スタートアップ成長の鍵、ベンチャーデットと主要金融機関のアプローチ
先日、久しぶりに旧友と情報交換をする機会がありました。彼は30代の頃にベンチャー企業の管理部の責任者としてIPOを経験し、その後、証券会社や事業会社勤務を経て、現在はスタートアップ企業の財務責任者として活躍しています。彼との会話の中、彼の会社が開発投資や人材投資を加速させるために次のラウンドの資金調達を進めているとのこと。その中で、ベンチャーデットを含む資金調達手段について話題が及びました。
この話を聞きながら、私も今春に参加したFIN/SUM2024でのトークセッション「スタートアップ企業によるベンチャーデットの利活用」の内容を思い出し、書き留めたメモを見返しました。
セッションでは、ベンチャーデットが急成長を遂げる企業にとっての有効な資金調達手段の一つであること、また銀行がこの分野でどのような役割を果たしているかについて、この機会に私も整理しておこうと思いました。
1.ベンチャーデットの概要と意義
ベンチャーデットは、ベンチャー企業が資金を調達する際に用いるデットファイナンス(債務による資金調達)の一形態です。エクイティファイナンスとは異なり、株式の希薄化を避けることができるため、既存の株主にとっては魅力があります。
特に、企業が急速に成長しているが、まだ安定した利益を出していない時期に、成長資金を確保するためにベンチャーデットが用いられるようです。ベンチャーデットが活用できる場合のメリットは、エクイティの価値を守りつつ、大規模な資金調達を可能にする点です。これにより、企業はさらなる成長のための投資を加速させることができます。もちろん、ベンチャーデットは、返済の義務が伴うため、キャッシュフローの管理は重要となります。
2.日本の主要金融機関によるベンチャーデットの取り組み
それぞれ異なる強みを持っているようです。それぞれの銀行担当者から個別の話を聞いたわけではないことを申し添えつつ、三菱UFJ銀行は、企業の成長ステージに応じた包括的な支援提供、みずほ銀行は、リスクマネー供給と革新性を重視した柔軟な評価と投資、三井住友銀行は、強力なネットワークを活かした成長促進に焦点を当てたスタートアップ企業をサポートの差異が見られます。
2023年の記事ですが以下もあわせてご覧ください。
①三菱UFJ銀行のアプローチ
三菱UFJ銀行の「新産業成長サポートプログラム」は、従来の与信判断では評価が難しい新たな事業領域に挑戦する企業を積極的に支援するための取り組みです。このプログラムは、高い成長性が期待される企業を対象に、単なる資金提供にとどまらず、企業の成長段階に応じた多様な支援を提供しています。
例えば、アーリー期の企業には事業価値向上支援やアクセラレータープログラムの提供、成長期の企業には借入や社債発行による資金調達支援、上場準備期の企業には株式上場支援など、企業のライフステージに合わせた一気通貫のサポートを行っています。さらに、三菱UFJフィナンシャル・グループの各社と連携し、経営課題の発見からコンサルティング提案、各種サービス提供まで、多角的な支援を実現しています。
②みずほ銀行のアプローチ
みずほ銀行は、イノベーション企業審査室を通じてスタートアップやイノベーション企業の支援を積極的に行っています。この部署は、成長企業に関する知見を集約し、革新的な事業を展開する企業の特性や潜在力をより適切に評価することを目的としています。イノベーション企業へのリスクマネー供給を拡大するための施策の一環であり、従来の審査基準では評価が難しい新興企業に対して、より柔軟な資金提供を可能にすることを目指しています。つまり、ベンチャーデットを他のデットファイナンスとは区別し、リスクとリターンのバランスを重視した融資を提供しています。
また、2023年には、みずほイノベーション・フロンティア株式会社(MHIF)を設立し、スタートアップ企業への投資を行っています。金融分野だけでなく非金融分野にも積極的に関与します。純粋な金融リターンの追求にとどまらず、新たな価値の創出を重視し、みずほグループ全体への戦略的な貢献を目指しています。
③三井住友銀行のアプローチ
三井住友銀行でも、スタートアップ向けの融資に力を入れています。大手行であるがため蓄積されている技術評価や産業調査の知見を活用し、スタートアップ企業の成長性を評価する新たなモデルの確立を図っています。
また、2021年にスタートアップ支援プログラム「未来X」を立ち上げています。三井住友銀行、SMBC日興証券、SMBCベンチャーキャピタル、みらいワークスの4社が運営しています。未来Xは、主に「アクセラレーションプログラム」「大企業とスタートアップの協業サポート」「セミナーやイベントの開催」の3つの柱を持ち、銀行の広範な業界ネットワークを活用してスタートアップの成長を支援します。
また、2023年7月に「日本発のユニコーン創出に向けたグロースファンド」を設立しました。このファンドは総額300億円規模の大型ファンドで、レイターステージのスタートアップ企業に向けた出資をしています。
3.ベンチャーデットを活用する際のポイント
ベンチャーデットは、急成長を遂げる企業にとって重要な資金調達手段として役割が増してきています。エクイティとデットのハイブリッドな特徴を持つこの手段は、企業の成長戦略に柔軟性を持たせることができます。
しかし、デットファイナンスに伴う返済義務やキャッシュフローの管理が企業にとって大きな負担となることも事実です。そのため、企業がベンチャーデットを活用する際には、銀行との早期連携が重要です。上記2のような一気通貫による成長支援プログラムを銀行側も用意しています。企業の成長ステージや資金ニーズに応じた最適な資金調達方法を駆使していくためにも、銀行側が相談相手となってもらえるポジションを築くことは大切です。
トークセッションの登壇企業ではないですが、スマートニュースが100億円のベンチャーデットを受けたという事例がありましたので紹介します。詳細は以下をご覧ください。
4.まとめ
日本の主要金融機関に限らず、地域金融機関でも、この分野での取り組みを強化しています。ディープテック分野の企業に対する支援も進んでいきます。
日本ではユニコーンのような大型のベンチャーが育ちがたい環境がありますが、それを打破して産業構造を変えていけるような企業支援にはベンチャーデットの活用、銀行との連携は重要な一歩となることでしょう。状況が刻々と変化していくと思いますので、ウォッチしていきたく思います。