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健全なM&Aと事業承継を実現するために:中小企業経営者や支援者が知っておきたい実態と対策

 株式会社経営承継支援は、中堅・中小企業同士の事業承継やM&A支援を行う企業です。大手や公的機関では対応できない役割を担い、中小企業の事業承継をサポートしています。その一環として、中小企業オーナーやその顧問を担う専門家(会計事務所、士業、コンサルタントなど)向けにセミナーや勉強会を開催しています。以下に1月23日に実施したセミナーでも笹川敏幸代表の講演の聴講記録をまとめます。


1.    最近の中小M&A事情:マーケット拡大の光と影

 
 M&Aマーケットは拡大を続けており、それに伴いM&Aを手がける仲介会社も増加傾向にあります。M&Aが広く認知が進んだことで、「うちでも売れるのかもしれない」「M&Aとはこういうものだ」といった経営者側の理解も深まり、こうした背景から相談件数が増加しています。
 
 しかしながら、その一方で負の側面も顕在化しています。具体的には、
・経験不足の仲介会社が増え、トラブルや詐欺まがいの案件が発生
・安易な手数料ビジネスに走る企業の参入
・これらによるM&Aに対する社会的な不信感の増加

 こうした副作用をどう防ぎ、健全なマーケットを維持していくかが、今後の大きな課題となっているとのことです。

2.詐欺的手口の事例

(1)国内M&Aの増加と投資ファンドの台頭

 日本企業間のM&A件数も過去最高を更新しています。投資会社(ファンド)が受け皿となるケースも増加し、士業の方にも新たなビジネスチャンスが広がっています。一方、マーケットの拡大に伴う玉石混交の状態が顕在化しており業界全体としての対応が問われています。

(2)吸血鬼型M&Aの衝撃

 講演では吸血鬼型M&Aの事例が取り上げられました。
・経営の実態が乏しい買い手企業が、中小企業を買収して資金を吸い上げ、
 債務を現場に押し付けて逃亡する手口
・若い人を新社長に据えて個人保証を負わせるなど巧妙な仕組み
・結果的に被害企業は倒産や営業停止に追い込まれる等して損害が発生
 
 この背景には、チェック体制が不十分な仲介会社が安易に手数料を追求することで、危うい買い手企業とのマッチングを進めてしまった背景もあったといいます。最近は新聞報道や週刊誌でも大きく取り上げられ、国や業界団体からの注意勧告が相次ぎました。

3.問題のあるM&A仲介会社・誠実なM&A仲介会社

(1)15社への注意勧告と再発防止計画

 国は今回の詐欺事例を受け、該当するM&A支援会社15社に注意勧告を行い、再発防止計画の提出を求めたそうです。中小企業庁が所管する「登録M&A支援機関」の登録取り消しや事業承継・引継ぎ支援センターとの連携停止など、行政の対応も強まっています。


(2)「怪しい仲介会社」を見極めるポイント

 笹川代表によれば、以下のような特徴を持つ仲介会社には要注意です。
①   高いインセンティブによる一匹狼営業
・極端に低い固定給与+高い歩合率で、契約優先になりがち
・売手と買手の手数料を独り占めしようとするため、杜撰なマッチングに陥
 る
②   公的機関や金融機関との提携実績が乏しい
・倫理観やチェック体制が甘いまま独立しているケースが多い
③   経験の浅いスタッフしかいない
・重大なリスクを見抜けないままクロージングしてしまう
④   守秘義務を口実に顧問への相談を拒む
・会社側が顧問や士業に相談できず、判断を誤る可能性大
⑤   「買い手リピーター」依存型
・一部の“買い手常連企業”との取引を優先し、適正価格よりも自社の手数料 
 獲得を優先

 こうした特徴を持つ仲介会社を紹介してしまうと、紹介者(金融機関や士業)までが責任を問われるリスクがあるため、紹介先のコンプライアンス状況はしっかりチェックすべきと注意を促しました。


(3)任せられる仲介会社の対応の例

 裏を返せば以下のような対応ができている仲介会社が任せられる仲介会社になります。
 
 笹川代表も、以下のような取り組みを地道に実行している仲介会社が、これから市場で生き残るといった見解を述べています。

・買い手企業の財務情報を売り手側に提供する
・個人保証が絡む場合には銀行や支援センター、専門家への相談を促す(秘
 密保持条項の見直し)
・クロージング後に発生しうるトラブルリスクの説明
・不適切な買い手企業への情報提供はNG
・売り手、買い手双方の手数料の開示やリピーター買い手の優遇禁止
・コンサルタントのプロフィールの提示(M&A実務経験の開示)


4.M&A実行前サポート:2~3年かけた準備の増加傾向

(1)中長期視点でのM&A準備が増えている

 経営承継支援の最近の相談傾向として、「すぐではなく、2~3年後を目途に事業譲渡(M&A)したい」というオーナーからの相談が増えているそうです。社内に後継者候補はいるものの「本当にこの先、競争環境に勝ち残れるか不安」「相続対策も兼ねて現金化を考えたい」といった理由が背景にあります。

 また、大手企業の傘下に入ることで人手不足を解消しようという意図や、一部をファンドに出資してもらって共同経営を行い、その後買い戻すオプションを取り入れる事例など、柔軟なスキームが増えているとのことです。


(2)  事例:士業伴走型の事業承継コンサル

・株式の集約や不要資産の整理を事前に1年かけて実施し、その後さらに1年
 ほどかけて売却手続きを行う
・買い手候補のシナジーを調査し、最適な相手を探す
・売却に至っても顧問契約は続け、クロージング後のPMI(Post Merger
 Integration)を支援するケースも

 こうしたサポートには税理士や会計士など士業の強みが活きやすく、経営者や家族の理解を得ながら段階的に準備を進める点が重要だといいます。


5.「M&Aに備える」ためのコンサル需要

 (1)疑念から納得へ

 詐欺的スキームの報道などもあり、オーナー経営者の中には「M&Aが怖い」「乗っ取られるのでは」といったイメージを持つ方も一定数存在しますが、笹川代表は「勉強会などを含む情報提供で、2~3年かけて理解を深めてもらううちに、最終的に譲渡に至る事例も増えている」と話します。

・簡易デューデリジェンス(DD)を先に行い、ビジネス全体を“見える化”し
 ておく
・息子が継ぐ予定だったが、継げなくなる場合も想定し備える
・「売れる状態」をあらかじめ整備しておくことで、買い手側の評価も高め
 ていく

 このようなプロセスを支援できる士業やコンサルタントの役割はますます大きくなっています。


(2)経営支援者の長期サポートが重要になる今後

 M&Aが一般的な選択肢として定着していくなか、単に売買を仲介するだけでなく、「事前準備や事業承継コンサルティングを含めた長期的サポート」が求められるようになるとの笹川代表は見ています。中小企業への伴走支援はM&Aにおいてもビジネスチャンスになり得るでしょう。


(3)M&Aガイドライン改訂~行動指針と強い職業倫理の求め

 2024年8月に改訂されたM&Aガイドラインでは、仲介会社などが守るべき行動指針と留意事項がより厳格化されました。職業倫理の順守や広告・営業の停止基準の明文化など、トラブル防止に向けた強いトーンが打ち出されています。中小企業支援者としても抑えておきたい事項です。

https://www.meti.go.jp/press/2024/08/20240830002/20240830002.html


6.最後に

 中小企業オーナーから譲渡にかかわる相談を受ける金融機関や士業など仲介会社や候補企業を紹介する立場の方は、提携先のコンプライアンス体制や実績もチェックしておかないと、自身もレピュテーションリスクにさらされる可能性があります。

 長期視点のM&Aサポート伴走が最終的には、「適切な仲介・FAと連携しながら、信頼できる支援体制を築くこと」となり成功の鍵となります。経営承継支援は「質の高いM&A支援」を徹底するために、ガイドラインに基づく社内体制強化や情報開示の充実を図っていく方針を示しています。中小企業の顧問を担う方々は、単に売り手と買い手を結びつけるだけでなく、長期的な視点で事業承継やM&Aを見守りサポートする伴走者としての役割を期待されていることが理解できました。

 さいごに、同社では全国の中小企業を対象にM&A仲介支援およびM&Aマッチングプラットフォーム「はじめチャット」の運営を行っています。
動画を通じて売り手と買い手が互いの想いをより深く伝えることができ、M&Aのミスマッチを減らすことを目指しています。そのため、YouTubeと連動させた仕組みを採用し、M&Aアドバイザーの自己紹介動画も公開したりもしています。ご興味ございましたらホームページをご確認ください。


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