セキュリティートークンとNFTによる持続可能な社会創造への道
1.はじめに:ペイン(苦痛)とゲイン(利得)からの社会創造へのアプローチ
社会創造の発信点には、ペイン(苦痛)とゲイン(利得)の両面のアプローチがあると言えます。苦痛や問題があることは、それ自体で変化を促す強い動機となり得えます。一方、ポジティブなビジョンや経済的機会の追求もまた、新しい価値やシステムの開発を促す重要な動機となりえます。以下にペインの観点からの社会創造とゲインの観点からの社会創造についてまとめてみます。
2. ペイン(苦痛)からの社会創造
(1)問題解決の必要性
冒頭で触れたとおり、社会的な苦痛や問題のあることは変化を促す強い動機となりえます。環境破壊、社会的不平等、経済的困難などの課題は、それらを解決するための新しいアプローチやシステムの開発の動機となります。
(2)危機による変化の加速
経済危機、戦争、天災などの大規模な危機は、社会構造や価値観の大幅な再編を促すことが多いともいえます。危機を感じている時期であったり苦難の時期あったりは、新しいソリューションの出現にとって重要な発信点となり得ます。
(3)社会に対して不満であること
社会的な不満や不公平感は、改革への動機を高めることがあります。市民運動や社会的運動は、しばしば不公正や苦痛に対する反応として生まれ、社会的変化を促します。
3. ゲイン(利得)からの社会創造
(1)望ましい未来のビジョンや目標
望ましい未来のビジョンや目標は、ポジティブな変化や社会創造をもたらすための重要な推進力となり得ます。教育、科学、文化などの分野での進歩は、理想や可能性を追求する動機によって推進されることがあります。
(2)新しい市場の創出や経済成長の機会
新しい市場の創出や経済成長の機会は、社会創造の強力な動機となり得ます。技術革新や起業活動は、利益追求の過程で新しい社会的価値やサービスを生み出すことがあります。
(3)共有価値の創造
企業や組織が社会的責任や持続可能性に重点を置くことで、ビジネスと社会の双方に利益をもたらす共有価値を創造することになります。このアプローチは、経済的成功と社会的影響・インパクトの両方を目指します。
4. ゲイン(利得)の観点からの社会創造としての資産のデジタル化
(1)RWA(Real World Asset)市場
実世界の資産や事業をデジタル化することで、その価値をより手軽に、かつ国境を越えて取引できるようになるRWA(Real World Asset)市場は、近年、テクノロジーと金融の融合によって大きな変革を遂げています。
2023年10月23日付のネット記事で「トークン化された現実資産(RWA)、2030年までに10兆ドル規模に成長する可能性:21.co」というものがあります。
(2)NFT-Fiの誕生
これらの技術は、不動産やアート作品、車両など、多岐にわたる資産のデジタルトークン化を可能にし、伝統的な金融市場が抱える流動性やアクセス性の課題に対する解決策を提供することになります。
特に、NFT(Non-Fungible Token)の発行とその背後にあるWeb3コミュニティの力を活用することで、新しい金融サービスモデルであるNFT-Fiが誕生しました。このモデルでは、従来の資産だけでなく、事業そのものもデジタルトークンとして表現され、グローバルな市場で容易に取引されるようになります。
このプロセスは、資産の所有権を明確にし、取引の透明性を高めることで、投資家にとっての信頼性を向上させることに期待されています。このNFT-Fiは、資産や事業をトークン化することで、投資家が実質的な価値を持つNFTに投資し、収益を上げることができる新たな機会を創出します。
これにより、投資家はこれまで以上に自分の投資が実世界の価値を創造し、社会に貢献している実感を得ることができるという期待が持てます。また、企業にとっても、この新たな資金調達手段は、世界中の潜在的な支援者や投資家にアクセスし、事業をさらに推進する機会ともなり得ます。
(3)持続可能性を踏まえたデジタルとリアルの橋渡しに期待
ここで重要なことは、このNFT-Fiモデルが持続可能性の観点からも重要な意味を持っていくということです。出現当初のWeb3市場においては、投機的側面に注目が集まり、その持続可能性には疑問が投げかけられていました。
しかし、実世界の資産や事業を裏付けとするNFTは、この問題に対する有効な解決策を提供していくことにあります。実質的な価値に基づくこれらのNFTは、市場の安定性を高め、長期的な視点での投資を促進していきます。これにより、NFTの社会実装が促進され、デジタルとリアルの世界の間の橋渡しの役割を果たすことに期待をしています。
5. ペイン観点からの補償のデジタル化に関する考察
1月18日に参加した不動産3.0研究会のテーマは「不動産ST×トークンの最新事例」でした。
講師はTMI総合法律事務所の成本治男先生です。成本先生はこの分野の法律家の第一人者です。
講演の大枠は、上記4.のようなゲインによる社会創造の一翼を担うような不動産STやNFTの事例紹介でした。最後の質疑応答で、私からはペインの解消という観点からのNFTの活用について質問しました。
行政が財政課題の解消策として過疎地域の再編やコンパクト化を進める際、従来の金銭的補償だけでなく、将来の生活保障を含めた包括的な対策が必要であるところ、ブロックチェーン技術を活用し、用地買収や移転に関わる権利をセキュリティトークン(ST)化することで、住民に対する長期的なインセンティブを提供することは可能でしょうか、というのが私の質問の趣旨でした。
成本先生は法律家というお立場から、「特定の地域でのコンパクト化に伴い、地権者や借地権者に対してSTを発行し、これをインセンティブとして提供することのイメージは理解できます。トークン化された権利は流動性が高く、地域の活性化と不動産価値の向上を促進する可能性もあり、住みやすい街にしようという地域住民の行動変容にも繋がることも考えられます。ただし、現実的には、このような取り組みは、まずは特定の法的・経済的条件が揃った特区等を通じて試みるなどの対応が必要だと思われ、その他実装にはさらなる検討が必要と思います。また、地方公共団体の債券(地方債)をトークン化して地域住民に販売・付与するというスキームにも関心があります。」という趣旨のコメントをくださいました。
6.まとめ:いずれにせよ持続可能性が重要な論点だと思っています。
現代の複雑な社会的課題に対処するためには様々なアプローチと幅広い視野が必要だと思っています。STやNFTといった技術的進歩や経済的成長においても、人間中心のアプローチがますます求められていくと思っています。
皆様もご認識のとおり、社会は持続可能な発展に意識が向けられています。社会的変革やイノベーションを推進する上で、異なる背景や専門知識を持つ人々の話を聞き、新しいアイデアや解決策を考えるだけでなく、その過程で培われる連帯感や共通理解の土壌も大切です。このようなプロセスは、社会の多様性を力に変え、より革新的で包括的な解決策を見出すための基盤となります。
私は、引き続き様々なプレイヤーの方の考えを参考にさせていただきながら、長期的な視点も忘れずに、将来世代の福祉や環境への影響を考慮に入れながら、持続可能な社会への道を切り拓いていきたく、そういう観点からNFTの在り方を探っていきたいと思っています。