見出し画像

日本における「第4の核の時代」に向けた議論

1.米中での原子力関連の最新ニュースの紹介

 エネルギー源としての安全性と経済性は、日増しに注目を高めています。世界的には「第4の核の時代」に向けて、中国、アメリカを含む世界各国で活発に開発されており、中国では大規模な国家プロジェクトの一環として、米国では多数のベンチャー企業によって研究が進められています。最近、両国発のニュースがありました。

 アメリカのケイロスパワーは現地時間の1月10日、溶融塩循環試験に成功したと発表がありました。2023年秋に実験を開始してきた中で、1000時間の連続安定稼働を確認したとのことです。2023年12月には実証炉「ヘルメス」について、米原子力規制委員会(NRC)から第4世代原子炉として初の建設許可を得ており、実用化に向け一歩前進した形です。


 また、中国では、山東省で世界初の第4世代原子力発電技術を商業化した華能石島湾高温ガス炉原子力発電所に関するニュースもありました。168時間の連続運転試験を完了した後、正式に商業運転を開始しました。このプロジェクトは、清華大学と中国核工業集団と共同で中国華能集団によって実施されています。高温ガス炉は第4世代の先進的原子力技術で、固有の安全性を備えており、冷却機能喪失時でも安全な状態を維持できます。さらに、発電効率が高く、幅広い応用分野に適用できる特性があるといわれています。


2.第4世代とは

 ここで第4世代とありますが、この世代については以下のような区分が言われています。

(1)第1世代(第1の核の時代)

 1950年代から1960年代にかけての最初の商業用原子炉です。安全性や効率の面で初期の技術を使用した形となります。

(2)第2世代(第2の核の時代)

 1970年代から1980年代に普及した原子炉です。第1世代の設計を改良した原子炉であり、現在世界中で最も一般的に稼働している原子炉のタイプにあたります。

(3)第3世代(第3の核の時代)

 1990年代から2000年代に開発された原子炉です。第2世代から安全性と効率の観点でのみのものとなります。第2世代の設計を基にしたわけですが、事故耐性や効率の面で大幅な改善を果たしているといわれています。

(4)第4世代(第4の核の時代)

 現在開発中の最先端の原子炉技術となります。より高い安全性、効率、持続可能性を実現することを目指しています。これには、炉心溶融のリスクが低い設計、長期間の運用寿命、使用済み燃料の有効利用、核拡散のリスク低減などが含まれます。トリウム溶融塩炉や高速増殖炉などはこのカテゴリに含まれます。
 「第4の核の時代」では、これまでの原子力発電の課題、特に安全性、廃棄物処理、資源の有効利用に対する解決策を提供することを目指しています。この背景には、原子力発電の新たな可能性として、持続可能なエネルギー源としての役割が強化されることが期待されています。


3.トリウム溶融塩炉について

 この第4世代の主役として注目されているトリウム溶融塩炉について概要をお伝えします。

(1)トリウム溶融塩炉の特徴

  • 高い安全性

液体燃料炉であり、炉心溶融のリスクが原理的にありません。冷却に水を使わず、水素爆発のリスクがありません。溶融塩燃料は漏れた場合もガラス状に固まり、放射性物質を閉じ込めます。

  • 低コスト

炉心構造が単純で、発電コストが安くなります。また、燃料の製造コストも軽水炉より低くなります。

  • 核不拡散

トリウムを燃料とし、プルトニウムの生成がほとんどないといわれています。

  • 豊富な核資源

トリウムはウランよりも3~4倍の資源量を持ち、地域的な偏在が少ないといわれています。

  • 核廃棄物問題の軽減

プルトニウムや超ウラン元素の生成が少なく、核廃棄物の処理が容易になります。

  • 負荷追従出力変動が可能

燃料の流量調整による出力調整が可能で、再生可能エネルギーとの併用が効果的といわれています。

(2)トリウム溶融塩炉の重要性

 トリウム溶融塩炉は、従来の軽水炉と比較して、安全性、コスト、使用済み核燃料の処理、核拡散問題において大きな改善をもたらす可能性を秘めています。
 具体的には、以下の点において、トリウム溶融塩炉は従来の軽水炉に優れています。

  • 安全性

 炉心溶融のリスクが原理的になく、水素爆発のリスクもないため、事故のリスクが低いです。燃料漏れが発生しても、ガラス状に固まって放射性物質を閉じ込めるため、環境への影響も少ないです。

  • 経済性

 炉心構造が単純で、発電コストが下がります。また、燃料の製造コストも軽水炉より低くなります。

  • 核不拡散

 プルトニウムの生成がほとんどないため、核兵器の材料として利用されにくいです。

  • 核廃棄物問題

 プルトニウムや超ウラン元素の生成が少なく、核廃棄物の処理が容易になります。

(3)トリウム溶融塩炉をめぐる今後の展望

 トリウム溶融塩炉は、まだ開発途上にある技術です。しかしながら、上記のように潜在的な可能性が非常に高いともいえます。さらなる研究開発が進むことは確実であり、実用化に向けた動きは注目しておかれたいです。

4 最後に(トリウム溶融塩国際フォーラム・セミナーのご案内)

 トリウム溶融塩炉をめぐる世界の最新動向、日本の取るべき道について知識と理解を深めるのに絶好の機会が2月3日開催の「トリウム溶融塩国際フォーラム・セミナー」です。エネルギーの未来についての貴重な議論が行われる予定です。よろしければお出かけください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?