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書籍紹介 安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』

 安田隆夫著『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』文藝春秋(2024)は、経営者としての成功とその背後にある「運」の捉え方について掘り下げた内容です。ドン・キホーテは売上高が2兆円にまで達しています。その創業者が、自身の経験と哲学を通じて、運をどのように理解し、活用してきたかが綴られています。
 著者は、「運」という要素を単なる偶然や天の采配として捉えるのではなく、積極的に切り開き、最大限に活用するべき資源として捉えています。

 私自身は特別に運が強いわけではない。災難を招いた「不運」を、「幸運」に変える力が強いのだ。

出所:本書(P6)

 このような言葉に表れているように、運をコントロールする力こそが、著者の成功の真髄でもあります。また、本書では「集団運」という概念が繰り返し登場します。個々人の運を組織全体の成長へと転化するためには、リーダーとしての戦略が重要です。

 ここで何が言いたいかというと、運の良し悪しは、その個人に留まらないということである。とりわけ会社(組織)には「集団運」というものがあって、これが成長と発展の決め手になる。そんな「集団運」を育めば、個々人がおのずと自燃・自走する最強軍団が出来上がる。そうなれば、会社は大きな成長と発展を遂げることになる。

出所:本書(P8)

 このように、組織全体の運を高めるためには、権限委譲や現場力の強化が不可欠であることを著者は述べています。企業経営において、単なる運任せではない、運の活用に関する知恵とも言えます。
  著者の哲学は、運を科学的に捉え、計画的に最大化することに重きを置いています。

 中長期的な運のコントロール方法について、具体的・論理的にきちんと整理、記述した文献は、私の知る限り皆無に等しい。運の概念は、あまりにも多種多様かつ著しい変化要素を包含していて、前提条件が定まらないからだろう。ただ、そうは言っても、確率論的に「大体こうなるだろう」というパターン認識のようなものが、私の中には確実にある。

出所:本書(P38)

 運を科学していこうという姿勢が著者の成功を支えています。このアプローチから運が単なる偶然の結果ではなく、計画的に管理できるものとして捉え直すという視座を与えてくれています。
 特に、著者は「楽観論者」の方が運に恵まれるとも述べています。ビジネスにおける心構えの重要性であるとも強調しています。

 次に大事なことは、未来に希望を持つ「楽観論者」のほうが運に恵まれるということだ。逆に、悲観論者には運はやって来ない。 楽観論者のほうが悲観論者よりも圧倒的に勝率が高く、それが成功へと至る近道となる。
そもそも成功者というのは、リスクを恐れて悲観的に何も行動しない人ではなく、むしろ何かを成そうと、楽観的に常にチャレンジを続ける「挑戦者」である。

出所:本書(P43)

 この言葉は、挑戦を続けることで運を引き寄せる力が備わるということを教えてくれています。このように楽観的な姿勢こそが、リスクを乗り越え、成功を手にするための鍵となるでしょう。
 一方、著者は幸運の最大化と不運の最小化についても述べています。「幸運が巡ってきたら、その運を最大化することに全力を注げ」(P72)とのことで、運を最大限に活用するための積極的なアプローチを推奨する一方で、不運が訪れた時には、「ひたすら耐えて守りに徹すること」(P72)という守りの姿勢が重要であるとも述べています。このようなバランス感覚も長期的な成功を手にするための重要な要素となるようです。

 著者はまた、経営の躍進において「主語の転換」が極めて重要であったと述べています。

 私も自らの人生、商売、経営の行き詰まりなどを通じて、目から何枚も鱗を落とし、そのつど発想の転換を図って自分を改めた。中でも最大のそれは、「相手の立場になって考え、行動する」ということである。これが「主語の転換」だ。「なんだ、そんな当り前のことか」と言わずに読み進んで欲しい。

出所:本書(P126)

 生まれつきのお人好しかよほど達観した人でない限り、世界は自分を中心に回っているから、ほとんどの人の目には「主語は自分」という鱗が何層にもへばりついている。
 私の場合も、その鱗を落とすには、窮地に立たされる修羅場のような経験と、その状況を何とか打破せんとする強い思いと意志が必要だった。

出所:本書(P128)

 この「主語の転換」の実践により組織全体の運を高めることにつながったそうです。この考え方は、リーダーシップの発揮とともに謙虚さや他者理解の重要性、運を組織全体に波及させる方策を著者なりの言葉で表現されており、大変重要な考え方です。

 最後に、改めて、『運』という書籍を通じて著者が伝えようとしているのは、運を単なる偶然の産物として受け入れるのではなく、積極的に活用し、最大化することです。運をどう捉え、いかに活かすかに対する著者の考え方は、人生全般においても貴重な教訓です。
 著者の「運」に対する深い洞察の数々についてはお手に取られてみてください。


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