空き家の流通と不動産コンサルティング
JARECO(日米不動産協力機構)では、日大教授の中川雅之先生を囲む社会人講座として連続講座が開催されています。本講座に通底するコンセプトは、「不動産再生の最前線~不動産コンサルティングは地域再生のカギになるか~」です。
第5回講座は一般社団法人全国不動産コンサルティング協会の会長である米田淳さんによる「空き家の流通と不動産コンサルティング」です。
米田さんは、大阪府で空き家問題の解決に向けた実務と研究を両立されながら、不動産コンサルティング業を展開されています。その考え方や具体的な事例の紹介の中身が濃く、学びの多い1時間でした。以下に聴講記録としてまとめます。
1.空き家問題への多角的な取り組み
米田さんは、一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会の理事でもあり、空き家の活用と流通の両面で活動されています。大阪では「空き家相談ホットライン」を運営し、年間約300件の相談を受け付けています。このホットラインでは、受付担当と相談担当とが役割を分担し、空き家相談を効率的に行っています。
2.相談の流れ
空き家相談の対応は、おおむね以下のような流れを取るようです。
(1)相談受付:相談者からの電話や問い合わせを受け付けます。
(2)ヒアリングと整理:緊急性の有無、権利関係、建物や家財、植栽の状況、相談者の希望、行政からの指導などを聞き取り、相談内容を整理します。
(3)初期調査:地図やストリートビューを活用して相談対象不動産の現地の状況を把握します。
(4)無償対応:専門家の紹介までは無償で対応します。
(5)有償対応への移行:調査や企画提案、事業化に進む場合、コンサルティングを含む有償対応に移行します。
3.空き家コンサルティングのプロセス
空き家問題の解決には、「環境整備」というプロセスが必要であり重要です。以下の内容が含まれます。
(1)権利整理:相続人の調査や同意の取得の可能性のプロセス
(2)意思統一:複数の所有者や相続人間での合意形成を図るプロセス。
(3)資金手当て:必要な資金を確保するプロセス
これらを経て、活用(賃貸や自己使用)や処分(売却、除却)といった「出口戦略」を策定します。また、時間がかかる場合には、適正な管理(保全)が必要となり、専門家や専門業者との連携が不可欠となってきます。
4.具体的な事例
具体的な事例をいくつかご紹介いただきました。この場では数例に絞って例示します。
事例1:遠隔地にある空き家の相談
九州地方にある亡くなった弟さんの自宅についての相談が寄せられました。相続人は遠方に住んでおり、家財の処分や換価分割が必要でした。コンサルタントからは、基本報酬と成功報酬に分けて提案を行い、家財搬出や相続登記、売却までを一貫してサポートしました。媒介契約のみでは解決が難しいケースであり、コンサルティング契約を締結して総合的な支援を提供しました。
事例2:借地権が絡む複雑なケース
財務省の借地上にある建物で、雨漏りがひどく、所有者が外国籍で相続登記が必要な物件の相談が寄せられました。コンサルタントが相続人の調査、払い下げ手続き、隣地所有者との交渉など、解決には多くの手間がありましたが、最終的に隣地の方への売却に成功しました。
事例3:売らない不動産コンサルティング
隣家からの火災で家が焼失し、再建築が難しい土地の固定資産税が高額になったケースです。コンサルタントが、行政と相談し、地目変更登記を行うなどして固定資産税の負担の問題を解決しました。最終的には物件を売却せず、所有者の負担を軽減するためのコンサルティングを提供しました。
5.空き家問題と不動産コンサルティングの役割
米田さんからは、空き家問題の解決には流通が重要であり、物件を持つことが適当でない方から持った上で解決につなげる方(業者などを含む)へと所有権を移転させることが効果的であると解説されました。それには、流通を阻害する要因の排除する必要があり、それが不動産コンサルティングの中心テーマとなります。
無償対応から有償対応へのスムーズな移行も重要なポイントになりそうです。初期の相談は無償で行い、必要に応じてコンサルティングを含む有償対応に移行すること、その見積もりも詳細内訳で示すことで、依頼者の負担の意志と能力の両面を考慮しながら問題解決を図っていくことも求められます。
6.最後に(感想)
今回の講演を通じて、進行しない空き家問題の背景に所有維持のための資金不足や環境整備への手間をかけられないという原因があることも理解しました。原因解消に向けた資金をどのように調達し、空き家の流通を促進するかがポイントだと捉え、質問をしました。
協会の取り組みは、手間のかかる仕事でありながら、仲介手数料だけでなくコンサルティング報酬としても収益を上げ、多様な問題解決の方法論を実践で獲得し蓄積されている点が注目する点です。
空き家問題は社会全体で取り組むべき課題です。その中での不動産コンサルタントの役割への期待も増しています。米田さんのコンサルティング手法が豊富に紹介され、私自身として消化し切れないほどの量と質のノウハウをお持ちだと理解しました。米田さんのようなノウハウの伝承や育成も国にとって急務の課題です。