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篠原眞 室内楽作品による個展 曲目解説

曲目解説(年代順)  篠原眞

Sonata <ソナタ>(1958) ヴァイオリンとピアノのための

このソナタは私の貧しい心の告白にすぎない。心は疲れ切って沈滞し、それに打ち勝とうとする活動は苛立ちを伴ってあがきとなる。休みも終りもない苦悩に満たされていながら、心は何の約束があるわけでもないのに何かを憧憬し期待している。
ソナタは慣習的な急緩急の3楽章よりなる。第1楽章はソナタ形式、第2楽章はリード(三部)形式、第3楽章はロンド形式で、3楽章を通じて同じモチーフが循環する。全体を通じて中心音はlaに置かれているが三和音は用いられず、調性は表面に出てこない。リズムは小節ごとに自由に変動することが多い。その他、リズムのパターンとその変化、メシアンのモード、クロマティスムなどが特徴であろう。

Obsession <執念>(1960) オーボエとピアノのための

オーボエは呪術的な序奏の後、数個の音よりなるそれぞれ異なったモチーフを段落ごとに順に提示してゆく。各モチーフはそれぞれの段落内で変化し増大しながら執拗に繰り返される。一方ピアノはオーボエの前後にずれたリズムでオーボエと並進行でそれを支え、更に周期的にピッコロのように鋭く、あるいは大きなタムタムのように強くオーボエのメロディを切断する。
音楽は静かに始まり、それから次第に高揚し、最高潮に達した後再び静かな後奏にもどって終る。
全体を通じてリズムは絶えず変動しハーモニーは半音的で調性はない。単音のクレッシェンド、半音階の速い装飾音、アッチェレランドのリズム、短い音価と長い音価の対決などが作品に独自の日本的性格を与えている。

Play <遊び>(1982) 管楽九重奏のための

作品プレイは6つの木管楽器(フルート、アルトフルート、オーボエ、クラリネット、ベースクラリネット、バスーン)と3つの金管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン)よりなるアンサンブルのために書かれた。
9人の楽器奏者は3人ずつよりなる3つのグループに分かれて、舞台上の左手・中央・右手に位置を取る。それらは、始めは3つの異なったそれぞれ3つからなる類似質のグループであるが、演奏の最中に2回奏者がお互いに位置を交換することによって、逆に3つの類似したそれぞれ3つからなる異質のグループに変化する。
このような統合のプロセスを通じて、3つのグループの形成の状態が存在するわけであるが、それぞれの状態に適応して、個人的または全体的の両観点からの音楽的構成が追及されている。
これらにつけ加えて更に音の空間運動が試みられている。それはグループからグループへ音奏を時間的にずらせることと、もう一つは奏者自体が奏しながら舞台上を移動することによって実現する。
総計21の部分が相次ぐが、それらはすべて純粋な音の遊びとしてのイメージから形成されており、それ以外の特定の表現を志向するものではない。

Evolution <進展>(1986) チェロのための

作品は45の短い断片で作られています。それらは反抗、内向、能動の3つの性格に大別されますが、反抗から始まって内向を経て能動で終わるように方向付けて接続されています。更に、作品全体としての統合のために、各断片からの抜粋が至る所に挿入付加されていて、それは次々に移り変わってゆく時の流れの中で、現在のどの瞬間にも過去と未来が関わり合っているという総合的な時間意識を作っています。
伝統的な音に加え、新しい奏法の開発による楽音から雑音に渡る様々の新しい音素材を加え、チェロの本性に則しながら、それに技巧的にも豊かな個性の展開がもたらされるように努めました。

Passage B <移り行き B>(2003) ステレオ増幅された木管四重奏のための

既作品「バス・フルートのための<パッセージ>」をテキストにして、それを木管四重奏に拡張した。すなわち、バス・フルートの単旋律を、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーンの4楽器に配分し、それを和声化し対位法的処理を施した。
作品は続けて奏される17の独立した短い楽句よりなり、個々の楽句はいろいろな感情と行為の状態を表現する。音素材は楽器から得られる音のみに限定されているが、通常の奏法による音に新しい奏法による多くの音(グリッサンド、マルチフォニー、キー雑音、息の混じった音、キーによるビスビグリアンド、スラップトーン、異なった音色やアタックを持った音など)が付加されている。

Septet <七重奏曲> (2013) フルート、クラリネット、トロンボーン、ヴィブラフォーン、ピアノ、ヴィオラ、チェロのための

この曲は14の場面からなり、それぞれ特有のソノリティ、アーティキュレーション、構造、及び形態によって特徴づけられている。
調性的な音の集中体や不確定な音の塊は避けた。
その他、各場面の間に他の場面の素材を断片的に挿入している。
これら種の異なる7つの楽器からなる共同体のアイデンティーを形成するため、それぞれの楽器の個体的及び集団的な聞こえ方のバランスを図った。

String Quartet <弦楽四重奏曲>(2016)

この作品は、音態(音のあり方)を示す12の部分と、それらの間にあって音響の移行を示す13の部分、計25の部分よりなっています。
12の音態というのは、1.柔らかい通常のグリッサンド、2.通常のスタッカート、3.ハーモニックスのグリッサンド、4.アコードのテヌート、5.トリルのグリッサンド、6.レガートのピッチのジグザグ、7.トレモロのグリッサンド、8.ピッチカート、9.アクセントの伴った鋭いノイズ保持、10.ノイズのスタッカート、11.波状のノイズ、12.鋭いノイズのトレモロの短い保持、です。
13の移行部分では、これらの音態が順次に重なり合って、音態の交錯状態が示されます。

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