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広がる「共感投資」~エンジョイワークス流の巻き込む地域再生~

 JARECO(日米不動産協力機構)では、日大教授の中川雅之先生を囲む社会人講座として連続講座が開催されています。本講座に通底するコンセプトは、「不動産再生の最前線~不動産コンサルティングは地域再生のカギになるか~」です。

 第3回講座では、『「関係人口」と「共感投資」による地域再生〜新たなチャレンジを始めた不動産・建築業界の変革者たち〜』と題し、株式会社エンジョイワークスの代表、福田和則さんのお話を伺いました。同社が受賞した国土交通省「第1回地域価値を共創する不動産業アワード」について、その評価の決め手となった「地域における様々な関係者を早い段階から事業に巻き込み、空き家を活用する 事業者等の育成に取り組むほか、まちづくりに不可欠な資金調達において、地方公共団体や地域金融機関等と連携してまちづくりファンドを導入・運営すること で、継続的な事業を実現」について、具体例を交えて伺ったお話の内容をまとめてみます。

1.エンジョイワークスの起業背景と地域への視点
 福田さんは、外資系金融機関での勤務からキャリアが始まりますが、起業のきっかけとなったのは、葉山町への移住とその地で出会った多様な生き方をしている人々との交流でした。娘さんの誕生を契機に移住した葉山で、福田さんはカヌーのチャンピオンや画家、写真家など、自由でクリエイティブな職業に就く人々と出会い、その多く方が一定の経済基盤を持ちながらも、人生の目的を明確にし、その目的に沿った生き方を選択していることに気づきました。
 福田さんは、こうした人々の自由で創造的なライフスタイルが、福田さんに街づくりへの新たな視点をもたらしたそうで、ご自身も「ただ仕事をするのではなく、街や地域を活性化させるために何ができるのか」という視点から起業しました。
 このような想いから創業したエンジョイワークスは単に不動産業を展開するための企業ではなく、地域に「良いコミュニティ」を作り、その地域自体を豊かにしていくための手段としての存在意義を持っています。

2.経営への想いと事業の確立、そして仕組み化へ
 同社の事業スタイルは、従来の不動産仲介とは異なります。まず同社のミッションは「ライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)について自ら考え、自ら選択することのできる仕掛けを提供し、共創する機会を生み出すことで、持続可能で豊かな社会の実現に貢献します」です。

 講演を通じて印象に残った点は「共創する機会を生み出す」ことです。以下のようなアプローチから同社の「らしさ」を感じます。

(1)   不動産を「売る」よりも体験を「共有する」
 同社では、不動産を単なる物件として取り扱うに留まらず、地域の仲間たちとその「暮らしそのもの」を共有する手段と捉えています。講演の中では、物件の案内に先立ってバーベキューを開催していたら案内ができず、仕切り直したものの、今度は、一緒にタコを採り始めてしまって再延期になってしまったというエピソードを披露されました。「ここ」での体験を一緒に楽しもうというお誘いが「入り口」です。

(2)   建築設計の「ジブンゴト化」
 家づくりの場面では、お客様が設計に主体的に関わる「ジブンゴト化」という考え方を重視しています。お客様が自身の住まいについて考え、設計士がその内容をフィードバックしながら家づくりを進めるというプロセスは、お客様に「自分がこの街を作っている」という意識を持っていただくことに繋がります。家づくりが地域づくりの一環となっている取り組みです。

(3)街づくりの資金調達手法としての共感投資ファンド
 同社の特徴を際立たせるのが共感投資ファンドです。これは、地域のプロジェクトに共感する人々が資金を提供し、地域を一緒に作り上げていくという発想のもとに不動産特定共同事業における小規模不特法事業を活用したものです。以下に詳細を記します。

3.「共感投資ファンド」の意義
 この共感投資ファンド「ハロー!RENOVATION」では、投資家に高いリターンを提供するタイプの投資商品もありますが、「地域を支えるために投資をする」という共感を大切にした投資商品も提供しています。その事例として葉山の「泊まれる蔵プロジェクト」を紹介いただきました。

 このプロジェクトは、企画段階から投資家となり得る一般参加の女性の方々のアイデアを採用し、また、DIY好きの女性には、実際に一部工程に関わっていただいて形になっていきました。プロジェクトへの主体的な関わりで建物が活き、事業としても成功を収めています。
 さらに、「ハロー!RENOVATION」は、従来の単なる投資ではなく、投資者がプロジェクトに対して積極的に関与していくための「仕掛け」が用意されています。この仕組みを通じて、投資者はプロジェクトの進行とともに事業に深く関わり、より深い理解を得られる点が特徴です。投資者には細部にわたる情報が開示されるため、透明性が高く、進行状況や意思決定のプロセスに関わる情報も適宜提供されます。これにより、投資者はプロジェクトの一員として事業に携わる感覚を持つことができるのです。
 特に対象地域外にお住まいの投資者であっても、こうした事業に関与することで、対象不動産で行われるイベントや活動に参加する機会が生まれます。また、投資者同士での交流が活発化し、地域住民とのつながりも強化されていきます。結果として、プロジェクトの成功に留まらず、地域社会にもポジティブな影響を与えることができ、投資者も「共に地域を作り上げる」という充実感が得られるのです。

4.ファンドの新たな展開
 同社は、地域ごとに異なるニーズに応じて、小規模なファンドから大きめのサイズのファンドまでを組成しています。これらを投資商品として提供しています。たとえば、地域での小規模事業者の支援もかねる「育てるファンド」では、蔵をダイナーに、古民家をビールの醸造所に、歴史的建造物をシェアスペースに再生するなど、地域資源を活用した再生事業に対して投資家資金が使われています。
 同社では、「育てる」ファンドの次の展開として、地域での事業事態は軌道にのってきた不動産所有者の資金余力づくりのお手伝いとして不動産のオフバランスを提案しています。物権所有者にとっては既存の金融機関からの借入を不動案売却により返済することで、再度の新規の借り入れ余力を作りだすお役立ちをしています。その不動産の買い取りでファンド資金を活用します。これを「持続させるファンド」と謳っていますが、こういう新しい試みの継続により地域金融機関、大手企業といった新たな出資者を迎え入れております。
 これらのプロセスの中で、投資家は事業の一員として参加することまでの共感を生み、結果的に地域全体の活性化につながっていくことを狙いとしています。

5.街づくりと全国展開
 同社のプロジェクトは、湘南地域に留まらず、全国各地で展開されています。例えば、富山県婦中町のエンジョイヴィレッジや、三豊市の古民家再生プロジェクトなど、地域ごとの特色に合わせたプロジェクトが進行中です。加えて、地方創生の担い手として、地域金融機関や自治体、大手企業も巻き込みながら事業を拡大しています。

 福田さんは、巻き込むことが地域の活性化において重要であると考えています。前述した同社のミッションのとおり、大手企業や地域金融機関が、資金調達だけでなく、地域のインフラ整備や中小事業者の育成など、広範な支援を提供する「仕掛け」になっております。

6.地域の人材育成と中間支援組織の必要性
 「仕掛け」づくりに関して、福田さんは、地域活性化に必要な人材の育成や、中間支援組織の設立にも力を入れています。これにより、地域の起業家や事業者を発掘・支援し、地域の持続可能な成長を促す仕組みが整備されつつあります。福井県池田町のアイデアコンテストや、紀の川市の地域活性化法人の事例がその具体例です。
このように同社は、地域の人々が主体的に関与し、共感を基盤にした投資を通じて街を作り上げていくようは「地域活性化エコシステム」の形成に向けて、自らを「不動産業5.0」という位置付けて新しいチャレンジを打ち出していっています。

7.最後に
 講演を終えて後、福田さんと名刺交換をさせていただきました。都内でのレトロビルの再生プロジェクトに関与していること、その出口において、不動産特定事業の任意組合型での商品提供をしている事業者と組んで小口化をしてみたいとという話をさせていただきました。今後、色々と実例などを含め、教えていただきながら、私も再生ビルの価値を高めていけるような「仕掛け」づくりを仲間とアイデアを出し合いながら実践してみたいです。

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