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グリム童話ATM #毎週ショートショートnote

 千種の動物の毛皮で作ったマント「千枚皮」を纏った娘は、地下の小さな自室へ駆け込んだ。宮廷料理長から許された時間は三十分。階上のホールで催されている遊宴で、令嬢たちの誘いを断り、一人佇むあの君の姿が思い遣られた。
 ベッドの藁の中に隠していたクルミの殻を取り出す。この中にしまっておいた星のように瞬くドレスさえ纏えば、またあの君に会えるのだ。クルミを開けて出てきてたのは――。
 「王女さまが着るような衣装、だけど、星のドレスじゃないわ」
 千枚皮を纏った娘はそう呟きならも、大慌てでそれに着替えてホールへ駆けあがっていった。

 一方こちらは、小柄な仕立て屋の男性。王女に出された難題は、熊に食われず一晩過ごすことだった。これを遂げねば王女と結婚することはできない。
 熊の居る小屋に入れられた仕立て屋は、クルミを頬張ろうとポケットから一粒取り出す。硬い殻を割ろうと歯でカチリと噛んで出てきたのは――。
 「?!」
 クルミからどんどん出てきたのは目も見張るような星のように瞬く美しいドレス。突然のことに驚いた熊は小屋から逃げ出した。

 はたまたこちらは、鉄のストーブに閉じ込められていた王子を探す婚約者のプリンセス。やっと彼を見つけ出したが、王子は行き違いがあり別の女性と結婚していた。どうにか城の女中として雇ってもらうことはできたが、未だ婚約者の王子に会うことができない。
 ヒキガエルから貰った一つ目のクルミと二つ目のクルミには王女さまが着るような衣裳が入っていた。この最後のクルミにも同じものが入っているはず。願いを込めて割ったクルミから出てきたのは――。
 「普通のクルミじゃない!」
 しかし、丁度そこへ通りかかった王子の結婚相手は、丁度クルミが食べたいところだったのよ、と彼女に声を掛けた。

 Walnut-type Automatic Teller Machineの管理会社が、物語の結末に支障が無いとして、この一連のクルミの動作不良をグリム兄弟に隠していたことはここだけの話――。

<了>


グリム童話より下記を参考にしました。
・千匹皮(KHM 65)
・鉄のストーブ(KHM127)
・賢いちびの仕立て屋の話(KHM114)

たらはかに(田原にか)様の下記の企画へ参加しています。


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