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競馬で擦って一文なし・・・女性を傘で殴って3000円強奪のネカフェ難民男を応援したい【ヤスデ丸の裁判傍聴ファイル #1】

「あの日以来、夜道が怖くなっちゃって……。ファミレスのバイトもやめて、夜はタクシーで帰るようにしています」

 被害者女性(51)はコンサートの帰り道、被告人の男性(50)からビニール傘で頸部をぶっ叩かれ、激痛に負けずにカバンをひったくられまいと揉み合いになった末、3000円の入った長財布を奪われた。情動的に行われる強盗事件そもそも被告が犯行に至った経緯はというと……。

罪状:強盗(審理)
被告人:男性、昭和48年うまれ、住所不定、派遣社員、幸薄そう
裁判員裁判:男性5名(20代〜50代ほど)、女性3名(20代〜40代ほど)


仕事に行くための電車賃もない

 派遣の建築作業員として働く被告人は、日頃、台東区のマンガ喫茶を寝床とし、日毎に払われる給料のほとんどはギャンブルに使う生活を送っていた。犯行当日も例のごとく競馬に行くも大負け。次の日に現場へ行くための交通費すらも使い込んでしまい、帰りの道中でパニックになり情動的に犯行に至ったとのこと。
 
 被害者女性(50代)は、コンサートの帰り道で被害に遭う。19時ごろ、やや人気の少ない街灯のある通りを歩いていたところ、突然、後頭部から首にかけて激痛が走る。振り向くと、男が傘を片手に背後に立っている。どうやら傘で頸部を殴打されたらしい。相当な恐怖だっただろう。男が女性のカバンを奪おうとするも、取られまいとカバンにしがみつく女性。その抵抗も虚しく、男にカバンを強奪されてしまう。

 が、やや気になる供述が──。

私も間違いなくパニックになります。競馬、怖いっす

自分の犯行に驚いていた?

「奪われたカバンの中に入っていた財布が地面に落ちました。犯人はその財布を拾って、一瞬私に近づきました。途中『もう何もしないから返して』と言われ、『何を……?』と思いましたが、その後すぐ犯人は逃げました」(供述調書より)

 返して、というのは途中で落とした傘のことなのかわからないが、突発的に行なってしまった自分の犯行に驚いているように見えないでもない。なにがなんだか自分でもわからなくなってしまったのかしら。

 事件後、女性は外出の際に帰りが20時以降になる際はタクシーを使うようになり、夜に出勤していたファミレスのアルバイトを辞めた。夜道を歩く際には後ろを頻繁に振り返る癖がついた。経済的にも精神的にも、ダメージを負ったという女性はこう続けた。

「特別、量刑を重くしてほしいとか軽くしてほしいとかは思わない。ただ、刑を重くすることよりも、再犯防止のために力を入れてほしい。弁護人から示談の申し出がありましたが、断りました」

人生、どっちに転ぶかわからんですな

 なんとも虚しかったのは、被告人と被害者は同世代ながらも、方や数千円のランチの後にコンサートに行き、事件後はバイトを辞めてタクシー生活でもやっていける主婦(不必要な出費だったはずではあるが)、方や競馬で有り金使いきって訳もわからず人を襲ってしまったネカフェ難民という構図。自分がしっかりしていれば襲われないわけでも、犯罪を犯さないで済むわけでもないような。命運なのかしら。人生というのはどこが分岐となるのかわかりませんな。

 そういえば、犯行から半月後に、被告人は路上の自転車を盗んで逃亡を図ろうとしたとのこと。しかし、防犯カメラの映像や漫喫のポイントカードの指紋から逮捕に至った。逃げようとしたことは一旦置いておいて、自転車を盗んだ理由は自分の自転車が盗まれたかららしい。なんか、いろいろと運悪いなぁ。足立区だかどっかは、鍵をかけてあろうがなかろうが、路上のチャリはレンタルバイクと同じこと(天下の周りもの?)みたいなので、台東区もそんな感じなんだろうか。

 被告人の勤めていた会社の経営者は、被告人の勤務態度の真面目さを見ており、またいつでも復帰してほしいと思っているそう。

 初犯ということもあり、おそらく実刑判決にはならないだろうし、いまが分岐点だと思って二度と裁判所に足を踏み入れないで済む人生を送れることを祈るのみですわ。

人生の分かれ道。どっちに行ったって、どっちが良いか悪いかなんて死ぬまで分からない

【更生応援ポイント】「辞める」ですむなら病院はいらない

犯行に至った背景はどうであれ「また働いてほしい」と言ってくれる会社はそうそうないと思うけどな。仕事場での人間関係が良好なのかそうでないのかは知る由もないけど、もし悪いわけではないなら、それまで仕事を続けられた自分の能力を正しく評価してほしいし、それを認めてくれている会社の人の存在にちゃんと気づいてほしいよね。漫喫暮らしってことは寮とかは無いんだろうから、いろんなところや人から知恵を借りてほしいですよね。どうかここで腐らないでくれますように。
 個人的には、改めて公営ギャンブルの存在が悪どく見えてしまう日だったなぁ。UFOキャッチャーで失敗して1回きりで辞められないような人は、マジでギャンブルなんかしないのが吉っすよ……。意思で辞められるもんなら病院は世の中にないはずなんだからねっ。とりあえず美味いもの食べてまた頑張ろう!

イラストは筆者の脳内イメージです(ヤスデ丸作、背景フリー素材)

【著者プロフィール】
ヤスデ丸(やすでまる)
▶『実話ナックルズ』の女性編集部員。いよいよアラサー。乗っているバイクはYZF-R3。オススメのプロテインは「ウマテイン ミルクティー味」「ウルトラ 黒ゴマきなこ風味」。