オカルト女王・角友紀子◎一人歩きした「8分違いのパラレルワールド」
カルトと都市伝説は似ている
担当のバーガー菊池氏から、カルトと都市伝説について書いてくださいと依頼されたものの、信者やグルの驚愕事件などはあっても都市伝説と絡めるのは意外と難しい。なぜならそもそも都市伝説そのものがカルト的な支持層の上に成り立っているものだからだ。
ひろゆきじゃないが、辞書によると、カルト的というのは<ファンが単なる愛好者の域を超えて「信者」と表現し得るような、愛好というよりも崇拝と言う方が妥当であるような、そうした熱烈・熱狂的な支持を得ているさまを表現する言い方>である。都市伝説はまさにこれに該当する。まず最初に〝この世には常識で説明のできない不可思議なことがある〟と確信することが必要だからだ。
例えば「霊柩車を見たら親指を隠せ=親指や小指を隠すのは、古今東西世界中で古くから伝わる悪霊から身を守る封印の儀」「夜に口笛を吹いてはいけない=石笛や口笛は、西洋ではドラキュラや魔物、日本では悪霊の召霊術として利用されていた」など、しきたり系の都市伝説については、長い間日本の文化の中で培われた霊的な知恵であり、呪術が発祥である場合が多く、ここで語る都市伝説とは違う。
今回私が扱うのは、「コトリバコ」や「キサラギ駅」など、ネットで広がった都市伝説だ(※詳細は自分でネットで調べてみてください)。場所や起源がほぼ特定された都市伝説もあるが、話のコアな部分は作り話であることがほとんど。だが、私が恐ろしいと感じるのは、都市伝説は広がると現実化する傾向があることだ。
有名なものに、UMAのドッグマンがある。半分人間で半分狼の狼男「ドッグマン」は、1987年にミシガン州のラジオ局のDJがエイプリルフールのネタとして創造した架空の生き物だったが、放送後に「数年前にドッグマンを見た」という人々が続出。それにとどまらず、大昔のドッグマン記録手帳や写真なども発掘され、空想上の存在だったドッグマンが、UMAとして認められてしまったのだ。
実は、これと似たような経験が私にもある。時効なので書いてもいいだろう。
ウェブサイト「TOCANA」を編集していた時、作家の石丸元章さんが「取材してきましたー!」と言って送ってきてくれた都市伝説の原稿があった。それは「8分違いのパラレルワールド」という原稿だ。
2017年に北海道で、昭和65年という存在しない年号の偽1万円硬貨を使って、お釣りの8千5百円を受け取り逮捕された実際の事件をめぐり、ある証言者が「それは8分違いのパラレルワールドから混入してきた硬貨だ」と指摘する内容だ。とにかく文章が滅茶苦茶面白かったので、すぐに掲載を決めた。すると、瞬く間にこの都市伝説がSNSで広がり、「知ってた」「そのパラレルワールドに行ったことがある」という人が続出。雑誌の「ムー」で取り上げられ、気が付いたらテレ東の「やりすぎ都市伝説」でケンコバが8分違いのパラレルワールドは実在すると語っていたのである!
間抜けな話だが、ここまで広がってしまうと、掲載責任を問われそうで私は焦っていた。石丸さんに恐る恐る「8分違いのパラレルワールドを取材した際の証言者は実在するんですよね?」と聞いた。すると石丸さんは「はい、証言者は実在します。私の左脳が右脳に直接取材したんですよ!」と自信たっぷりに返したのだった。石丸さんは調子に乗って、中野ブロードウェイのトイレに出没するえなりかずき似の「妖怪クンニ髭」の原稿も書いてきた。こちらはバズらずだったが、1人だけ「妖怪クンニ髭に舐められたことがあります!」という女性からの被害報告メールが来た。
よくわからないが、都市伝説は読んだ人の信じる心によって現実化するのではないだろうか。奇跡を信じて語り継ぐカルト宗教との類似性は高いと言えるだろう。