記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

書籍紹介 小早祥一郎『8割捨てて2割に集中する 捨てる経営』

 企業経営における「捨てる」ことの重要性を説いた一冊です。本書では、ビジネス環境で企業が最も大切なものに集中し、効果的に業績を向上させるための具体的な手法と考え方を提示しています。それは、不要なモノや情報、無駄な業務を捨てることで、企業の本質的な価値に集中し、効率的に運営することが可能になるということです。

1.なぜ経営に「捨てる」ことが必要なのか
 はじめに経営における「捨てる」ことの必要性が強調されています。「企業組織において、不要なものというガンを放置したまま、業績を良くすることはできないのです。」と著者は述べています。企業は、情報やモノ、業務の過剰さによって本当に大切なものを見失いがちです。現代の企業は、あり余るモノや情報に囲まれ、洪水の中にいるようなものです。このような状況では、「あれもこれも」となり、結局どれも中途半端になってしまいます。だからこそ、まず不要なものを捨てることが重要です。
 著者は、不要なものを捨てることによって得られるメリットについても詳述しています。例えば、モノを捨てることで、経費の無駄遣いや社員の不正が明らかになることがあります。また、捨てることで残ったものをより大切にするようになり、扱うものの量が多くなればなるほど、一つひとつのモノに対する情熱や注意力は相対的に低下します。モノを捨てることで、無駄なものを手に入れることも少なくなり、ますますモノを大切にすることにつながります。

2.モノを捨てる
 
第1章では、モノを捨てることの重要性が説かれています。著者は「不要なもの」の定義を「1年以上使っていないもの」とし、使えるかどうかではなく、必要かどうかを基準にすることを提案しています。これにより、無駄な経費やスペースの浪費を防ぎ、本当に必要なものだけを手元に残すことができます。
 例えば、使いもしない事務用品が大量にあることを発見し、いかに経費を無駄遣いしているかを思い知らされることがあります。また、デスクや引き出しを処分する中で、社員の不正が明らかになることもあります。 
 さらに、捨てることで残ったものをより大切にするようになり、扱うものの量が多くなればなるほど、一つひとつのモノに対する情熱や注意力は相対的に低下します。 
 ただし、特定の業界や法律によって保管が義務付けられている書類、防災関連の備蓄品については、例外として扱うことになります。
 モノを捨てる具体的は方法として以下を示しています。引き出しの中身を一旦全部出し、業務に直接関連がないものや過去1年間使っていないものを捨てることが推奨されています。

 引き出しについては、まずは、中身をいったん全部出します。
 業務に直接関連がないと判断されるものについては、原則として捨てます。
 業務に関連するものも、「過去1年間使っていないもの」は捨てます。また、重複しているものも、捨てます。たとえば、5~6本もある黒のボールペン。実際に使うのが1本であれば、1本を残して、あとは捨てます。

出所:本書(P46)

 また、倉庫に置いて良いのは「頻度は少ないが、確実に使うもの」と「頻繁に使うが、大量にあって前線にはおいておけないもの」に限定することが重要です。

3.情報を捨てる
 第2章では、情報の整理の重要性について述べています。データの管理は「データを捨てる」ことから始まり、不要な情報がシステムを圧迫しないようにすることで、管理がしやすくなります。特に、メールやSNSの整理が強調されており、不要なメルマガの解約や未開封のメールを残さないようにすることが推奨されています。これにより、記憶装置の容量を圧迫せず、必要なデータのみを共有することができるようになります。
 また、長く続いている企業で昔の写真が大量に保存されている場合、現経営者の目で見て、今後も残しておきたい写真だけにコンパクトにし、あとは捨てることが推奨されています。そうでないと、将来、次の後継者がまた困ることになるからです。
 SNSについても、平均利用時間が多くの時間を占めており、その時間が無駄になっている可能性があります。特に経営に行き詰まりを感じている人や、忙しくて余裕がない人は、一度「SNSを捨てる」ことを考えてみる価値と説いています。

「何となく」利用している場合は、要注意です。特に、経営に行き詰まりを感じている人、何かを変えなければいけないと感じている人、忙しくて余裕がなく、常に時間に追われている人は、一度、「SNSを捨てる」ことを考えてみてはいかがでしょうか。SNSを利用している時間がそのままロスになり、無駄に忙しくなり、さらに余裕がなくなってしまいます。
 SNSには中毒性があります。ちょっと息抜きのつもりで見始めたのに、いつの間にか止まらなくなってしまったということを、使用者ならば経験したことがあるでしょう。あると、どうしても気になります。ついスマホに手が行き、チラチラ見てしまうのです。
 だから、文字通り「捨てる」ことが必要です。

出所:本書(P83)

自分でコントロールが不能ならば、一度SNS断ちをしてみる。きちんと制御できるようになったら、再開して有効活用すればいい。

出所:本書(P87)

4.壁を捨てる
 第3章では、物理的なオフィス環境の整理について述べています。棚やキャビネットなどに扉があると、中身が隠されるために、どこに何があるかがわかりません。オープンスペースの活用により、視覚的な整理とアクセスの簡便さを重視しています。これにより、無駄な作業を減らし、効率的な業務運営が可能になります。

5.商品や資産を捨てる 
 
第4章では、儲からない商品や資産を捨てることの重要性が述べられています。

儲からない商品を捨てて、自信を持って提供できる高付加価値商品にシフトすれば、品質は向上し、社員の満足度は上がる。

出所:本書(P121)

 企業は利益を生まない商品や事業を思い切って捨て、企業の強みに集中することが必要とのことです。例えば、拠点の増設に対する警戒も説かれており、無駄な拠点の増設は痛い目に遭うことになるとしています。

事業が順調に伸びてくると、店舗や営業所などの拠点を増やしたくなるのが、経営者の心理というもののようです。
そこに、しっかりとした考え方(哲学)があり、多店舗展開に耐えうる管理手法(仕組み)が確立されていれば問題ないでしょうが、「何となく」拠点を拡げると、ときに、痛い目に遭うことになります。

出所:本書P122

 また、過剰な在庫や不良在庫の問題にも触れています。課題解決事例を挙げています。バックヤードには在庫を置かず、すべての商品を店頭に出し、売れないものは値下げしてイベント時に売り、それでも売れないものは最終的に廃棄し、これにより、倉庫在庫ゼロ化が実現した事例です。

 そこで、バックヤードには在庫を置かず、すべての商品を店頭に出すことにしたのです。
 当初、バックヤードには、大量の在庫がおいてありました。中には、ホコリをかぶっているものもあります。これを、とにかく店頭に出しました。
 しかし、店頭に出しても売れないものもあります。こうしたものは、値下げをして、イベント時に売っていきました。それでもうれないものは、最終的に廃棄をしました。
 仕入れ方法についてもメスを入れました。仕入れ単価が安いからといって、安易に大量仕入れをしてしまうと、結局売れ残って損をすることになります。
 このような取り組みをくり返して、「倉庫在庫ゼロ化」は実現しています。

出所:本書(P138)

 さらに、複数の倉庫を統廃合することで、移動のロスが少なくなり、業務の効率が良くなると述べています。例えば、3カ所の倉庫を1つに統合し、余分な倉庫を解体することで、移動の無駄を省き、業務効率を向上した事例が挙げられています。

 すると、3か所も倉庫は要らない、という話になり、倉庫を統廃合することになりました。3カ所あるうちの2つの倉庫の中身を、本店の倉庫に移し、建屋を解体し、更地にして、土地を売却しました。
 移動のロスが少なくなったことで、業務の効率が良くなりました。
 また、敷地が離れていると、管理が行き届かず、倉庫内が乱れたり、社員がサボったりという状況を生みがちですが、そういったことも改善できました。

出所:本書(P142)

6.人間関係を捨てる
 第5章では、問題のある社員や取引先を断ち切ることの重要性が述べられています。自社にとって捨てるべき社員とは、会社の方針に従わない社員であると述べています。問題のある社員や取引先を断ち切ることで、他の社員のモチベーションを上げ、会社全体の健全な成長を促すためです。例えば、成績の良い社員に対して遠慮せず、会社の方針に従うように指導することが重要です。また、問題のある顧客を「捨てる」ことで、より望ましい顧客との取引を拡げることができるとも述べています。
 加えて、限度額以上の値引き要求をする顧客や、支払い期日を守らない顧客に対しては、率直に改善を求め、それでも改まらなければ取引を断ることが必要です。

7.しがらみを捨てる
 第6章では、事業の目的とそのためのしがらみを捨てることの重要性が説かれています。企業は事業の継続に固執せず、関わる人々の幸せを最優先に考える経営哲学を採用するべきであると説いています。

 そもそも、事業の目的はなんでしょうか?「続けること」でしょうか?
 いろいろな意見があるかもしれませんが、事業の目的は「関わる人たちを幸せにすること」だということに、異論はないでしょう。
 であるならば、考えるべきは、「いかにして続けるか」ということではなく、「いかにして関わる人を幸せにするか」ということでしょう。
 そのためには、場合によっては、企業希望を縮小する選択肢もあるはずです。

出所:本書(P181)

 複数の事業で売上規模を追求することを捨て、自社の強みが発揮できる事業に絞り、粗利益重視の質実な経営を目指そう。

出所:本書(P185)

 さらに、企業は過去の成功体験やしがらみに縛られることなく、常に変化と進化を求める姿勢が重要です。「続けなければならない」という思い込みを捨て、必要ならば企業規模を縮小する決断も重要とのことで筆者の覚悟を感じます。

 「続けなければならない」というのは、本人の思い込みかも。勇気をもって「終わらせる」ことが、本人と周りを幸せにすることがある。

出所:本書(P191)

 著者は、覚悟を決めて安定を手放すことで、予想もできなかった自由で希望に満ちた人生が拓けるとも述べています。

8.最後に
 以上、本書は、企業経営における断捨離の実践的な手引き書です。幅広い業界や規模の大小に関わらず応用できる具体的なアドバイスが満載されています。企業経営者のみならず、全ての立場の方にお勧めできます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?