってマンガの世界でしか聞かないぞ(ドラマは小説原作だが)。スクープをバンバン抜いちゃう桐谷健太だが、週刊誌発売後、良心の呵責に耐えられないのかなんなのかトイレでおえおえと吐く。非道なことをするのはあくまでも仕事だからで、実は心やさしき男なんですってか。
所詮ドラマにツッコミなんて野暮である、なんてわかったようなことを口をきいた手前、少々言いづらいのだが、『Qrosの女』はツッコミどころ満載のドラマである。ただ、それはそれ、これはこれ、と、すんなり受け入れられてしまうのは、編集長・林田を演じる岡部たかしの存在だ。
ものすごく“っぽい”のである。岡部が演じるキャラクターはありていに言えばドラマで描かれがちなテンプレ編集長なのだが、それがすごくいい。実際の週刊誌編集長がどんなもんかは知らないが、ドラマというフィクションの世界においては、限りなく正解に近い編集長であり、いい意味で「これはドラマです」という記号的役割をまっとうしている。
正解の男・岡部たかしがいることで、毎週スクープをとってくる桐谷健太も、ブラックジャーナリストなんて肩書をつけられている(ドラマではそんな風に言われていないが)哀川翔も、なぜか出演しているえなりかずきも、すべてが「(ドラマとして)あるべき姿」に見え、つっこむなんて野暮なことはできなくなる。
勘違いしてほしくないのは、過去のマスコミドラマの編集長を模倣している、と言いたいわけではない。岡部たかしの演技力あっての記号的役割、存在感。芝居に精通しているわけではない私が「演技力」なんて言っちゃうところに、岡部たかしのすごさを感じていただければ幸いだ。
とはいえ、岡部たかしじゃなければいけないかと言われると、そうでもなかったりする。例えば、ちょっと若いが北村有起哉(朝ドラ『おむすび』で橋本環奈の父親役)とか、貫禄を出すなら橋本じゅん(『オクラ』の室長役)とかが演じても、しっくりくるだろう。あ、単に私が劇団出身の50代男性が好みって話だな。こりゃ失敬。