AIの社会実装が進む中での働き方、環境への向き合い方
9月25日、AOS DATE社が主催するフォーラムで一般社団法人日本情報経済社会推進協会の常務理事である坂下哲也さんによる「AIの社会実装と2030年ころの働き方」と題する講演を聴講しました。
この講演では、AI技術の急速な進展がもたらす社会の変化、特に生成AIの実用化が労働環境に与える影響について話されました。以下、その聴講記録をまとめます。
1.AI技術の発展と社会実装
冒頭では、AI技術の登場から今日に至る急速な進化、生成AIの登場とその影響について解説されました。2022年にOpenAIが生成AIのChat-GPTをリリースしました。計算能力や通信速度が飛躍的に向上した背景を利して、生成AIの社会実装が加速しています。中小企業でも生成AIの導入が様々な分野で進んでいます。
小規模製造会社が生成AIに商談候補先企業を選定してもらいピンポイントで営業を行ったら商談が成立した事例、挨拶状や外注依頼書を効率的に作成した事例など、AIが業務効率化に寄与している具体例が紹介されました。
2.生成AIの活用と課題
生成AIの限界やリスクもあります。例えば、生成AIに「法人税法190条」を聞くと、実際には存在しない条文を生成してしまうことがあります。これは、AIが現実にはない情報を補完しようとする「ハルシネーション」という現象です。
また、坂下さんからはAIの動作が高度になるほど、その説明が難しくなり、開発者やユーザーである私たちがその仕組みやアウトプットの内容を十分に理解した上で活用する必要性が増してくることも述べられました。
3.2030年の働き方とAIの役割
坂下さんは歴史的な観点での生成AIの位置づけを解説されました。産業革命がブルーカラー労働を生み出したことを踏まえ、AIの社会実装によりホワイトカラーの業務プロセスを細分化し、一部をソフトウェアで代替する未来に移行していることを述べられました。特に、AIが業務を効率化することで、働き方は大きく変わり、今後の企業ではAIを使いこなすことが求められると指摘しました。
将来のビジネスパーソンの就業形態は、AIをマネジメントしながら、創造性や生産性を高める方向にシフトしていくことが予測されます。
4.デジタルガバナンスの重要性
坂下さんは「デジタルガバナンス」の重要性について言及されました。ここで簡単にデジタルガバナンスについて解説します。
(1) デジタルガバナンスとは
企業や組織がデジタル技術を正しく活用するためのルールや仕組みのことです。デジタル技術が進化する中で、企業が正しくデータを扱い、セキュリティやプライバシーを守り、社会的責任を果たすためには、デジタルガバナンスが不可欠となります。具体的には、企業が顧客の個人情報を安全に管理し、データの利用が公正であることを保証するための方針やプロセスを定め、社員全員がそれを守るようにすることを指します。
(2) その他のガバナンスも加えた基盤整備
デジタルガバナンスに加えて、「データガバナンス」「セキュリティガバナンス」「プライバシーガバナンス」の視点も必要となってくるとのことです。これらの整備度合いが、取引にあたっての取引先管理の目安にもなるでしょう。
AI事業者ガイドラインや国際標準であるISO/IEC 42001など、ガバナンスのルールの企業への定着度合いが、今後、取引先選定において重要な基準として注目される可能性があります。
「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004.html
AIマネジメントシステムの国際規格(経済産業省)https://www.meti.go.jp/press/2023/01/20240115001/20240115001.html
5.これからの働き方、環境への向き合い方
AI技術の進化が私たちの社会や働き方にどのような変革をもたらすのか、気になっているテーマですので、坂下さんのお話は学びとなりました。上記のようにAIの社会実装が進展する中で、私たちの働き方やビジネスのあり方がどのように変化するのか、引き続き注目していく必要があります。
AIが社会や働き方に組み込まれ、AI活用が多くの前提となっている社会については可能性を感じますが、一部で危惧も覚えます。生成AIの利用において大量の水が消費されることは、あまり言われていない側面ですが、重要な環境課題です。
AIが行う膨大な計算に耐えうる、高性能なコンピュータの使用にあたって、それらのコンピュータの冷却も必要です。多量の水が使われます。生成AIやその他のAI技術が普及するにつれて、データセンターの稼働量も増加し、その結果、環境資源の消費が増えます。
例えば、データセンターの冷却にかかる水の使用量は、近年急速に増加しています。ある試算によると、大規模なデータセンターでは年間数百万ガロンの水が消費されることもあり、この環境負荷はAI技術のさらなる発展に伴い拡大が懸念されます。
私たちは、働き方の面で大きな恩恵を受ける一方で、社会の隅々にまでAIが実装される時代には、このような環境問題も考慮しなければなりません。
AIの発展が地球環境と持続可能な未来にどう影響を与えるのかについては、常に意識しながら、社会のあり方を見直していく必要があります。技術革新を進めるにあたって、環境に配慮した選択をする場面がくるでしょう。