【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】長崎県雲仙市の『鳥刺し踊り』
真っ赤な九尺褌(きゅうしゃくふんどし)を身にまとい、竹竿を持った中年の男衆がステージに上がると、会場から笑い声と拍手が巻き起こった。
この男衆が登場するまでここで行われていたのは、神聖な会合だ。それが終わって今、金屏風の前に立っているのは、半裸状態の男たち…。良く見れば、ほっかぶりをしている。司会者が彼らの正体を明かすと、おもむろに踊りが始まった。
〝うらの竹藪押し分けへし分いたて見れば、クワッチョ1羽鳩1羽、毛くいじりの真最中~〟
男衆は、ヒョコヒョコと歩きながら自分のお尻をペシペシと叩き、鳥を真似ながら「チュンチュン」と踊る。どことなく滑稽ですらある。尻は、竿で何度も叩くので、すぐに真っ赤になってしまう。何だか痛ましいような楽しげなような…(??)。でも、観客は楽しそう(笑)。伴奏のようなものはない。法被を着て赤褌をしている男性が、ラップ調の口上を入れていく。
日本には無数の伝統芸能がある。その中でも一風変わった伝統芸能と目されているのが、この「鳥刺し踊り」だ。長崎県雲仙市の国見町神代(こうじろ)楠高地区に伝わる「奇祭」の一種で、1747年(延享4年)に神代鍋島家8代当主である鍋島茂興公が、鍋島家佐賀本藩の名代として第116代桃園天皇即位の礼に参列するために京都に上った際、同行していた家臣が習い覚えたのが始まりとされている。
「『鳥刺し踊り』は、今日のような余興の席や結婚式、各種イベントなどに呼ばれて踊ります。いつもは、踊り手が5名いるのですが、今日は所用で1名少なくなっていますね。全員いちご農家をやっています。イメージしているのは猟師です。猟師は、竹竿の先に〝鳥もち〟をつけて鳥を獲るんですよ。その様子を再現しています。ユーモラスに見せるために鳥の格好もしていますけどね(笑)。
踊ることができるのは、神代楠高地区に住んでいる人に限られています。60戸、200人くらいが住む小さな集落です。曲は1曲しかないんですよ…。さっきみたいにアンコールがあると同じ曲を繰り返すことになりますね(笑)。
実は、私も歌詞の意味を全部分かっているワケではないんです。先達から教えてもらったことを、そのまま引き継いでいます。250年くらい前からそうなっているんですよね~(笑)」(「鳥刺し保存会」会長中山政信さん)
見る者たちの心を和ませてくれる「鳥刺し踊り」。持ち歌が1曲しかないことには驚かされたが、この踊りには、長い歴史と豊かな文化に培われた京都由来の伝統が散りばめられている。一度見たら、二度、三度と見たくなるような踊りだ。