見出し画像

まちの再編集の要「まちづかい」について ~善行寺でのMYROOMの取り組み~

 JARECO(日米不動産協力機構)では、日大教授の中川雅之先生を囲む社会人講座として連続講座が開催されています。本講座に通底するコンセプトは、「不動産再生の最前線~不動産コンサルティングは地域再生のカギになるか~」です。

 第6回講座は長野市の善光寺門前を舞台に、倉石智典さんが率いる株式会社MYROOMの「まちづかい」という発想に基づく取り組みの紹介です。単なる不動産業の枠を超え、地域全体を編み直す試みです。その活動の背後にある倉石さんの地域への愛着と、一人ひとりの暮らしや営みを未来につなげようとする意志も交えながらまとめます。

1. 「まちづかい」という哲学
 
 倉石さんが紹介した「まちづかい」とは、地域に埋もれてしまった空き家や建物を、再び命を吹き込む舞台として捉えることから始まります。それは「まちは保存されるだけでは生きられない」という想いに根ざしていそうです。物理的に再生するだけでなく、そこに人々の想像力や記憶、そして新たな活動が交錯する場を生み出すこと。それが「まちづかい」の本質なのではないでしょうか。

 善光寺門前の歴史が染み込んだ路地裏。倉石さんの手がける「空き家見学会」では、参加者が築80年以上の古い建物に足を踏み入れ、その奥行きと可能性を体験してもらいます。例えば、錆びた金具や油染みの木の床を見ながら、誰かが「ここでカフェをやりたい」と話し、別の誰かが「アトリエにどうだろう」と返す。このようなやりとりが、「まちの資源」を再発見し、新たな用途を探るプロセスなのです。

 倉石さんが空き家の契約条件に取り入れている「改装自由」や「原状回復不要」という仕組みもまた、自由な発想を尊重したアプローチです。固定観念を取り除き、借り手の創造性を最大限に引き出そうとする積み重ねで善光寺門前エリアでは空き家を活用して150店舗近くがオープンしてきました。


2. 空き家再生に留まらない地域全体の再編集の試み

 MYROOMが目指すのは、単なる空き家再生ではなく、地域全体を再編集することです。空き家は単なる不動産ではないという発想です。過去の記憶が染み付いた「素材」ともいえます。また、未来を作る「基盤」ともいえます。倉石さんは「まちの編集素材」として見ているようです。

 例えば、築80年の古い問屋だった空き家が、現代の感覚を取り入れたゲストハウスやコワーキングスペースに変わるとします。その場所で、地元の住民と移住者、新規事業者が交わりながら新たなプロジェクトを形にしていくこと、これが「まちづかい」の一例です。

 この過程においてMYROOMは「家守(やもり)」としての役割を果たします。
 
 倉石さんの行う、人と場所を繋ぐ仕事には地味さがありますが、倉石さんにとっては、これ以上に手応えのある仕事はないことでしょう。家守は、空き家の単なる管理者ではありません。地域住民や利用者の間に入り込み、信頼関係を築きながら、次の世代に受け継ぐ要です。


3. R-DEPOTはアイデアが交錯する「まちの交差点」

 MYROOMが手がけるR-DEPOTは、長野市の元NTTビルをリノベーションした施設です。この場所は単なる不動産活用の事例にとどまらず、人とアイデアが交差する「まちの交差点」として機能しています。

 1階の古道具ショップでは、長年放置されていた家具や雑貨が新たな価値をつけて販売されています。カフェスペースは、これから起業をしたい方たちが自分のアイデアを試せる「チャレンジショップ」としての役割も果たしています。これらは地域の中での創業を促していこうする意図がこめられたものです。

 2階と3階にはコワーキングスペースとシェアオフィス。日常的に情報交換が行えて、新しいプロジェクトやビジネスの基点になります。


4.まちは生き物、「まちづかい」で熟成されていく

 これら倉石さんの取り組みは、空き家という負の資産を未来の財産に変えるだけではない地域への愛情と献身を感じます。空き家一軒一軒の再生には、計画、交渉、改修という手間のかかる過程があります。しかし、そのすべてに対して根気強く向き合い、地域のために実直に取り組む姿勢が物語っています。

 地域を変えるには焦らないこと。人と人の信頼関係を築くには時間がかかる。というところが「まちづかい」の本質のようです。急激な成果を求めずとも、ゆっくりと育つ地域の熟成を大切にする姿勢があります。

 これら取り組みは舞台をつくり上げているかのようです。人口減少に向き合う中、ヒントとなる事例として、今後、さらに注目が集まることでしょう。


いいなと思ったら応援しよう!